黄金の海に舞い降りる



秋の乾いた風に、黄金の草原が穏やかな波を作る。
たわわに頭を垂れる穂が互いにふれあい、涼やかな波音を奏でる。

「そう、計器に注意して・・・タイミングを逃してはだめよ。」
アリスティアは、悪戯な風に煽られる帽子を気にしながらも、練習用のヴァンシップを覗き込む。
ナビ席に座るのは彼女の息子。


"カンカン"
「起きろ、"ねぼすけ"!」

「キエェェェェェェーーーー!」
金属版を叩くけたたましい音に、"ねぼすけ"が驚いて飛び起きる。
相変わらず眠そうな表情だが、安眠を妨害された不服の表情かもしれない。

毎度のことながら、その様子にアルは苦笑いを浮かべた。

ラヴィのたっての願いで引き取ってこられた彼だが、案の定何もしない。
だが、"ねぼすけ"を見かければ、皆、声をかける。
彼もここでは欠かせない存在なのだ。

「皆、お昼よー」
アルと共に家から出てきたドゥーニャが、昼食が出来たことを告げる。
今や、二児の母だ。

「お昼よー。」
それを受けて、アルが復唱するかのように後に続く。

「はーい!」
その言葉に、タチアナとアリスティアが振り向く。
練習をしていた子供達が元気よく返事を返す。
"ねぼすけ"も羽根をばたつかせて喜ぶ。

まもなくヴァンシップで出ている二人も戻ってくるはずだ。



ザザザザザァーーーーーーー。
突然、目の前に広がる黄金の波が大きくなる。

「あっ!。戻ってきた」
アルが視線を上げる。

人工的な風。
ヴァンシップが戻ってきたことがその場にいる皆にも分かる。

黄金の波の中、モランが彼の子を肩車しながらヴァンシップを追うように戻ってくる。

不意に二人が見えなくなった。
ヴァンシップに気を取られていて転んだのだろう。

起き上がって戻って来る二人の服や髪には、穂や葉が沢山纏わりついている。
二人して穂の海の中で遊んでいたのだろう。
また、ドゥーニャにしかられるに違いない。

二人が乗るヴァンシップが真上を通過する。
僅かに遅れて、その影が家の屋根を駆け上がった。

戻りかけた皆が、まぶしそうに空を仰ぐ。
強く乱れる風にアリスティアは、帽子を両手で抑える。

今は、ナビをラヴィに預けている。
"でも、この子がナビとして一人前になったら返してもらうわ。"
"そこは、私の指定席だから・・・"
"彼と、流れる白い雲に思いを馳せ、冷たい風を頬に感じるのは私"
"彼と、この青い空をどこまでも高く、どこまでも遠く飛んでいくのは私"

「さあ、パパも戻ってきたから食事にしましょう。」
アリスティアは、ナビ席に座る息子の頭を撫で、促す。
夫と同じツンツンした髪。
そのさわり心地のよさに、気づくとついつい手が伸びてしまう。

「うん!」
触られた本人は、擽ったそうにしながらも元気よく頷いた。


アリスティアは我が子の手を引き、彼が戻ってくるのを待つようにゆっくりと家へ向かう。



「パパッ!」
我が子がその手を振り切って走り出す。

その先には格納庫から戻ってくる二人の姿。

彼は、足にまとわりつく我が子をひょいっと抱き上げた。
そして、穏やかな笑みをアリスティアに向ける。

その笑みにアリスティアも、自然と笑みを返す。
「おかえりなさい。・・・あなた。」

「ただいま。アリス。」


26話が題材。
またルータが壊れた。また1月も更新してなかったのねぇ。
ヴァンシップで練習していた子供×2は誰の子なんでしょう?。

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