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 廃村への想いを形に


_________________________________________________________________浅原 昭生

 オホーツク元住民の奮闘を見る

 全国に十数万カ所ある集落のうち、2014年までの5年間で190カ所が消滅した。そして2015年以後の10年以内で570カ所が消滅する可能性があるという(国土交通省、総務省調査)。人口減少時代において、無住集落(廃村)は時代を先取りした場所と言える。
 私は、大潟村在住の佐藤晃之輔さんの著書「秋田・消えた村の記録」(無明舎出版刊 1997年)を読み、秋田県だけで125カ所もの廃村があることに驚き以来23年間全国の廃村調査を続けている。この16年間は、学校跡を有する全国の廃村1000カ所を独自に抽出して「廃村千選」と名づけ、現地調査を重ねている。
 ことし2月に出版した「日本廃村百選―ムラはどうなったのか」(秋田文化出版刊)は廃村千選の中から実際に足を運んだ約700カ所のうち、印象に強く残った100カ所の現状を写真と文章で紹介している。さらに12カ所については元住民から話を聞き、往時の写真をお借りして「集落の記憶」という別枠のコラムにした。
 取り上げた廃村の多くは、産業構造が変化した高度経済成長期に生じている。無住化の時期が平成であっても、多くの集落は昭和40年代に人口が急減している。大阪万博が行われた1970(昭和45)年から数えると今年はちょうど50年目。集落の元住民の高齢化は進んでいる。
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 昨年1月、NHK福井放送局のディレクターから「無住集落(廃村)を取り上げた番組の制作に協力してほしい」との連絡を受け、埼玉の自宅でインタビューに応じ、数カ所の廃村の画像を提供した。番組の中心に据えられたのは福井県小浜市上根来(かみねごり)における元住民たちの年末年始の取り組みだった。番組のサブタイトル「住めなくなっても守りたい」は、廃村の元住民であれば誰もが共感できるのではないだろうか。その想いを掘り下げることが私にとって次なるテーマとなった。
 そこで、北海道滝上町上雄柏(かみゆうはく)での体験を紹介したい。オホーツク沿岸の紋別市か45キロほど内陸に入った上雄柏は農業と製材を生業としていたが、昭和40年代に人口が急減、2007(平成19)年に最後の住民が転居し、無住となった。「どのような廃村なのか」と思いながら昨年5月に訪ねると、学校跡は整然としており、跡地を示す碑のそばには花壇があった。
 花壇は上雄柏小中学校卒業生の堀江春男さん(1957年生まれ 旭川市在住)が独力で整備したと知り、今年3月上旬ご本人を訪ねた。堀江さんは上雄柏の農家に4人きょうだいの次男として生まれ、高校卒業後は航空自衛隊に入隊。2012年に退官して両親が住む滝上町の市街でビル管理の仕事に就いた。
 37年ぶりに上雄柏へ帰ったとき、あまりに荒れ果てた母校の姿に言葉を失い涙が流れ、怒りさえ込み上げてきたという。だが、がれきの隙間に咲くスイセンの花を見て「希望の明かりがともった」と感じ、故郷で生き続けた花を中心に学校跡を整備しようと思い立つ。  取り組みを始めて3年目の秋、成果を車いすの父に見せることもできた。これを区切りに、2015年の春、堀江さんは旭川市に転居することになった。
 計画づくりから完成後の手入れ、さらには手入れができなくなっても学校跡が後世に残るよう敷石を配置するなどその周到さには敬服した。廃村のさまざまな姿を見てきたが、元住人のこれほど強い思いに触れたことはなかった。
 滝上町内に住む上雄柏の元住民たちへの取材は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって中止せざるを得なかったが、それに代わる「上雄柏学校跡整備にかかわるアンケート」では、出身者の皆さんが「学校跡が整備されたこと」を良いことだと思っていることが分かり、そのことを堀江さんに伝えることができた。
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 堀江さんからは「自叙伝(故郷)」というタイトルの18ページの手記と写真をいただいた。手記を読むと、住まなくなった故郷への思いがとてもよく伝わってきた。また、能動的に取り組む姿には魅力があり、「まずアイデアを思い浮かべること」「そしてそれを実行すること」の大切さを感じた。
 私はこの手記と写真、滝上町役場提供の資料と写真をひとつにまとめて、今月上旬、堀江さんを著者とする私家版の小冊子「上雄柏・学校跡整備と花壇に込めた想い」を完成させた。
 人口減の時代、右肩上がりを前提とした地域活性化には限界がある。そのほとんどは不便だが、豊かな自然があって、大切なものが見えてくることがある。廃村は多くの可能性を秘めている。


 あさはら・あきお  1962年大阪府生まれ。教育関係の公益法人で編集業務に携わる。著書に「秋田・廃村の記録」ほか。さいたま市住。

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 卒業生が綴る、廃村の学校跡整備と花壇に込めた想い

 「上雄柏・学校跡整備と花壇に込めた想い」(B5判、23ページ)は、浅原さんが代表を務める研究者グループ「Team HEYANEKO」刊。アマゾン・ネット通販で入手可。500円。

        * 「秋田さきがけ」朝刊 文化欄(2020年5月19日(火))より

        * 表紙画像:「上雄柏・学校跡整備と花壇に込めた想い」(Team HEYANEKO、2020年5月1日発行)
        * 現地画像:北海道滝上町上雄柏 オシラ花畑のスイセン(2013年5月17日(金)堀江晴男さん撮影)