LADD権利カタログ
《 二の9 医 療 : 実 例 》

 Kさんはこのところ夜が眠れず、毎日強い不安感にとらわれているうえ、他の人には聞こえない声も聞こえるので病院に行ったところ、精神病と診断され入院するようにといわれました。この病院でいいかどうか不安なので知り合いなどに相談してみましたが、誰も何も知りませんでしたし、市役所や医師会も何も教えてくれませんでした(@)。

 諦めて入院すると様々な薬を渡され、のむと眠くなったり全身の力が抜けて何もしたくなくなります。しかし入院前の状態に戻ることには強い怖れがあり、結局この薬に頼るしかないと思うのですが、強い薬のようなのでいつまでものみ続けていいものか不安があります(A)。

 周りには何年も入院している人がいますし、退院してはまたすぐに戻ってくる人もいます。このままここにいたら、もう社会に戻っていけないような気もします。

 医師に聞いてみましたが十分な説明はなく(B)、ただ「医者を信用しなさい」と言われるだけでした。

 今の自分がどんな状態なのか、これから先の見込みや目標など、何も知らされないで治療を受けていくのは大変不安です。見舞いに来る人もなく、相談する人もない(C)中で、病気への怖れと共に治療そのものへの不信感も募っていきます。

 また退院できても、こんなに強い薬から離れられないようでは、元のような生活に戻れる自信はありません。

 誰か治療の全体像を親身になって説明してくれる人がいないと、安心して療養に専念できない状態です。

     

@病院を選択するのに必要な情報がない

 → 選択するのに必要な情報は公開され、患者に提供されなければならない。この公開は病院内だけではなく、広く一般に行われなければならない     A投薬や治療の方針についての説明がなされていない  → 医師は治療に使用する薬や治療の方針を患者に分かりやすく説明しなければならない  

B医師の判断のみによって治療が行われている
 → 医師は患者に何の情報も与えておらず、この医師の判断が正しいのかどうか分からない。医師の判断を客観的に検証できる仕組みが必要

      C多くの病院はそこで行う医療行為について閉鎖的で、患者の質問に答えてくれる仕組みも整備されていない  → 常に外部からの監視が可能な仕組みが必要で、さらに患者の不安を解くための相談システムの整備が必要    


LADD権利カタログ
《 U−9 医  療 》  

 

〈基本事項〉

 医療において「説明を受けた上での同意」が強調されて久しい。しかしこの考えだけで患者の権利を尊重したと言うのは不充分で、ここでは「説明を受けた上での同意、選択、拒否」に視点を広げて患者の権利を明確にする。
 患者を主体にした医療を考えるとき、医療機関による医療情報の公開、説明と患者による選択、それを実行できる受け皿の整備が必要であるが、特に現行の精神医療においてこの視点は不充分であるといわざるを得ず、ここでは精神医療について特に一項を割く。

 また眼科や歯科など小規模な医療機関の多い分野では、建物や診療設備へのアクセスの未整備によって医療機関の選定や医療そのものに大きな制約を受けることも珍しくない。
 このようなソフト・ハード両面の改善は、患者を主体とする医療の実現という方向で進められなければならず、ここではその骨格となるべき考え方を示す。

 

@障害を持つ患者の権利

1:障害を持つ患者は、障害を持つことを理由にして、他の大多数の患者に比べて以下のような不利な状況に置かれてはならず、国や地方自治体、医療機関や医療従事者はこのような状況が起きないことを保障しなければならない  
 a : 充分な情報を得られないこと
 
 b : 理解できる説明を受けられないこと
 
 c : 充分な選択肢を与えられないこと
 
 d : 同意や選択や拒否の機会を充分に与えられないこと
 
 e : 充分な治療を受けられないこと
 
 f : 過重な精神的負担や肉体的負担や金銭的負担を受けること

2:患者はどこでどのような治療を受けるかを自分で決定する権利を有する。(ここでいう決定とは、提示された医療行為に対する同意や選択や拒否を意味する)

