◎ 歴史

◆木製の大桶出現で手工業的基盤が確立 平成11年2月15日
現在営業している醸造場の創業を調べてみると、古いところで文禄、慶長年間、それ以前というのはあまり聞きません。16世紀の末で、太閤秀吉が天下を統一した直後、各地の大名が戦国時代を終えて、街づくりに励んでいた時代ですが、同時に大桶を作る技術が完成した時代でもあります。室町時代には、酒は壺で仕込まれていました。壺では、せいぜい1〜2石の仕込みしか出来ませんから、各酒造家の生産量は自然と制限されます。ところが木製の桶となると30石容ぐらいのものも可能となり、生産量も飛躍的に増大し、近代的手工業の基盤が確立するわけです。従って、17世紀以降になると、酒造家が記録した酒造技術に関する文書が見られるようになります。そのなかならめぼしいものをあげてみましょう。寛文年間(1661〜1673年)に京。大阪で酒造りの勉強をしてきたご主人の筆記録が新潟県のある酒造家に保存されています。その中で興味を引かれているのは、みりん、あるいはそれに類似した酒の造り方が幾通りも書いてあって、「酒できて辛口に候ばもろみへも入れ伸ばし、また夏酒に用い候えばなおなお良く御座候」と記されていることです。みりんの原料には、焼酎が使われます。本格焼酎の製造技術が南九州に渡来したのは、16世紀と考えれていますが、その後わずか100年程度でみりんを実用化された日本人の技術的な応用力は大したものである。それと、甘い酒を得るためにいかに努力しているかということです、今でも気温が高いときに酒を造れば薄辛い酒になってしまいます。当時の人の嗜好が、いかに甘い酒に価値を認めたいたかが想像されます。しかし、そのためにみりんをもろみに添加していたというのはさらに驚かされます。日本人の合理的な考えの現れでしょう。近頃、清酒原料にアルコールや糖を使うのはニセモノだという論議が一部の人達によってなされていますが、酒の歴史や日本人の合理性を理解しないものではないでしょうか。

◆技術革新は、15から16世紀僧侶の手によって 平成11年1月31日
つづく15から16世紀は、日本酒造りにとって技術革新の時代でした。次項で述べる三段仕込みや火入れといった清酒造りの特徴的な技術は、このじだいにの寺院で僧侶にとって完成されたものです。わいん造りでも僧院の修道僧が活躍しましたが、日本でも寺院のなかにあった鎮守さまにそなえるために酒が必要だったのでしょう。特に当時のインテリ段級であった僧さん達は、旨い酒を造って信徒の信頼を得るためにも技術をみがいたものと思われます。これらの技術を総合して「大和諸白」と呼ばれる清酒が生まれたわけです。16世紀の終わりの頃と言われています。

◆発祥は7世紀? 平成11年1月14日
清酒が澄んだ酒になる以前、濁ったままの酒が存在していたと思われますが、現在の清酒の味の特徴を考えるためにその時代にさかのぼって考えてみたいと思います。日本に農耕文化が成立したのがいつ頃であるかは現在でも色々研究されていますが、稲作文化の渡来は紀元前2〜3世紀とされています。日本酒を「米の酒」としてとらえるならば、その歴史は稲作とともに始まった弥生時代以後を考えれば良いでしょう。日本人とお酒についての一番古い記録は、紀元後三世紀に書かれた中国の歴史書で、そこには「人情酒ヲ嗜ム」とか、人が死んだとき他人が集まって歌舞飲酒すると言った風習が書かれていますから、当時お酒があったといえます。日本でお酒の製造方法を詳細に記録した最古の書物としては10世紀に作成された「延喜式」が現存しています。この書物は、7世紀に成立した律令国家の政治をどのようにとりおこなうかについてこまかく規定したものです。その中に「造酒司」という項があり、色々な酒のつくり方が書いて有りますが、そのほとんどが米の酒ですから、日本での米の酒の成立は、少なくとも7世紀までさかのぼることが可能です。しかい、民間では、今のように酒販店でいつども誰にでも買える時代だはありませんでした。季節季節の農耕祭礼、豊作予祝や収穫感謝のお祭りのとき酒を造り、神にそなえたのち,そのお流れを直会(なおらい)のかたちで頂戴し、それ以外の日々は飲もうにもお酒がなかった時代といわれています。政府が積極的に醸造業を支援し始めたのは室町時代に成ってからで、14世紀のことです。その陰には禁裏財政の一助として酒屋に課税するという目的があったわけで、思えば酒税の歴史も長い物です。

