作者にも言わせて!!

―― 第4回 ――

東方より来たりし知恵

テクノロジー(科学技術)と魔法、これらは現代では決して両立することはありません。 過去に、優れた魔法使いは優れた科学者でもあった時代もありましたが、科学が発達するにつれ、魔法と呼ばれたものが科学の技として解明された挙げ句に、不思議なあやかしの術など存在しなくなってしまったのです。 西洋文明の唯物論的な科学万能の現代社会に染まりきっている私にとって、テクノロジーと魔法が両立している世界を考えるのは、難しくもあり、面白いことでもありました。 物語とは直接関係なかったけど、ニューエイジサイエンスの本なんか読んでみて、あまりにも細分化されすぎ、あまりにも因果律にとらわれている現代科学をもっとホリスティック(全体論的)に考えようとする試みがあることを知り、大いに参考になりました。 そのホリスティックな科学を実現しているのが中国の科学です。

中国の自然科学の理論(例えば陰陽五行説など)は、西洋のそれとは根本的に考え方が違っていて、とても非科学的に見えるのだけど、自然の流れをそういうものとして見ると、それはそれで理屈にかなっているのです。 そしてその考え方は哲学から物理、自然、宇宙、人間の体と精神までつながった全体像を描き出してくれます。 まさに中国4千年の歴史に紡ぎ出された、経験と実践の科学なのです。 実際に、紙、火薬、羅針盤の3大発明でも明らかなように、中国のテクノロジーは西洋に引けを取りません。

そして中国には、気功というものがあります。 私が初めて気功というものに出会った時、なんだか魔法みたいだと思いました。 現代科学でも解明しきれないけど、確かに存在する気と呼ばれるもの――物語の中で魔法の成り立ちを考えるにあたって、この気を応用したことで、超能力的な術も自然な感じで使えました。 私はこの偉大なる知恵と技術を教えてくれた中国に敬意を表しつつ、気を使った魔法と様々なテクノロジーが東方の民族から伝わったというストーリーを作りました。

テクノロジーのおかげで産業が発達し、比較的豊かな社会で、なおかつ魔法が存在するという、都合のいい世界はこのようにして生まれたわけです。

次回はもう少し突っ込んで、ユーレシアの庶民の生活を、ティアーナさんを例に出しつつ述べてみたいと思います。

大賢者ファラールの杖
大賢者ファラールの誓約 全文

わたしは、あなたがたクルトの民が深き友愛と仁心により、授け給いし知と術において、天と地と、クルトの民、バドゥの民の平安のため、以下のことを誓う。

・わたしは、クルトの民の願いしことをわが願いとし、バドゥの地とその民人に正しき気の巡り保たれるよう、この知と術を使うことをわが努めとし、それを全うする。

・わたしは、力なきものたちのために、またこの知と術を真に必要とするものたちのために、力を尽くしてその任にあたり、彼のものたちを決して偽らず、傷つけない。

・わたしは、わたしの果たすべき行いが妨げられしときは、わが身の内に備えし守りの手だてにより、それを除き、決して人の取る武器は用いない。

・わたしは、あらゆる身分、地位を望まず、ただわたしと共にこれを誓い、この知と術を受け継ぐ者たちの集う所にのみ属し、自ら争いの火種となるようなことはなさない。

・わたしは、自と他の限りを知り、おのが働きの過ぎたるを戒め、大いなるものたちへの敬いを忘れず、大いなる気の流れをむやみに乱すようなことはなさない。

・わたしは、この知と術、及びわたしの知る全ての知と術を、わたしの弟子たる者たちに正しく教え伝え、彼らがわたしと共にこれを誓い、常にわたしと共にあるように導く。

・わたしは、クルトの民との約束を固く守り、クルトの民について知りしこと、及びクルトの秘密とせしことを、決して誰にも明かさない。