「はがね」映画評


■ 映画評論家 近森 邦子 (シネ・フロント218号、226号より抜粋)
日本映画、中嶋 莞爾の『はがね』は、私にとっては驚異の作品であった。

そびえる鉄工場と廃屋の工場跡地を舞台に、絵筆を取る瞬間を待ち続ける老画家と、廃鉄の部分品と遊ぶ少女とのふれあいを、この上なく美しいイマージュで描き出した映画である。

十九世紀末に発達した重工業が、二十世紀末にハイテクノロジーにとってかわられ、忘れ去られてゆく鉄工場が吐き出す物音と動きが、まるで別離の叫びを上げているかのように見えた。
なお、監督に言わせるとこの映画の主人公は物質とのこと。

脚本・演出・撮影・音楽を全部自分で手がけた監督は僅か二十四歳の青年だという。

『はがね』は昨年のマンハイム国際映画祭に出品され、一部の人々に高く評価されたものの受賞には至らなかったが、フィゲイラ・ダ・フォス国際映画祭ではその新しい映像感覚の素晴らしさと哲学的コンセプトの深さに魅せられた人が多く、フィゲイラ・ダ・フォス市賞とシルバープレイト賞の2本を同時受賞した。
 
■ 映画評論家 渡部 実 (優秀映画観賞会 会報誌 512号より抜粋)
これは鉄についての具体的な記録映画ではなく、うらぶれた廃墟の工場跡地を舞台にそこに氾濫する鉄鋼などの物質、それら役割を終えた物たちと人間との関わりを詩的に表現した映画である。

工場の跡地を風景に留めようとする老人の画家とそこに現れる少女との交流の中に、合理主義的な効率優先で進んで来た現代社会が失ってしまった人間の心の拠り所のようなものを模索する内容がテーマと言える。(中略)

中嶋 莞爾 監督は1970年生まれの今年28歳の若手である。
今の疲弊した機械文明に向ける作者の思いと批判が監督の自由な映像の発想によって表現されている点がユニークと言えよう。
 

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