◎ 酒 母 ★酵母・細菌

◆協会15号酵母 平成10年12月6日
秋田県醸造試験所が育成した吟醸用酵母・花酵母(AK-1)が平成8年度よりきょうかい15号酵母として頒布された。TTC染色は赤色、βーアラニン培地で35℃で増殖しない。また、マルトースの発酵性・資化性が強くαーエチルグルコシドの資化性が弱いこと、カプロン酸エチルの生産性が高いことなどの性質を有していることよりきょうかい7号酵母の自然突然変異株と考えられている。泡なし性であり、有機酸育成が少ないなどの特徴をもち、低温長期型の発酵に適しているとされている。

◆協会14号酵母 平成10年11月19日
金沢国税局管内で使われていた「金沢酵母」群の中から吟醸香生成能の高い株として選択された酵母である。平成7年度から日本酒造協会により全国頒布されている。性質は、きょうかい9号酵母と類似しているが、増殖能、生酸性、香気生産能において違いが見られる。特性としては、酸が少なく低温中期型のもろみのとることがあげられ、高精白で低温経過をとる吟醸酒、純米酒など特定名称酒に特に適した酵母である。

◆協会13号酵母 平成10年10月30日
昭和56年頃、原氏によってきょうかい9号酵母ときょうかい10号酵母お交配株から分離された、発酵経過はこょうかい9号に類似しており、低温短期または低温中期型もろみに適しています。

◆協会12号酵母 平成10年10月30日
昭和41年頃、宮城県の浦霞酒造から、分離された酵母で、芳香の高い吟醸酒向きの酵母です。

◆協会11号酵母 平成10年10月8日
昭和50年頃に原氏により、きょうかい7号酵母から分離されたアルコール耐性の強い酵母をいう。昭和53年頃より頒布された、TTC染色性、βーアラニン培地での生育性のほか一般的な性質はほとんどきょうかい7号酵母と変わらないが、もろみの末期におけるアルコール添加後の酵母の死滅率は低い。製成酒は一般にアミノ酸が少なく、色が薄く、貯蔵中の着色が少ないという特色がある。しかし、酸の生成はやや多くなる(特にピルビル酸とりんご酸)傾向が見られる。貯蔵段階における火持ちも良く。また醸造時には、この酵母がキラー耐性を有することから野生キラー酵母に汚染される危険が少ないという優れた特性を持っている。

◆協会十号酵母 平成10年9月22日
昭和27年に小川氏らによって東北6県の醸造所のもろみから分離された酵母のうち、特に性質の勝れたものを昭和33年頃から茨城県食品試験所ならび明利酒造株式会社で製造販売してきたが、昭和52年よりきょうかい10号酵母(明利小川酵母)として頒布されて現在に至っている。本醸造の性質は今まで使用されてきたどのきょうかい酵母よりも生酸が少なく、吟醸香も高いことが特徴である。もろみの経過は低温長期型が望ましく吸水は充分に行うことが好ましい。

◆協会九号酵母 平成10年9月2日
昭和28年頃、野白によって熊本県酒造研究所のもろみにより分離されたのが熊本酵母で昭和43年からきょうかい9号酵母として日本醸造協会より頒布されて現在に至る、吟醸造りに適する。細胞の大きさは5.4〜7.5μm×4.6〜5.0μmであり,形状は卵円形である、TTC染色は赤色で、巨大集落は中央に凹みがあり、深くて密な放射状襞がある。醸造上の特徴は低温でよく発酵する酵母であって、落泡状態も発酵力が強い、泡は軽くて、しかも低い、地になるもの早いので、前急短期型もろみになりやすく、製成酒は酸度も少なくて香気も高い。

◆協会八号酵母 平成10年8月5日
協会八号酵母は塚原氏によって昭和35年に協会6号酵母の変異株として分離された。協会6号酵母よりも発酵がゆるやかな型の酵母で淳良な香気を放つ、細胞の大きさは5.0〜7.5μm×3.4〜6.1μmで、TTC染色は濃桃色を呈し、巨大集落は表面平滑で、放射状襞がほとんどない。昭和38年から頒布されたが昭和52年より頒布は中止された。

