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モグラさんとお月さま

ある晩のこと、私は縁側でぼんやりしていると、 1匹のモグラさんが、ポポロンさんをたずねてきました。 あいにく、ポポロンさんは外出中なので、私は   「ポポロンさんならいないけど、なにかご用?」   と、たずねてみました。 すると、モグラさんはがっかりしたように肩を落とし、   「じゃあ、また来ますね、ごきげんよう」   と、言いました。 でも、ポポロンさんは、仲間たちと旅の途中で、 当分帰ってきそうもありませんから、   「お茶でも飲んでいかれたらどうです?」   と、モグラさんを誘ってみました。 ご迷惑でなければと、モグラさんは我が家に上がり込みました。   「よく、おみえになるんですか?」 「ええ、ポポロンさんに悩みを聞いてもらったり、 楽しいお話を聞かせてもらったり」   モグラさんは、その日もきっと 悩みを聞いてもらいたかったのでしょう。 あまり元気がありません。 かと言って、私はモグラさんの悩みを 聞いてあげることは出来ません。 うっかり、てきとうなことをしゃべって、その人に 迷惑をかけてしまうのが、恐いので、私はもう何年も 他人の相談には乗らないと決めているのです。   でも、モグラさんがあまりにも 元気がなさそうなので、少しだけお話したくなりました。   「モグラさんは、なぜ土の中にいるのですか?」   一瞬、モグラさんはびっくりしましたが、 しばらくすると力なく微笑んでこう話し始めました。   私は、何年も何年も片思いを続けてきました。 お相手は、って? 笑わないでくださいね、 夜空に浮かぶお月さまですよ。 私たち動物は、夜はたいてい寝ています。 起きているものたちもいますけどね。 でも、ほんのひとにぎりです。 お日さまの下では、多くの生き物が楽しく遊んでいます。 それを見ながら、いつでもお日さまは微笑んでいます。 でも、お月さまはいつも、暗い夜空でさみしく泣いているのです。 そんな姿を偶然見てしまって、 私はなんとかしてあげたくなりました。 お月さまに会えるように昼間は寝て、 夜起きるようになりました。 すると、お月さまは、 そんな私を見て微笑んでくれました。 私が行くところどこでも、追いかけてきました。 そうして、何年もすごしてきましたが、 なにせ向こうは空高く、手が届かない。 そう、何年も片思いでした。 ところがある日、知ってしまったのです。 お月さまは、お日さまを慕っていて、 お日さまのために輝いていると。 弱々しいと思っていたお月さまは、 ホントは私より強く、ずーっと大人だったのです。 それでも、夜になると私に微笑んでくれます。 それでも、私はうれしかったのですが、 だんだんとつらくなってきました。 それで、昼間はお日さまに嫉妬して、 夜はお月さまの笑顔を見なくて済むように、 土の中で暮らすようになったのです。 ね、オカシイでしょう?   「そんなことないですよ。 でも、時々は、お月さまの顔を見にくるんでしょう?」 「ええ、時々、そっとね」   そして、話を聞き終わり、私は目を閉じました。 再び開けると、もうモグラさんの姿はありませんでした。 私は、夢を見ていたのでしょうか? 空を見上げると、きれいなお月さまが 私に微笑んでいるように見えました。   「お月さまは、誰にでも微笑んでくれるし、 誰のところにもついてきてくれるなぁ」   庭に目をやると、心なしか土が モコモコ動いたような気がしました。 私は、なぜか、涙が止まりませんでした。

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