きんとさんのお気楽ゴクラクのーと

K.水谷


チグリスとユーフラテスの間に


1月 30日 (木) インフルエンザに気をつけよう

「ディマシュクのウード弾き」(最近更新が滞り気味、済みません)第3話は前半の舞台がバグダードなのだ。
もちろん行ったことはないが、そこを舞台にして書いている身としては、アメリカのイラク攻撃に関する話題が毎日のようにニュースに取り上げられ、バグダードからの報告が毎回のように流されるのを見ると、なんとも複雑な気分になる。
あ、ちなみに私はバグダードと書いているが、現代の地理的な地名としてはバグダッドで統一されていて、歴史的な記述の中に出てくる地名はバグダードとしている場合が多い。
アラビア語の表記は確か bagdad で長音も促音もついていないはずで、da にアクセントがあるためどちらにでも聞こえるのだと思う。

話を戻すと・・・私にとってバグダードという所は単にイラクの首都というだけでなく、アッバース朝の都であり、イスラム文化の中心地として花開いた所であり、イスラム以前はメソポタミア文明の花開いた所なのだ。
バグダードだけでなく、その近辺、チグリス川とユーフラテス川の間にはたくさんの遺跡が残り、イスラムの聖者の廟が多く建ち、人々の信仰を集めている場所でもある。
つまりは何千年の昔から人々が集まってくる場所であって、そんな歴史的な重みのある場所にいとも簡単に爆弾を落として破壊するのは、なんとも愚かな行為に思える。
そうでなくても戦争が起これば、人は死に、街は破壊され、それだけでも十分に痛ましいことなのに、長い間人々が培ってきた歴史に敬意も払わず、その土地を汚し一瞬にして無にしてしまう、そんな行為を平気でやる人間は私にはとても野蛮に見える。

もともと戦争なんて人間の最も野蛮な行為で、ひとたび破壊が始まれば人の命も街も土地も重みなんて意味をなさないものなんだろうけど、現代の破壊行為は度を過ぎている。
自分はまったく傷つくことなくスイッチ一つで何千何万何十万の命を奪い、街を壊し、その土地を汚す、その行為の軽さが問題なのだ。
何千年も昔からチグリスとユーフラテスの間では戦争が繰り返されていたけれど、以前の戦争はもっと重いものだったはずだ。
互いが接し合い自分たちのリスクも背負いながらやったりやられたりして、接線は揺れ動き、破壊されてもその上に新たな生産が行われた。
戦いとは互いに接し合うものの食い合いであって、食う方も食われる方も決して軽い存在ではなかった。
それは食われたものが抱えていた全てを食ったものが負わなければならなかったからで、 食った側は責任を持ってその汚した土地を復興させなければ、すぐに別の接し合うものに食われてしまう運命にあった。
だが現代の戦争はそういった食い合いの要素はなくなってきている。
1対1の争いではなくなり、利害が複雑に絡み、接し合うものでなくても争うようになった。
勝った側の責任が薄れ、利益だけを得て後は知らんぷりがまかり通るようになった。
そうなると戦争はただの破壊行為にすぎなくなる。
現代の戦争はもう以前とは意味合いが違う。
「利益を得るための破壊行為」なのだ。

戦争のやり方が変わってきた現代だからこそ、一つの命を、人々の営みを、その土地が抱える歴史をもっと重く考えるべきなのではないか。
はっきり言って、今のアメリカのやり方はその全てを軽視している。
「利益のための破壊行為」を正当化し、戦いのリスクを負わず勝つことを前提とし、勝った側の責任を取らずに済まそうとしている。
彼らがイラクに対する戦争に勝利した後、イラクをどうしたいのかまったく持ってはっきり示していない。
漠然と民主国家を作ると言っているが、破壊され人も金もなくなったどん底の国が自分たちだけでそんな理想的な国家を建設できると思っているのか。
またアフガンのように混乱に陥れるだけだというのがわかっていない。
敗戦の日本が立ち直れたのは、アメリカの文官による強力な政治的サポートがあったからだと言われている。
ブッシュは戦争後のイラクを日本のようにすると言ってるらしいが、彼が当時のGHQやその他の日本のための機関をイラクにも作るとはとても思えない。
それはイラク国民の心情をまるで慮っていないからだ。
日本の場合は天皇を残し、日本国民の心情を慮った。
そこからしてもう違っているではないか。

フセインを擁護するつもりはないが、イラク国民の心情はないがしろにしないでほしい。
そして歴史は決して軽んじられるものではないことをわかってほしい。
それはその土地に生きる人々の大切なバックボーンだから。
独裁国家を正したいのならやり方は他にもいくらでもあるはずだ。
大量破壊兵器をなくしたいのなら、まずアメリカ自身が正すべきだ。
イラクがそれを放棄しても、テロリストたちはアメリカからそれをいくらでも手に入れるからだ。
チグリスとユーフラテスの葦の岸辺をどうか昔のままに人々に返してあげてほしい。
今はそれを祈るのみだ。


戻る Copyright(c) 2003 K.Mizutani.All rights reserved. メール