◆協会七号酵母 平成10年7月12日
協会七号酵母は昭和21年に山田氏塚原氏によって長野県の宮坂酒造(株)より分離され、真澄酵母とも言われているきょうかい6酵母によく似ており細胞の大きさは4.9〜7.9μm×3.9〜5.5μm卵円形の形状を示しTTC染色は赤色である。巨大集落は中央が凹み粗い放射状の襞がある。糖の消費は協会6号酵母より劣るが香気は華やかで吟醸かが高い。きょうかい7号酵母は下面酵母的(呼吸能力が比較的弱く、発酵能が強く、皮膜形成性がやや弱く)性質を備えている。現在最も多く使用されている清酒酵母である。現在のきょうかい7号酵母の特性は無機窒素源培地で35℃おける培養おいてパントテン酸を必須に要求し、βーアラニンによって代替されない.他の清酒酵母は同じ条件でパントテン酸を要求してもβーアラニンで代替し得る。なおきょうかい7号酵母も25℃以下の培養においてはβーアラニン培地で増殖が可能である。この性質を利用して他の清酒酵母(主としてきょうかい6号酵母)ときょうかい7号酵母を識別することが可能で、酒造工場におけるきょうかい7号酵母の純度を測定することができる。

◆協会六号酵母 平成10年6月8日
協会六号酵母は秋田県の新政酒造で昭和10年に小穴らによって分離された。おだやかで澄んだ香りを発し、湧付前後において果実様の芳香を放ち、発酵力も旺盛であるのみならず、製造酒に芳香を付し旨味を与える。細胞の大きさは5.0〜7.7μX3.6〜4.6μで形態は卵円形である。TTC染色は赤色で、パントテン酸の要求性はプラスでその巨大な集落は中央が凹み、細かい放射状の襞がある。、6号酵母は糖の消費のよく、上面酵母的(呼吸能が強く、発酵能が比較的弱く、皮膜形成性が強い。)な性質を多く備えている。昭和9年に5号酵母として頒布され、その翌年から現在なお日本醸造協会より頒布されている。

◆協会五号酵母平成10年5月21日
広島の賀茂鶴の酒母および新酒から大正12年頃に分離された、形態は楕円形の細胞が多く、他の酵母とよく区別することができる。醸造中の特徴は発酵力が旺盛で、泡がよく粘る、香気が特に優良で果実様芳香の出ることが多く、中温、低温に適する。大正14年から昭和11年まで頒布された。

◆協会二号酵母平成10年5月7日
協会二号酵母は明治末期に、月桂冠の新酒より分離されました。形態は小さな真円形の細胞である。顕微鏡下で一見して他の酵母と区別することが出来る。生理的にも他の協会酵母と著しく異なり染色率が高く、醸造的特徴としては、初め間は発酵緩慢のようであるが、後に発酵が旺盛となり、低温に適してかつ泡が軽く、香気も優良であった。大正6年から昭和14年まで頒布された。

◆協会一号酵母 平成10年4月21日
明治39年に高橋氏によって桜正宗の酵母より分離されたのが、協会一号酵母である。形態は大きな短楕円形の細胞が多く、まれに変形的な長い細胞もある。デキストリン。マンノース、ガラクトースおよび乳糖をも発酵する。醸造的特徴としては、性質強健、香気は平凡であるが高温に適し発酵経過は順調である。要するに普通型の清酒酵母とも言うべき物である。大正5年に試用され以後昭和10年まで日本醸造協会より甲種の瓶詰め清酒酵母として頒布された。

◆協会酵母 平成10年3月26日
醸造協会が創始された明治39年に協会酵母は、純粋培養の清酒酵母として製造が開始され頒布された。これには明治37年に醸造試験場が設立され速醸元法が確立したため、純粋な清酒酵母の頒布が必要になった背景があった。最初の頒布方法酒母一個元に添加する酵母の所要量を瓶詰めして頒布された。大正5年までは甲種清酒酵母(瓶詰)として頒布されたが大正6年以降は第1号から第6号まで種別番号を付記して各種の酵母の供給がされ、昭和15年には第6号のみ頒布され、その後第7号・第8号・第9号・第10号(明利・小川酵母)、アルコール耐性酵母が次々と現在に至るまでアンプル詰(アンプル詰は昭和42年以降)で頒布され協会アンプル詰め酵母と呼ばれている。

