きんとさんのお気楽ゴクラク日記

K.水谷


元ネタ探し


6月 20日(水) ジメジメシトシト

最近見ているアニメに「ジーンシャフト」というSFアニメがある。
このアニメはストーリー以外の趣向を凝らしていて、毎回のサブタイトルが全てSF小説のモジリなのだ。
お話の中にもSF小説や映画を思わせるシーンが取り込んであったりして、そういうことを知らなくても普通に見られるけど、知っているともっと面白いというパロディ映画のような作りになっている。
私はSF小説はほとんど読まないので、せいぜい「この題名は聞いたことある」ぐらいにしかわからないが、うちのオットは筋金入りのSF好きなので、今まで放映した11話のうち1話を除いて全て元になった本の名前と著者名を言い当てている。

おそらく、このアニメを作っている監督さんもオットと同じように70年代、80年代のSFを読みまくった人なのだろう。
なぜあのアニメでそんな趣向を凝らしたのか知らないが、一時代を築いたSF作家さんたちへのオマージュだとすると、その気持ちを理解できる視聴者はどのくらいいるのだろうか。
今このようなアニメを見ている人たちのほとんどは10代20代の人で、古典的なSF小説を読むよりは、ゲームをしたり、メディアミックス路線で活躍している流行作家さんの作品に触れている人の方が多いだろう。
つまり、送り手と受け手の温度差みたいなものが、どうしようもなく存在してしまう。
ちょーっと、それは寂しいことかもね。
でもまあ、作っている本人はあまり気にしてないのかもしれない。
私なんかはズブ素人物書きだから、平気で大好きな作品の何かを真似っこさせてもらうことがままあるけど、それはその作品への「ゾッコン命(らぶ)!」を表明しているだけであって、それを人にわかってもらおうという気持ちはあまりない。
わざとあーゆー形で使うというのは、こーゆーファン心理みたいのが働いてるはずで、その裏にはきっと「わかってくれなくても、いいんだもんねー」という気持ちがあるに違いない。
それに、その作品に人気が出れば、それまでそんなことを知らなかった人も、知りたいと思うようになるものだ。

ファン心理って面白いもので、真似っこをするというのもファン心理の一つだけど、作品の全てを知りたいと思うのもファン心理の一つの特徴だ。
セリフの一句一句を全て覚えたり、その作品に元ネタがあれば元ネタ探して三千里、図書館や本屋を探し歩くってなこともする。
ジーンシャフトは残念ながらそれほど人気がある作品ではないようで、Web上でサブタイトルの元ネタ探しをしている人は少なかった。
元ネタの解説をしている人を検索で探したら一人しか出てこなかったし、やはりそれで盛り上がろうという機運はないみたいだ。
それに比べると「エヴァ」のときはすごかった。
わけのわからん「死海文書」探す人は多かったし、解説本もいっぱい出ていた。
作品が面白ければ面白いほど、そしてその作品に込められた謎が多ければ多いほど、ファンはその謎と元ネタに惹かれてしまうのだ。

今現在のトレンドはやはり「陰陽師」(マンガ版)でしょうな。
ストーリーも結構訳わからなくなってるし、怪しい思想や宇宙観がどんどん盛り込まれて、ファンの元ネタ探し願望をヒリヒリと増長させている。
基本となる平安時代の歴史だけでも調べれば少しは理解度がアップするんだよね、きっと。
それに加えて「今昔物語」なんかもちょっと読んでおくと、ウンウンとうなずける所も増えてくるのだろう。
陰陽五行説も押さえておくとバッチリなんだけど、こいつはいささか難しい。
「易経」なんて読めないし、時々出てくる菅公(菅原道真)の漢詩もちょっと無理。
最近ではヨガの思想まで盛り込まれてしまって、天竺唐日本の三国思想一大ページェントと化してしまい、とても手に負えない。
ファンの中には実際に京都に行ってしまったり、難解な資料の中にひるまず飛び込んでいる人もいるようだが、私はそこまで心酔するには歳を取りすぎて…(こういうときだけ歳に逃げる軟弱<私)
でも調べたい、もっと知りたい、という欲望を心の奥底に忍ばせながら、新しい巻に手を伸ばしている。

こないだ同じ岡野玲子さんの作で「妖魅変成夜話」というマンガを読んだのだが、こちらは中国の妖怪神仙話などを元にした、唐代Xファイルコメディ版といった感じの内容なのだ。
中国の妖怪神仙には古い伝統があって、「封神演義」「西遊記」などに盛り込まれているのはもちろんのこと、「今昔物語」のような説話集も多く残っていて、調べるとなかなかに面白いかもしれない。
なんてファン心理をウズウズさせて最後まで読むと、このマンガはなぜか平凡社というお堅い出版社から出ているのだが、巻末にはなぜかその平凡社の「東洋文庫」というお堅い本のシリーズの広告が出ている。
「東洋文庫」はその名の通り東洋で書かれた様々な書物、東洋のことを書いた書物を集めて刊行しているシリーズで(しかし文庫ではなくお高いハードカバーなのだ)、そこに中国の説話集も入っているのですね。
つまり元ネタも買ってね〜、という出版社の心憎い宣伝なのだ。
これならファンも探す手間が省けるね。
お堅い出版社のくせに、やるな、平凡社。


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