きんとさんのお気楽ゴクラク日記

K.水谷


地上の楽園


2月 1日(木) 雨;;;

昨日知人の家を訪ねた後、その近所にある温泉に連れて行ってもらった。
12月に新しくオープンした深大寺温泉である。
都心にもほど近く、しかも沸かし湯のスパ施設ではなく、ちゃんとした温泉施設なのだから立派だ。
住宅街に忽然と現れるその温泉に行って、こんなにお手軽お便利な所で温泉に浸かれるなら、多少設備がせせこましくても許せるな、と思った。
まあなにしろ、土地のお値段がバカ高い東京ですからね。
敷地がちょっと狭くて、建物もちょっと窮屈、洗い場のカランの数が少なく、休憩所も狭いのが難点だが、狭いながらも工夫して色々な露天風呂が5つほどあったし、お湯は真っ黒くてヌルヌルしてて、いかにも「沸かし湯じゃないよ、温泉だよ」って感じがして良い。
外の冷たい冷気を頬に受けながら、真っ黒い湯にとっぷり浸かっていると、やっぱり「ハー、ゴクラクゴクラク…」と言いたくなるのだ。

平日の午後にもかかわらず、結構混雑していて繁盛していた。
お客は老若男女、いろんな人が来ている。
まったく日本人て、お風呂好き温泉好きだ。
でもね、お風呂好きなのは日本人だけではないのだよ。
今アラビア風のお話を書いているせいで、色々調べたんだけど、イスラム圏の人も結構お風呂好きなのだ。
この場合のお風呂は家庭風呂じゃなくて、公衆浴場のことよ。

アラビア語で公衆浴場はハンマームと言う。
日本のように湯水を湯水の如く使える土地ではないので、もっぱら蒸し風呂が主流だ。
しかし、日本の銭湯との共通点もいくつかあって面白い。
ハンマームは日本の銭湯と同じく、都市生活の発展とともに発達してきたものだ。
まず庶民が気軽に入れるお値段であるということ。
それこそ年齢性別貴賤を問わず、好きなときにそこへ行って身体をきれいにできるということだ。
そしてそこは身体をきれいにするだけではなく、のんびりするところという役割も担っている。
都心の銭湯には休憩所のようなものはあまり備わってないが、古くからある道後温泉などを見ると、浴場の2階3階に広い休憩所があって、個室なども作られている。
現代のスパ施設でも休憩所はかかせない。
ハンマームでもやはり休憩所があって、人々は湯上がりにそこで冷たい物を飲んだり、寝っ転がったり、マッサージしてもらったりと思い思いにくつろいで過ごすのだそうだ。
もちろん、えらい人やお金持ち用の個室とかもあるらしい。
ねー、日本の温泉やスパ施設と一緒でしょ。

男女の別は厳格な土地柄だけど、日本のように男湯女湯があるわけではなく、時間交代制で、従業員も男湯の時間は男性、女湯の時間は女性がなる。
特に女性にとってハンマームは重要な場所だった。
あまり外出させてもらえない女性にとって、ハンマームに行くことは唯一の息抜き、楽しみだったそうだ。
つまりハンマームの休憩所が女の社交場になるわけだ。
女たちはそこで身体をきれいにするついでに、女同士のおしゃべりにうち興じ、交友関係を広めたり、息子の嫁探しなんかもしたそうだ。
中には家から飲み物食べ物持参で、時間いっぱいゆっくりのんびりする女性たちもいたんだって。
うん、日本にもいる、そういうおばちゃんたち。
弁当持参で休憩所に居座り、延々と茶飲み話しているおばちゃんたち。
まったく、女の風呂好き、飲食好き、しゃべり好きは万国共通じゃないのかしらん。
ともかく、湯上がりのトロンとした顔つきの人々は、男女問わず洋の東西を問わず、平和そのものだ。
アラビアン・ナイトの一節にも「おお、当代の王様、ハンマームこそは地上の楽園でごさいまする(岩波文庫「完訳 千夜一夜物語7」より)」とある。
温泉好きの私なんかは、この一節には大きくうなずいてしまうなー。
温泉入った時のシアワセ感て、ちょっと他では味わえないからなー。
そしてその後ののんびりタイムもね。

ハンマームも日本の銭湯同様、家庭風呂の普及とともに衰退したけど、もしかしたら日本みたいにまたブームがくるかもしれない。
でも、現代日本の温泉ブームにはちょっと疑問を感じるけど。
湯水を湯水の如く使いすぎる!
あれじゃそのうち、日本の地下水がなくなって島が沈んじゃうよ〜〜
みんな、温泉に入りつつ、もっと木を植えましょう!
(なんのこっちゃ……)


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