◆泡なし酵母 平成10年2月14日
泡なし酵母とは、もろみ発酵の高泡期に泡を発生しない酵母のことである。この酵母については大正五年高橋氏及び善田氏が報告しているがその酵母の性質がさほど優秀でなく当時はかえりみられなかった。昭和38年になって秋山氏らが山陰地方の酒造場から泡なし酵母を分離してから本格的な研究が始められた。しかしこの酵母も製成酒の品質が劣ることから実用化されるに至らなかった。さらに昭和46年に大内氏および秋山氏は優秀な清酒酵母から泡なし変異株を分解することを試み、その選別法を開発して協会7号酵母の泡なし変異株を分解した。その後、大内氏および布川氏はさらに新しい分解法を設定して協会6号酵母からも泡なし変異株を分解した。この2種の変異株により試醸を全国的に行った結果、泡が立たなくても製成酒の品質も良好であり、発酵タンクの効率増進や労務管理に役立つことも確認された。

◆圧搾酵母 平成10年1月29日
酵母は利用時の形状により、それぞれ名称が付けられている。液体培地に純粋倍養されたままの状態のものを液状酵母、液体培地で沈殿した酵母菌体を上澄液と分解した泥状のものを泥状酵母という。泥状酵母を圧搾機で脱水し水分を70%位したものを圧搾酵母といい、これは従来はほとんどパンの製造に使用されていたもので圧搾酵母といえばパン酵母を指す場合が多かった、近年、清酒酵母にも利用されている。酵母を10%以下に脱水したものを乾燥酵母といい、清酒用、製パン用、薬用、肥料用、などの用途がある。目的により乾燥方法は異なり、棚式乾燥、ドラム乾燥、噴霧乾燥などがある。圧搾酵母に比し乾燥酵母は発酵力ば劣るが、有効保存限度は3〜6ヶ月と非常に長い、純粋培養酵母を遠心分解、圧搾、乾燥などにより脱水したものを総称して固形酵母という。

◎ こうじの種類

◆麹の香り 平成10年1月17日
こうじは製麹中に種々の香りを発生するもので、その香をりを形容する色々の言葉がある、蒸米香は蒸米様の香りで製麹過程が進むに従って消失する。もやし香は種こうじ様、栗香は焼き栗のような香り、おはぐろ臭は酢酸鉄様、きのこ臭はきのこのような香りで、いずれも製麹行程中に発生して製麹経過とこうじの判断に使われる。
湿気臭は製麹中に湿気の多い時に発生するカビ香である、熱香は品温経過が高すぎる時、老ね香はこうじを長くこうじ室中に置きすぎた時に感じられる香りで、いづれも悪い香りとして使われる。



◆麹を評価する二つの基準 平成10年1月3日
麹を評価する場合、突き破精型(若い麹)と、総破精型(老ね麹)の2つの基準がある。「破精」とは、麹菌の菌糸が白く見える状態をいい、「ハゼる」とか「よくはぜこんでいる」という表現を用いる。
<総破精型(老ね麹)>
麹室の中で成長した時間が長く、表面にも内部にも総対的に麹の菌糸がハゼ込んだいるもので、菌糸が多い分、酵素の成育が進んで糖化力が強い。
<突き破精型(若い麹)>
ハゼ込んでいるところと、ハゼていないところがまだらになっているが、米の内部までよくハゼ込んでいる麹で、糖化力は総破精型に準じるが、端麗な酒質になる。



◆酒母こうじ 平成9年12月28日
酒母麹(もと)仕込みに用いる麹のことをいい、酵素力価の強い麹菌株を使用するが、掛けこうじより製麹時間を長くした老ねこうじであることが必要である。酒母仕込みでは通常30%前後のこうじ歩合である。


◆掛けこうじ 平成9年12月16日
もろみの仕込み(初添、仲添、留添)に用いられるこうじの総称で使用区分により(初)添こうじ・仲(添)こうじ・留(添)こうじと呼ばれる。酒母麹より若目。一般に初添こうじは仲・留めこうじより在室時間2〜3時間長くして酵素力価をやや強くすることが行われているが、機械製麹では一部の在室時間をのばす事が困難なため初添こうじも仲・留添こうじと同時に出こうじすることが多い。


