生還章



一生懸命だけど、いつも空回り・・・。

ただ、いっしょに居るとなんとなく落ち着いた。

それは、彼が年上で、銃兵としても先輩ということだけではないような気がした。





カシャンッ・・・。
ユニットに飛び込んだドゥーニャがつま先で弾いたのは、彼の生還章だった。
19個のアナトレーの生還章。
1個の、他とは違う手作りの生還章。
彼が誇らしげにしていたもの。

視線を上げるとユニットの操縦桿に寄りかかる彼が瞳に映った。
自らの手で抑えた腹部から、指の間から止め処なく血が滴り落ちていた。
床に広がる血。
壁に飛び散った血。



息が出来なくなり、ユニットの外へと飛び出した。
その後のことは良く覚えていない。

救護部隊がすぐ脇を慌しくかけて行くのを瞳の端に捕らえたことだけは、ぼんやりと覚えている。





"ギルドの弾は、ドゥーニャ・シェーアを避けて通る。"

彼が二番隊として突入したとき、ドゥーニャは他の隊員に弾き飛ばされていた。
ユニットへと続く回廊に這いつくばった彼女に、弾が襲い掛かることは無かった。



"ギルドの弾は、モラン・シェトラントを避けて通る。"

願をかけた自分が彼の側にいなかったから・・・。
だからモランは・・・。





遠くで歓声が聞こえる。

デルフィーネの城が消え、エグザイルは彼方へと飛び去っていた。
ドゥーニャ達が乗るデュシス艦の艦内も歓喜に溢れていた。

ドゥーニャは、そんな彼らから取り残されたように一人、仮設の診療室のベッドの前にうずくまるように座りこんでいた。
ため息を付くために深く吸い込んだ空気の消毒液の匂いに、むせそうになった。



「・・・・っ・・・う・・・ん?」

目の前のベッドが僅かに動いた。

「・・モラ・・ン・・・。モラン!」
気づいたドゥーニャが枕もとに飛びつく。
大切な人の名を呼ぶ。


「・・・んっ・・ん?」
目を瞬かせる彼は、状況が把握できていないようだ。

そんな彼の手を取り、生還章を握らせる。
「大切なものよね。」

「ああ・・・。」

大人しく彼はそれを受け取った。
モランは繁々と渡された生還章の束を見つめる。

彼は、皇帝ソフィアの名において、生還章を賜ることになるだろう。
アナトレーの皇帝の名において賜った生還章が20に達する。
以前の彼ならば、喉から手が出るほどに固執していたもの。


そんな彼に、ドゥーニャは姿勢を正して言葉を続ける。
「モラン・シェトランド。貴方に生還章を授けます・・・。」

「21個めの生還章は・・・私・・・。なんてだめかな。こんなガサツナ女じゃ・・・。」
勢いで言ったものの、恥ずかしさのあまり余計な尾ひれが付き、最後は聞き取れないほどに尻つぼみになってしまう。

「・・・えぁ?!」
しかし、重要な部分は十分に彼に伝わった。
しばし理解に時間の掛かったモランが、驚いて跳ね起きる。

「・・・・・いっ!・・・いってーーー!!!」
一瞬の後、顔を苦痛にゆがませてベッドに沈むモラン。

「だっ・・・大丈夫!?。モラン?」


「・・・・ぷっ」
慌てたドゥーニャだったが、モランの情けない表情に思わず吹き出してしまった。


「・・・ああっ・・・カッコつかないな・・・。ほんとに・・・。」
さらに情けない顔になる。
傷ついているらしい。


「あ?・・・あ・・・ご・・ごめんなさい。」
そんな彼の様子に、ドゥーニャがシュンとなってしまう。
モランが空回りする自分に苛立っていることは彼女にも分かっていた。

俯いてしまったドゥーニャの頬に、モランは手を伸ばす。

「ドゥーニャは、ガサツナなんかじゃないさ。」

「うん・・・。」
頬をなぞる指に、一瞬戸惑ったドゥーニャ。
やがて、彼女はその瞳を閉じる。


彼女の様子に、モランの口から飾らない言葉が紡がれる。
「ずっと俺の側にいてくれ。」

その言葉に、顔を上げたドゥーニャが元気よく答える。
「うん!。私がモランを守ってあげる!」

「たはっ・・・。」
モランは自分の情けなさに凹みながらも、今まで手にした生還章とは比べ物にならない存在となった大切な笑顔に見入っていた。


23話が題材。
あれ?モランが肩車してたのって息子じゃないの?ドゥーニャの弟!?。
ガーーーン!!!。「黄金の海に舞い降りる」間違ってるの?(直す気ないけど・・・)。

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