起き抜けのフェアリー



髪にかかる小さな寝息を感じ、アリスティアの意識が緩やかに浮上する。

ここは・・・、クラウスの部屋。

先日までは、アル、ラヴィと同じ部屋に寝泊りしていた彼だが、ヴァンシップのパイロットとして正式に乗艦 している現在は、個室が与えられている。

ヴァンシップ一機でこのシルヴァーナにやって来た彼の荷物はほとんど無い。
彼が居なかったら本当に味気ない部屋だ。

そのクラウスは今、彼女の解いた亜麻色の髪に顔をうずめるようにして眠っている。

まだまだ、あどけない少年の寝顔。



彼が起きる前に身支度を済ませることにしよう。

彼を起こさないよう、注意を払いながら、ベッドを抜け出すアリスティア。
クラウスの指先からアリスティアの艶やかな髪の毛が滑りぬける。
名残を惜しむかのように彼の指が空を掴む。

髪を解いたところを見せたのは、クラウス以外では、シルヴァーナでは タチアナぐらいだろう。

この髪に触れていいのは、両親とクラウスだけ。
この髪を解いていいのは、クラウスだけ。



服装を整えたアリスティアは、彼の枕もとに腰をおろす。

耳に届くのは、彼の規則的な寝息だけ。
こんな朝もいいものだと思う。

これで、珈琲でもあればもっといいのだけど・・・。
今度、自分の部屋から一式持ってきてコッソリと置いておこう。
無頓着なクラウスのことだから、言われるまで気づかないに違いない。


長い毛先を束ねて、クラウスの頬をくすぐってみる。

「ん・・・。」
僅かに身じろぎをするクラウス。

それでも、その反応に満足したアリスティアは髪を編み始める。
髪を編み終わるまでは寝かせておいてあげよう。

ゆっくりと時間を掛けて編み上げていく。
それでも、日ごろ馴れているため、あまり時間は掛からなかった。


さあ、そろそろ起こさないといけない。
朝のミーティングに間に合わなくなってしまう。

「クラウス・・・起きて・・・。」
優しく、声を掛けるが反応がない。

「クラウス・・・ミーティングに遅刻するわ。」
体も揺すってみる。

「・・・クラウスったら!」
少し乱暴に揺すってみる。

「・・・ん・・・アリス?・・・。」
やっと反応が帰ってくるが、現実のアリスティアに向けられたものなのか、夢の中のアリスティアに向けられた言葉なのか・・・。

寝ぼけ眼のクラウスがアリスティアの腕を引っ張る。

「きゃっ!」

バランスを崩したアリスティアはクラウスの腕の中に引き込まれてしまう。

「もう・・・クラウスったら・・・。」
口調とは裏腹に、アリスティアの表情はまんざらでもない様子。

つい先ほどまですぐ近くにあった大切なぬくもりをその腕の中に取り戻したクラウスは、安心して深い眠りに戻ろうとする。


困ったアリスティアは奥の手を発動。

「クラウス・・・起きて♪」
彼の耳元に出来るだけ甘く、優しく、ささやきかけるアリスティア。
だれもみていないのだが、その表情は恥ずかしさで上気している。

そして・・・。
「ふっーーー。」と、クラウスの耳に一息。

「うわっ!!!。」
驚いて飛び起きるクラウス。
その腕にアリスティアを抱きしめていたため、うまく起きあがれないクラウス。

無理に起きようとしたクラウスは掛け布団に躓く。

「きゃあっ!。」
そのまま、二人はベッドの下へと転落。

ドスッ。
「ぐっ!!!。」

アリスティアの下で、鈍い音と、くぐもった悲鳴が聞こえた。



アリスティアが乱れた服装と髪を整え、クラウスが背中の痛みをおして服を着替え終わったころには、 ミーティング開始時間はとうに過ぎていた。

烈火のごとく怒るであろうタチアナを想像して、今からでも行くべきかどうか真剣に悩む二人だった。



少し大人な雰囲気にしようと頑張ってみましたが、やっぱりだめでした。
まとまらなくなったので、落ちてもらいました。クラウスごめん。

タチアナとアリスティアなら優雅に紅茶な気がするけど、アリスティアとクラウスなら何が似合うのだろう。
珈琲はただ自分が飲みたい気分だったため。ヴィンス(馴れ馴れしい)、珈琲入れてくれ。

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