◎ 製 造 こうじ

◆胞子(分正子) 平成9年12月1日
カビ類の繁殖は主として胞子(分正子)によって行われる。一般に麹菌の胞子と呼んでいるのは微生学上は分生子である。胞子は適当な環境のもとでは発芽し菌糸になり、やがて菌糸体をつくる。黄こうし菌の直径は2〜8μ位の球形の表面に小突起を有するものと無いものがあり、醸造用のアスペルギルス オリゼーは突起を有する。その超薄切片を電子顕微鏡で観察すると外側は厚い胞子外壁で、その内側の薄い細胞膜に包まれた細胞質には核、ミトコンドリアその他の細胞顆粒がみられる。細胞壁は多糖質、キチン質等の含量が多く外壁にはこの他に特殊な物質が含まれているとみられる。細胞質には糖、硫酸エステル、ポリリン酸等が含まれ、胞子発芽の細胞内基質として重要な役割を演じる。


◆変異株 平成9年11月13日
一般に生物は特殊な外的条件、刺激等により遺伝子に変異が起こり、形態的、形質的に親株と性質を異にする場合が生じる、これを変異といい、親株に対し変異株という。例えば紫外線やX線、ナイトロジェンマスタードなどの化学薬品によって積極的に変異株を造り、その優秀なものを利用することが行われている。紫外線照射によりメバノン酸生産能やこうじの褐変性の低下、マミラーゼ力の増強などが清酒用麹菌で行われている。紫外線照射で麹菌の造る蛋白分解酸素が親株の2倍に達する変異株が造られる、醤油工業に応用されて生産能率をあげている。しかし、高生産変異株に共通の悩みは、もどり現象があることである。せっかく高能力の菌を使用したつもりでも、植替えを3〜4回もすると、その中の菌の数10%はもとの低能力の親株にもどっていることがある。変異株を工業的に使うためには、いつも優秀菌の分離を繰り返し保守していなくてはならない。



◆培地のC・N 平成9年11月3日
炭酸源は主として菌体の力源的代謝に用いられる。カビ類に広く用いられる炭酸源はブドウ糖であるが、その他有機酸、アルコールも炭酸源として利用される。利用される炭酸源の範囲は微生物によって異なり、8種類しか資化できなかったものから90種類の炭素化合物を利用するものもある。窒素源は主に菌体の構成的代謝に用いられる。培地中の窒素化合物を利用し、自己の蛋白質を合成して生育する。しかし利用される窒素化合物は微生物の種類で異なり、アスペルギレルスは、硝酸塩やアンモニウム塩を利用するが、乳酸菌などはペプトンのような有機化合物でなければ利用できない。



◆発芽(期) 平成9年10月20日
胞子は発芽の進行とともに実質的に膨潤し、発芽管が突出してくるまでには第一回の核分裂を終わっている。発芽管の突出は、普通胞子表面上の1個所または相対する2個所から起こる。黄こうじ菌胞子を液体培地で培養すると、培養1時間以内の発芽初期反応に必要な条件は、水と炭酸ガスと適温である。初期の特徴は、炭酸ガス以外に外部からの物質の供給にはほとんど依存せず、専ら細胞内に備蓄していた貯蔵物質の消費でまかなっている。従って蒸溜水中でも胞子の発芽の初期反応は起こる。培養1時間以後の後期に入ると、急速にリボ核酸や蛋白質の合成が活発となり呼吸活性も増大する。基質は無機の窒素源と炭水化物に切替えられ、培養後3時間程度すぎた頃から発芽管の伸長が始まる。アスペルギルス オリゼーの胞子はアラニン、アルギニンプロリン、ヒスチジンおよびパントテン酸とイノシトールの存在が発芽を促進する。蒸米上での胞子の発芽は、吸収するのに3〜4時間かかり、接種ご10時間前後で発芽する。


◆こうじ菌  平成9年10月10日

麹菌(こうじカビ)とはわが国の醸造産業に使用するこうじを製造するこうじカビ属、Aspergillus(アスペルギルス)属の糸状菌を総称する。植物分類状上」は、高等微生物の中の菌類に属する。
1)Aspergillus oryzae(アスペルギルス オリゼー)菌叢は黄緑色で清酒、味噌、醤油、みりんなどの製麹に用いる。
2)Aspergillus tamarii(アスペルギルス タマリイ)菌叢は褐色でたまり味噌、たまり醤油の製菌に用いる。
3)Aspergillus sojae(アスペルギルス ソーヤ)菌叢は濃緑色で醤油の製菌に用いる。
4)Aspergillus awamori(アスペルギルス アワモリ)菌叢は黒褐色で泡盛の製菌に用いる。
5)Aspergillus usamii(アスペルギルス ウサミ)菌叢は黒褐色または褐色で焼酎用の製菌に用いる。


