作者にも言わせて!!

―― 第8回 ――

カール王子の物語(あらすじ)その2

カール王子とタニア姫は商人たちの協力で、レガの国からアルブレールへ向かいました。 アルブレール公に援助を願うためです。 アルブレール公は東ユーレシア王の配下では、もっとも多くの兵を抱え、王も一目置かざるを得ない存在でした。 アルブレール公と接触することは危険な賭けでしたが、カール王子は敢えてその賭けに出たのです。 アルブレール公はデロスの王政を快く思ってはいませんでしたが、ライゲン公の例もあって、デロスに逆らおうとしていませんでした。 カール王子に会ったアルブレール公は、デロスに逆らってまで王子に味方する価値があるかどうか、値踏みするように王子を見ました。 王子はデンフォアレガ諸国の商人たちを味方につけ、見所のある若者に見えたので、アルブレール公は彼に加担してもよいと思いました。 ただアルブレール公は、王たる者は自らも力が強くなくてはならないと考えていましたから、王子が東ユーレシアの王としてふさわしいか試してみることにしました。 アルブレール公は自分の騎士たちに、王子と試合するよう命じました。 王子は騎士たちの挑戦を受け、闘いました。 王子は剣の腕前もなかなかのものでしたが、まだ20才にもならない若者です。 アルブレールの名うての騎士たちにはまだまだかないません。 しかし、王子は諦めることなく、力を尽くして闘いました。 その不屈の闘志にうたれ、アルブレール公はカール王子とともにデロスと戦おうと決心しました。 彼のために反デロス軍を組織すると申し出たのです。 これでカール王子はデロスと戦うことができます。

けれど彼にはまだ問題が残っていました。 ロムル王子とフィーリア姫のことです。 彼には二人を見殺しにすることはできません。 王子は商人に化けてイゼルローンへ行き、二人を助けることにしました。 髭を伸ばし、髪と髭を染め、肌の色を変え、特殊な糊で顔にしわを作り、変装しました。 そして、竜の涙を持ち、白い鳥を伴って、商人たちと南へ向かいました。

一方、囚われたフィーリア姫とロムル王子は、王宮の塔の隣同士の部屋に幽閉されていました。 二人は実の姉弟のように励まし合い、隙を見ては逃げ出す方法を考えていました。 何ヶ月か経ったある日のこと、塔の王子の部屋の窓に白い鳥が訪れました。 不思議な白い鳥は見る見る間に小さくなって、鉄格子をくぐり抜けると、ロムル王子の手に止まりました。 鳥の足には手紙が結び付けられていました。 王子がそれを開いて見ると、それはタニア姫からの手紙でした。 自分とカール王子は無事で、今アルブレールにいること、ロムル王子とフィーリア姫を助け出すための計画をしているので待っていてほしい、ということが書かれていました。 ロムル王子は手紙を読んだことの印に、自分の髪の毛を鳥の足に結びつけると、白い鳥を帰しました。 そしてフィーリア姫にこのことを伝え、二人の無事を喜び合いました。 彼らは助けを待つより、自分たちが脱出してアルブレールに行った方がよいと考え、王宮からの逃亡を実行することにしました。 脱出のチャンスはそれから1ヶ月ほど後にやってきました。 祭の夜に、二人は塔を出ることを許されたのです。 しかし、二人同時に逃げることは無理でした。 フィーリア姫はおとりになって、ロムル王子を逃がしました。

ロムル王子はイゼルローンから西の森へ逃げて行きました。 以前、兄と供の者と一緒に逃げた夜の森を、今度はたった一人で進まなければなりませんでした。 迷いながら行くうちに、王宮の兵がすぐに王子を追ってきました。 追手が迫り、もう少しで見つかるという時に、あの白い鳥が現われて、助けてくれました。 そして鳥の導きで、兄弟は再会を果たしたのです。 しかし、喜んでいる暇はありません。 ロムル王子を追う兵たちがやって来ました。 とっさにロムル王子は商人たちに囚われた振りをしました。 彼を捕らえた商人たちに褒美が与えられることになり、カール王子一行はうまくイゼルローンの王宮に入り込むことができました。

商人に変装したカール王子はデロス王に竜の涙を献上しました。 七色に輝く珍しい宝石にデロスは大喜びで、それをフィーリア姫の首飾りにすることに決め、姫をその場に呼びました。 デロスは美しいフィーリア姫を二番目のお妃にしようとしていましたが、姫がなびかないので、ご機嫌取りに苦労していたのです。 姫を喜ばせようと、デロスは姫に宝石を見せました。 しかし、フィーリア姫は宝石よりもそれを献上した商人に興味を覚え、商人を見ました。 その姿形はまるで知らないものでしたが、その目には見覚えがありました。 美しい水色の瞳がじっと姫を見つめていました。 カール王子と同じ瞳でした。

その夜、王宮中の人々が、商人たちが振る舞った異国の酒に酔いつぶれて寝てしまいました。 カール王子はフィーリア姫とロムル王子を助け出しましたが、フィーリア姫の他にもう一人、カール王子の存在に気づいていた者がいました。 デロス王です。 後もう少しで逃げおおせるというところで、デロスに見つかってしまいました。 カール王子は二人を先に逃がし、自分はデロスに決闘を申し込みました。 デロスは実の叔父ですが、父母を殺した仇です。 王子は今こそ仇を討とうと必死に闘いました。 そしてついにデロスを追いつめました。 デロスに恨みの一太刀をあびせようと剣を振り上げた時、彼は小人の賢者の言葉を思い出しました。 「憎しみの刃は、また新たな憎しみを呼び、尽きることはない」という言葉をです。 カール王子は剣をデロスに振り下ろすことをやめ、その場を立ち去りました。 心配したフィーリア姫とロムル王子が大きくなった白い鳥に乗って、カール王子の所へ戻ってきました。 三人は白い鳥によって王宮を脱出し、商人たちもこっそりと王宮を抜け出して都を離れました。

反デロス軍はアルブレールで挙兵し、ライゲン公を解放した後、イゼルローンへ押し寄せました。 都の人々もデロス王に反旗を翻し、都城の門を内側から開けたので、王宮はひとたまりもありませんでした。 兵たちは降伏し、今度はデロス王がわずかな供の者と都を逃げ出しました。 カール王子は人々に迎えられ、王宮に入城することができたのでした。

カール王子はデロスを追うことはしませんでした。 逃げたデロスは頼みにしていた西ユーレシアの大臣にも裏切られ、希望を失い自ら命を絶とうとしましたが、ある祭司に助けられ、心を入れ替えて人々のために働くようになりました。 カール王子は王位に就き、フィーリア姫と結婚しました。 ロムル王子は成人した後、ライゲンへ行き、タニア姫と結婚し、ライゲン公の後継ぎになりました。

(おしまい)

竜の賢者

次回は、最終回『Special Thanks to ...』です(たぶん)。