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ユリウスが大賢者の間に来ると、ザイナス老師は大賢者の杖の前で彼を待っていた。老師はユリウスの力が戻った姿を見ると、安心したようにほっと息をついた。
「ユリウス、どんな様子だ」
「はい、4メールほどの大きさになり、開花しましたが、まだ眠っています」
「邪気は?食人鬼と比べてどうか?」
「今はまだそれほどではありませんが、目覚めるとどうなるか……。食人鬼は狂暴でしたが、力はこちらの方が数倍上かと」
「そうか」老師の顔が険しくなった。
「老師、木は眠っていますが、2本の触手が起きていて、妻に近づけません。彼女の夢を解くには、あの触手を抑える者が必要です」
「うむ、夢食いの木を傷つければ、囚われた者も傷つく。ティアーナを助けるためには、まず夢から解放することだ。それはそなたができるな?」
「やってみます」
「よし、ではもう一人、西の森に遣わそう。誰がよいか?」
「マチアスを呼んで下さい」
「マチアスでよいのか?あれはまだ経験が足りんだろう。賢者の方がよいのではないか?」
「彼は自分の力を試したがっています。いい機会ですから、彼にやらせたいのです」
「しかし……」
「マチアスの力は老師もご存知でしょう?」
ユリウスは確信に満ちた笑みを老師に向けた。少し考えた後で、老師はうなずいた。
「わかった、マチアスを呼ぼう」
老師は心話でマスター・マチアスを大賢者の間に呼んだ。
「おっつけ来るじゃろう。それにしても夢食いの木とは……、西の森の魔女が放ったのか?」
「はい、しかし責任はわたしにあります」
ユリウスはうつむいて言った。老師は思慮深い目をユリウスに向けていた。
「観測当番が先ほど、西の森に一瞬、力の柱が登ったと報告してきた。それはそなたのしわざか?」
ユリウスはうつむいたまま、悔恨の表情を浮かべた。
「……申し訳ありません、老師。怒りで我を忘れました」
「それで力が戻ったか……。まあ、いい。そなたの所業はすべてが終わった後で審問されよう。今は妖魔を滅することだけを考えなさい……。む、来たか」
広間の片隅に闇が浮かび、中から昨年マスターになったばかりのまだ若い青年が出てきて、二人のところに来た。
「老師、ユリウス先生!いったいどうなさったのですか?」
ユリウスは厳しい顔をマチアスに向けた。
「西の森に妖魔がいる。わたしはこれからそれを滅しに行くが、おまえに手伝ってもらいたいのだ」
マチアスは驚いて叫んだ。
「妖魔ですか!?」
「そうだ」
マチアスは今まで講義や研究会などでは、決して見せたことのないユリウスの厳しい顔に戸惑いながら尋ねた。
「あの、でもなぜわたしが?」
「おまえは自分の力を試したいと言っていたね?」
「は、はい」
「試させてやろう。一緒に来なさい。では老師、行ってきます」
「しばし、待て、ユリウス」
ザイナス老師は大賢者の杖に近寄ると、ひざまずき、何事かつぶやいた。すると杖の光が強さを増し、老師の差し出した手の中に収まった。杖の光に包まれて、老師は立ち上がると振り返り、ユリウスにそれを差し出した。
「力を貸して下さるそうじゃ。持っていくがよい」
「老師!よろしいのですか?」
驚くユリウスに、老師は重々しく告げた。
「このためにそなたをここへ呼んだのだ。この仕事、決して失敗は許されない。大賢者の力を借りてでも、妖魔は滅さなければならぬ。よいな」
「はい!」
「遠慮はいらぬ。受け取りなさい」
ユリウスはひざまずき、杖を受け取った。光がユリウスを包み、一瞬、明るく輝いた。それをマチアスは目を丸くして見ていた。
「杖は力の泉だ。使い方はわかるな」
「はい」
「万が一の場合に備えて、われらも待機しておく。だがこれはそなたの仕事だ。必ず、そなたの手で仕留めるのだぞ」
「はい!マチアス、行くぞ」
ユリウスは闇を開き、まだ戸惑っているマチアスを連れて、西の森へ向かった。
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