◆菌 糸 平成9年9月30日
一般にカビ・キノコ類は菌糸を伸ばして栄養をとり、繁殖のためには各種の胞子を形成する。菌糸のうち基質の中に入り込んだり表面に密着して広がるものを栄養菌糸または基中菌糸と呼ぶ空気中に伸びるものを気菌糸という。こうしたカビの菌糸は、隔壁を備えて気中菌糸の一部が空気に伸長して胞子柄ができる。糸状の菌糸の集合した菌糸体と、胞子を付ける子実体の発育全体を菌叢という。

◆黄こうじ菌 平成9年9月23日
こうじ菌(こうじカビ)の代表的菌種で日本では清酒、味噌、醤油、みりんなどの製造に種こうじ菌として古くから用いられている重要なカビである。菌叢は初め白色であるが、胞子ができると黄色から黄緑色になるのでこの名がある。他に黒麹菌、白麹菌などの菌種もある。老培養菌叢の色は褐色を呈する。※アスペルギルス オリゼー、タマリイ、ソーヤなどがこれに属する。 ※次の次で説明いたします。

◆蒸し米上での麹菌の増殖 平成9年9月18日
蒸米は,麹菌にとって適度な水分と栄養源を含んでおり、麹室という高温多湿の室は、適度な温度と湿度条件となり、空気(酸素)も充分にあるという好条件の元で種麹の胞子が接種されれば、数時間の内に胞子が発芽、菌糸が伸び、また蒸し米の内部へも菌糸が挿入していく。麹菌の増殖は、胞子を接種して約20時間後から急激に増大し、48時間で最も最大に達する。この菌体重の増加に比例して酵素の生成量が多くなる。麹菌は胞子接種から出麹までの間、1sの白米あたり約27gのブドウ糖を消費し、そのエネルギーにより生命活動を行う。

◆ 麹 の 役 割   平成9年9月16日
麹は、蒸米に麹菌を増殖させたものである。麹菌は蒸し米上で増殖すると同時に各種の酵素を菌体外に分泌する。麹菌自体は空気中の酸素を必要とする好気的な微生物であるため、空気の存在しない醪の中では生きることが出来ず死滅してしまう。麹菌の生産した酵素はタンパク質の一種で、生物でなく物質であるため醪中に残在るし、酵素作用を発揮する。日本酒醸造は、酵母によるアルコール発酵(酵母のような微生物が、自己のもっている酵素の力でアルコールにする作用)によるが、主原料となる白米中のデンプンやタンパク質などは、酵母が利用できない高分子物質の状態にあるため、麹菌の生産する酵素をもって、酵母が利用できるブドウ糖やアミノ酸段階までの形に変えることが麹の最も大きな役割である。


◎ 原 料 処 理 

◆ 蒸 米 の 冷 却   平成9年9月12日
蒸し米は掛米としてそのまま仕込みに使用される区分と、麹に使用される区分の二つに分けられる。掛米はさらに酒母、初添、仲添、留添と区分され、それぞれ仕込み温度が異なるため、使用区分に適したまで冷却しなければならない。
この行程の仲で、空気を蒸米層に通しファンで強制吸引し、蒸米から蒸発潜熱を奪うことにより冷却し取り出す事が広く行われている。冷却温度は米層の厚さと排風量と、取り出しコンベアの運転速度によって調整する用になっている。


◆ 蒸 し    平成9年9月7日  
蒸しの目的は、適度に水を吸わせた生米を、蒸気で加熱する事によって、米の生澱粉をα化し、麹菌の生産する投下酵素の作用を受けやすくするためである。また、加熱によって米を殺菌し以後の醸造行程を安全に遂行するためでもある。 よい蒸米とは、さばけがよくて外硬内軟なもの、つまり、安全にα化され、適度のかたさを保ち、表面がべたつかないものを指す。蒸米の硬軟は、以後の製麹管理と醪中の米の溶解に大きな影響を与えるので、大変重要な行程である。


