「みんな甘えん坊」(前編)          その紛争は、とある日曜日の昼下がりに勃発した。          家族全員での賑やかな食事も終わり、僕は居間で食後のTVを床に敷いた座布団に座りながら見ていた。     未緒ちゃんは洗いモノ、おこちゃんはそのお手伝い、おここはその応援(汗     たまたま点けたチャンネルでゴルフ番組をやっていたけど、流石に地味すぎてみていてつまらなかったので、     チャンネルをカチャカチャ替えてみるが、どの番組もあまり面白くない。     さすがは日曜日の午後と言ったところか..。          気持ち半分にテレビを見つつボケーっとしていると、洗いモノのお手伝いを終了させたおこちゃんが     トコトコと台所からやってきた。 おこ:「てつパパ、なにやってるの?」     熱心にテレビを見ているようには見えなかったらしい。   哲:「ん? ただTVをボーっと見てるだけだよ、今日は午後から何をするかまだ決めてないしね。」     僕の言葉を聞くと、おこちゃんは少し何かを考えた後にニパっと笑って  おこ:「じゃあ、おこもてつパパと一緒にTVを見ながらボーっとするね☆」     と、ポテっと座りこんだ...座った場所は、僕のあぐらの上。   哲:「?? 座布団が向こうにあるよ?」     僕はおこ専用の赤い座布団を指差した。  おこ:「ここは、おこの特等席なの〜。」     けれど、おこちゃんは座布団に移ろうとはせず、僕のあぐらの上で笑っていた。   哲:「特等席?」  おこ:「うん、特等席!!」   哲:「それなら仕方ないか。」     僕は娘に非常に甘い父親かもしれない。     一緒にTVを見ていると、プロ野球のデーゲームの中継が始まった。     特に贔屓の球団があるわけじゃないけれど、接戦をしてくれれば見ている方も盛り上がる。     4番打者の逆転のホームランに、おこちゃんが飛びあがらんばかりに喜んでいた。     僕は喜んだまま転げ落ちないように後ろから手をお腹の方に回して軽く抱きとめてあげたのだった。  おこ:「やったー、やったね、てつパパ」     おこちゃんは喜んだ表情のまま顔と体をこちらに向けると、抱きつきながら顔をグリグリと     僕の胸に押しつけてきたのだった。     そしてそのまま、おこちゃん野球中継を見向きもせず、まるで喉を鳴らしながら擦り寄る猫のように     目を細めて笑っていた。     どうやらお昼からの一連の行動は甘えたい口実が欲しかった事から始まっていたらしかった。     (最初に僕のあぐらの上に座った時点で気がつけといわれれば、それまでなのだけれど...)   哲:「おこちゃんは甘えん坊さんですねー」     僕は頭をゆっくりと撫でてあげながら、少しだけ笑うように話しかけた。  おこ:「おこは甘えん坊さんなんです〜。」     おこちゃんは、自分で甘えん坊を認め、なお一層甘えてきた。     喉からゴロゴロって声が聞こえそうなほどに。     居間からキャッキャという楽しそうな声が聞こえたのだろう、おここが台所での応援     (ただ未緒ちゃんの足元にいるだけ)を一時中断し、こちらへ駆けてきた。     そして、ふざけている僕達を見つけ、  おここ:「キュ〜(僕も混ぜてー)」     と、その鼻先をおこちゃんと僕の体の間にねじ込んでくるのだった。  おこ:「おここ、邪魔だからあっち行って」     しかし、片手でクイっと押しのけられてしまったおここ。     遊んでもらえてると思ったおここは、もう一度鼻先をねじ込もうとしただった。     僕は片手を空けておここも抱っこしてあげようと思ったのだけど、  おこ:「今、てつパパに甘えてるんだから、邪魔しないで!」     と、おこちゃんの独占欲爆発で、また追い返されてしまったのだった。  おここ:「キュ〜!?(ガガーン(涙))」     どうやらおここも、本当に邪険にされているのに気が付いたらしい。  おここ:「キュ、キュ、キュ、キュ〜〜(うっ、うっ、うっ、ママさ〜〜ん(涙))」     目に涙を浮かべながら後ずさりしていくと、反転猛ダッシュで台所へと走って行ったのだった。     おここがあまりにも可愛そうだったので、おこちゃんの態度を少し窘めようかと思ったのだけれど、     おここのイジケ方がちょっと笑いを誘ったために、そのタイミングを逸してしまっていた。 * * * * *  <<台所>>     居間から逃げ出したおここが向かった先はもちろん台所です。     未緒ちゃんはお昼ご飯の片付けに引き続き、夕飯の下ごしらえを始めているようでした。     そこへ...  おここ:「キュ〜、キュ〜、キュ〜(ママさ〜ん、ねぇ、聞いてよ聞いてよ(涙))」     と、おここが泣き(鳴き)ながら駆けこんで来ました。     しかし、包丁を扱っていたために未緒ちゃんの視線は、おここへとはすぐに向けられず、  未緒:「どうしたの? 包丁を使ってるからもう少しだけ待ってね。」     おこことしてはかなりじれったい時間を待つ事となりました(律儀ですね)。  未緒:「はい、もう大丈夫よ。 おここちゃんどうしたの?」     切り終わったものを皿に移しラップを掛けて、冷蔵庫への貯蔵が終わった後、     視点をおここの高さまで降ろした未緒ちゃんがおここに話しかけました。  おここ:「キュ〜、キュ〜、キュ〜、キュ〜(あのね、あのね、おこちゃんが意地悪するの(涙))」     一生懸命おここは話しかけますが、もちろん未緒ちゃんにおここの言葉はわかりません。     未緒ちゃんの頭の上には?が飛び交います。     通じていない未緒ちゃんに、おここは「こっち、こっち」とばかりに、スカートの端を     咥えて居間の方へ来るよう促しました。  未緒:「はいはい、居間の方ね? それじゃあ一緒に行きましょう。」     おここの頭を軽く一撫ですると、未緒ちゃんは立ち上がり居間の方へと歩いて行ったのでした。         ((後編へ続く))