Calculate Sophia



「どういうことですか?」

オークションから戻ってきたアレックスをシルヴァーナで待ち受けていたのはソフィアだった。
その表情自体はいつもと変わらないのだが、メガネのレンズ越しのスカイブルーの瞳が笑っていない。
そのほっそりとした指には、指先が白くなるほどに先ほど届けられた請求書が握られている。
1000億クラウディアという小国なら買えてしまいそうな金額が記載された請求書。

電話の向こうの主と競り合う振りを演出しつつ、邪魔が入るのを待っていたのだが、何をどう間違った のか、1000億クラウディアで競り落としてしまったのだ。
しかも競り落としたものは偽者。
アレックスともあろうものが大失態である。
誰に邪魔されるでもなく、正面から堂々と帰途につく羽目になるアレックス。
タチアナやアリスティアの作戦行動も木っ端微塵に不意となった。

戻ってきたアレックスに詰め寄るものはいなかった。
ソフィアを除いては・・・。

「この金額はどういうことなのです?」
ソフィア嬢の口調がいつもと変わらず穏やかであるため、逆に迫力がある。

「・・・すまない。」
アレックスにはそれ以外の言葉が見つからないようだ。

そういった彼からは表情が読み取れない。
彼は機嫌が悪ければ悪いほど、無表情になる。
そして、完ぺき主義者の彼のことである、誰よりも自分の失態を攻めているだろう。
それくらいのことはソフィアには分かっている。
でも、まだ何か言ってやりたい。

小さくため息をつくソフィア。
「回収できるまで、当分の間、艦を降りられませんね。」

「・・・そうだな。」
棘を生やした言葉にもさらりと返答されてしまう。

「もちろん、君のサポートには期待している。」
"偽者"のエグザイルを手のひらで弄びながらそんなことを告げられる。

この人は私の気持ちに気づいていないのか。
いいえ、知っていて知らない振りをしている。

「必要であればお供します。」
この人が必要としているのは私の力。
女としての私ではない。

「たのむ。」
こちらをまっすぐに向き、投げかけられる言葉。

「はっ!」
どうにかとっさに軍隊式の礼を返したが、その視線から逃れるように自らの視線をはずしてしまう。
居心地が悪い。早く退出してしまおう。

もう一度礼をして、退出するためにきびすを返す。
いくら彼が有能でも、1000億を叩き出すには少々時間を要するだろう。
私にももう少し決断を先延ばしにする時間がありそうだ。
ただ逃げているだけだとしても・・・。

ソフィアは深くはまり込んだ感情を振り払うように首を振ると、1000億の返済計画を頭の中で構築し始める。



「ソフィア」
出てきた部屋の戸を閉めるために振り返ろうとした時、彼に声を掛けられる。
振り向かず、そのままで彼の次の言葉を待つ。

しかし彼は声を発せずに、こちらに向かってくる。
硬い足音がすぐ後ろで止まる。

「ソフィア。これを受け取ってくれ。」
私を捕らえて離さないその声が、予想外の言葉を伝える。
驚いて振り返ると、彼の漆黒の瞳に捉えられる。
なぜかその瞳には揺らぎが伺える。

彼の手に視線を走らせる。
彼の手のひらには、銀の髪飾りが乗っている。
豪華ではないが精巧で繊細な細工。

「・・・これを私に?。いただく理由がありません。」

「私が渡したいでは理由にならないか?」
"君に似合うと思い、つい競り落としていたのだ"と彼は続ける。
とても真剣な瞳だ。
いつもの遠くを見つめるような瞳ではない。
何をそんなに一生懸命になっているのだろうか。
彼らしくない。

そんなことを考えていると、彼に腕を取られ髪留めを握らされる。
つかまれた腕から彼の手のぬくもりが伝わる。
気づいていないのは彼ではなく、自分なのだろうか。

「これを付けて職務についても構いませんか?」
彼の反応を試すような言葉が彼女の口をついて出る。

「ああ。」
彼の瞳には相変わらず私が移りこんでいたが、揺らぎはもう見受けられなかった。
少し気に食わないので、もう一言発しておく。

「いつまで手を握っているのですか?」

「!・・、ああ、すまない。」
慌てて手を離すアレックス。

再び彼の瞳に動揺が見えたことに満足したソフィアは今度こそ退出することにした。

「それでは、失礼いたします。」
事務的に礼をして、踵を返すソフィア。
それでも、彼女の手のひらには銀の髪飾りがしっかりと握られていた。



タイトルだけ先に思いついて、中身が付いて来ませんでした。
相変わらず何を書いているのか良く分かりません。

BACK