◆ 糊化(α化)・老化(β化)  平成9年9月3日  
澱粉に水を加えて加熱していくと、澱粉単位は水を含んで膨潤して次第に延びが広がり、ついには崩壊して糊上になる。このような一連の変化を糊化という。生澱粉は規制的な結晶構造をもっているβー澱粉で、糊化したものは結晶が崩れてαー澱粉になっているので糊化のことをα化ともいう。澱粉はαー化することによって酵素による消化を受けやすくなる・α化した澱粉を低温に置くと再び結晶構造がもどりβー化する。この現象を澱粉の老化という。酒造用語で蒸米の老化といぅのは、α化された蒸米を放置することによって蒸米が硬化し消化性が低下することをいぅ。蒸米の老化と蒸米澱粉の老化とは、必ずしも一致せず、蒸米を放冷することにより組織が硬化して蒸米の消化性を低下させていることも原因となつているが、蒸米を放置することによって消化性が低下する度合を老化度と呼んでいる

◆ 洗 米 平成9年9月1日
白米を水洗することで、白米の表面に付着するぬかを除くここを目的とすることが、洗米中に白米の表面が摩耗し、二次精米の効果を兼ねており、その量は1〜3%ともいわれる。また、カリウム、蛋白質等が流出し、10〜20%の水分が米に吸収される。大正年間には水洗い、足洗いが行われ、米とぎ唄を歌いながら70回、50回、30回といわゆる七五三洗法で行った。手洗いから機械手廻し、次いで連続洗米機、ソリッドポンプが使われるようになった。ソリッドポンプは洗米と同時に輸送を行うことができる。洗米の水量は白米量の3倍量から10倍量が通常である。


◆ 浸 漬  (しんせき) 平成9年8月31日
白米を水につけて吸水させることを浸漬という。 浸漬中の吸水量は、米の種類、白米の水分、精米歩合浸漬水の水質、水温などによって変わるので吸水量の多少は普通浸漬時間で調整する。浸漬の適温は10〜15℃といわれ、低温浸漬では吸水量が増加する傾向がある。吟醸酒用の低精米歩合の白米は、吸水が過剰になるので、ざるで分単位の浸漬を行う。


◆ 掛 流 し    平成9年8月28日
洗米した白米は浸漬タンクに入れて水につける。このタンク(または桶)の下部より水を注入し、上部より溢流させることを掛流しという。掛流しによって米の蛋白質も流出するが、カリウムの流出が大きい。従ってもろみの発酵緩慢になる。掛流しをする時期と時間は、水質、精米歩合、米質などを考えて行う。もと米、こうじ米は掛流しを行わず、掛米の中でも留の掛米のみ掛流しを行う場合が通常である。

◆ 赤 め し    平成9年8月28日
気温の高い場合、浸漬を終了して水切りをしている白米に細菌(シュードモナス属菌)が繁殖し、蒸した後赤褐色に着色する場合があり、これを赤めしという。赤めしには全般に赤くなる場合と洗米機の網に付着した米粒が赤くなって混入する場合とがある。この色素は蒸米に吸着されるので酒には移行せず、かすに移行する。通常温暖時に水切時間を長びかせず、浸漬時の水温を15℃以下にして浸漬水を微酸性にすることによって防止できるが、基本は洗米機、浸漬タンク等を徹底的に洗浄することである。

◆杜氏について (酒造りの職人)
各地方の蔵元により酒造りは異なってくるので、杜氏がどの地方の出身かという事は重要である。

津軽の蔵元で修行し、杜氏となったものは津軽杜氏と呼ばれこの杜氏が
岩手の蔵元で酒造りを行っても南部杜氏とは呼ばれず、ラベル等に記載す
る場合も津軽杜氏○○となる。
日本酒の醸造方法とその管理方法は世界でも類をみないほど複雑にして、精巧であるこの技術を継承してきたのが杜氏である。
現在では酒造りをする技術者を、酒造技能者と呼ぶ。酒蔵の長を杜氏、その他の技術者を蔵人と総称して区別する。資格としては、酒造技能検定で一級技能士を持つ人が杜氏となっていることが多い。杜氏は酒造りの責任を持つだけではなく、蔵人を、統括し、蔵内酒造現場の管理を行う。




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