3:医療従事者は医療行為を行うに当たり、患者の諸権利について患者本人が理解できるような方法で説明しなければならない。(注1)

 (注1:患者本人の理解能力や意志決定能力が不充分な場合は、この情報提供は本人および法律上本人を代理する者に行われるが、これはあくまでも代替手段であり、まず本人への働きかけが第一義的に行われなければならない)  

A情報提供

1:@の2で述べた権利を保障するため、全ての医療機関やそれを管轄する行政機関は患者が必要とする情報提供を行わなければならない

2:全ての医療機関やそれを管轄する行政機関は、患者本人および法律上本人を代理する者から求めがあれば、患者に本人の身体状況に関する情報を速やかに提供すると共に、患者本人が理解できるような方法で説明をしなければならない。(注1)

3:上記の情報提供は、患者本人または法律上本人を代理できる人の承諾なく第三者に開示されてはならない

4:全ての医療機関やそれを管轄する行政機関は、この権利を保障するための具体的な方策を策定しなければならない

5:上記の方策の策定には、患者本人または法律上本人を代理できる人、および医療機関や行政機関からの干渉を受けない独立した存在の非営利公益の第三機関が参加しなければならない

6:医師は患者に対し、行おうとする治療の内容、効果、問題点などを説明すると共に、他の選択肢が考えられる場合はその選択肢についても同様の説明を行い、患者自身による決定を援助しなければならない。この説明は患者本人が理解できるような方法で行われなければならない(注1)

7:1、2および6で述べた情報提供や説明は、患者に対して指示的、暗示的な誘導であってはならない

B物理的環境の整備

1:全ての医療機関は玄関・診療室・診察台・検査施設など患者が検査や治療を受けるのに必要な全ての施設・設備や、トイレ・病室・浴室など患者の入院生活に必要な全ての施設・設備について、障害をもつ患者が利用できる物理的なアクセスを整備しなければならない  

C精神医療

1:国や地方自治体は精神医療において、診断と治療行為の初期の段階からその手順を明確化した上で時間的制限を付けて、不明確、不必要な治療が行われない仕組みを確立しなければならない

2:上記の仕組みの中で、国や地方自治体は医療機関に対し、診断と治療の各段階において適切な医療行為が行われたかどうかを判断するための報告を求めなければならない

3:上記の報告は、患者本人または法律上患者を代理できる人、および医療機関や行政機関からの干渉を受けない独立した存在の非営利公益の第三機関が参加した検討会によって、その治療の適否が常時検討されなければならない

4:上記の検討において、患者に関する秘密保持は最も尊重されなければならない

D監視・改善システム

1:国や地方自治体は、医療における問題点について検討し、是正させる権限を持つ機関を設置しなければならない。この機関には患者本人または法律上患者を代理できる人、および医療機関や行政機関からの干渉を受けない独立した存在の非営利公益の第三機関が参加しなければならない

2:各医療機関は患者の権利を守るための相談システムと問題点を改善するシステムを持たなければならない。この相談システムは、医療機関や行政機関からの干渉を受けない独立した存在の非営利公益の第三機関によって運営されなければならず、患者本人または法律上患者を代理できる人が参加しなければならない

3:1、2で述べた活動を行う第三者機関は、患者本人または法律上患者を代理できる人の承諾を受けて、病院内に立ち入って医療記録を閲覧したり、患者に対する聞き取り調査や病室の訪問などを行うことができる。ただしこの活動の細目は1、2で定められていなければならない

4:1、2、3の活動において、患者に関する秘密保持は最も尊重されなければならない  

E適切な医療への研鑽

1:医療従事者は障害を持つ患者への医療行為に当たり、当面の症状への治療のみならずその治療が患者の障害に対して悪影響を及ぼさないよう充分留意しなければならず、そのための情報収集や学習を怠ってはならない

2:上記の目的のため、国や地方自治体、医師会は情報収集を容易にする仕組みを作ると共に、医療従事者が障害と障害をもつ人を正しく理解できるための学習の機会を提供しなければならない

3:上記の情報収集において、患者に関する秘密保持は最も尊重されなければならない  

 


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