そして俺は彼女に起される


「桜木は、やさしいな。」
自然とそんな言葉が口をついて出た。

「えっ・・・?」
驚いた桜木が、こちらを振り向く。
セミロングの髪が遅れて揺れる。

光をなだめるのを頼んだときのような困惑した表情。
でも、そのやわらかそうな頬には赤みがさしていた。





皆の間隙を縫い、二階の自分の部屋へと避難した。
ここは、俺の家なんだが・・・。
まあ、言っても聞くような人達じゃないが。

落ち着かない。
ベッドに腰掛け、電話の子機をもてあそぶ。
ピッ・・・、ピッピッ・・・・。

プルルルル・・・、プルルルル・・・。

あっ。あれ?。かかっちまった!!。

「カチャ。はい、桜木です。」

えっえっ?。桜木ん家?。
短縮ダイアルに桜木ん家なんて入れてたか?

「もしもし?」

どうする?。切るか?。それとも?。

「もしもし?」

「あっ、ああ、すみません。神崎ですが・・・。」

「えっ、神崎君?」
受話器を通してもその驚きが伝わってくれる。

「さっ桜木?」
こちらも負けないくらいに動揺している。

「うん。こんばんは、神崎君。どうしたのこんな時間に?。」

時計を確認する。あっ!!。電話するような時間じゃないな。

「悪い。こんな遅くに。起こしちまったか?。」

「ううん。なんか今日は寝付けなくて・・・。」
こんな遅くに電話をかけた非礼を気にすることなく、話相手を見 つけて喜んでいるようなそんな雰囲気だった。

「あっと、神崎君の用件をお伺いしないと。」

あ・・・えーーーと。
「別に用という用はない。」

「ん?。そうなんだ・・・。」
ちょっと残念そうな声音。

「でも、桜木の声が聞けてなんか安心した。」
そう、不思議と緊張感が解けていく自分に気づく。

「そう・・・、よくわからないけど、神崎君の役に立ててうれしい。」
やさしい声音。俺の不安を包み込んでくれる。

「あのな、桜木・・・、俺・・・。」

「うん?。」
やさしく、俺の言葉を待ってくれる。

俺は、桜木に今何にをしゃべろうとしている?。
桜木を巻き込むつもりか?。
話せるわけないだろう。
これから俺達がやろうとしていることを・・・。

「・・・、悪い、なんでもない。」

「うん?。今日の、神崎君はなんか変だね。」
まあ、そうだろう。自分でも変だと思う。
こんな時間に桜木に突然電話したり・・・。
しかも、なんでもないとか・・・。

あんまり迷惑をかける訳にもいかない。
「悪かったな、こんな時間に。」
再度、謝りを入れ、電話を切る意思を伝える。

「ううん。そんなことないよ。神崎君と話せて嬉しかった。」
「また、明日ね。」

「ああ。」

プツ、ツーツーツー。
戦いが終わったら、真っ先に桜木に会いたい。
切れた電話を握り締めたまま、そう思った。

一階では、まだ皆が騒いでるようだった。
巻き込まれる恐れがあるが、現状を把握するため、一階へと降りることにした。
何も壊れていないといいのだが・・・。





戦いが終わり、地上に出たころにはすっかりと夜が明けてしまっていた。

教師陣はぐったりとしている。
これから、授業に出なければならないと。
生徒は今日一日、特別に休んでよいらしい。

「俺は、出席します。」
"また、明日ね。"と。彼女は、そう言った。
別に約束を交わしたわけではない。
でも、桜木に会いたい。

皆が、俺に目を向ける。
たが何も言わなかった。
光はかなり何か言いたそうだったが・・・。

光は、神楽を引っ張るようにして、俺を置いて先に帰ってしまった。





「おはよう。神崎君!」
教室へと足を踏み入れると同時に、声をかけられた。
見たかった笑顔がすぐそこにある。

「ああ・・・、おはよう。」
何かを言わなければいけないと思うのだが、何を言っていいのか分からない。

「そうだ・・・今日、光は休みだけど、心配するなよ。」
嬉しくてしかたないのに・・・。
他に、言いたいことが沢山あるのに、ろくなことが言えない自分が呪わしい。

「えっ?。あっ・・・うん。」

「じゃー、お休み。」
席に着き、座った瞬間に寝る体制に入る。
睡魔が我慢できなくなってきているし、これ以上、桜木と何を話していいのか 分からない。

「あ、あの?。昨日の・・・、神崎君?」

幸い、戸惑を含む桜木の鈴音色の声が、ここちよいまどろみへと誘ってくれた。

「もう。神崎君、昨日からどうしちゃったのかな?」





ゆさゆさ。ゆさゆさ。

「神崎君。起きて・・・。」

ゆさゆさ。

やさしい声とともに、体が揺れる。
意識が徐々に浮上する。

「ん?・・・、桜木?」
どうやら、俺を起こしたのは桜木さんのようだ。

「どうした?」

「ごめんね。起こしちゃって・・・。次、移動だから。」

「ああ、そうか。・・・、お休み。」

「えっ?。お休みって・・・。」
今日の桜木は俺の行動に困惑しっぱなしだ。
昨日からか・・・。
悪いな、桜木。

「体調悪いなら、保健室に行く?。それとも早退したほうが・・・?」
桜木は本当にやさしいな。

「いや、今日は、休んでも良かったんだ。教頭からもそういわれてたし・・・。」

「?。それじゃぁ、何で来たの?」

「昨日、電話で"また、明日ね"って言ったろう?」

「うん言ったけど・・・。それだけでわざわざ?」
申し訳なさそうな顔をする彼女。
別に桜木のせいじゃない。

「違う。俺が、俺が桜木に会いたかっただけだ・・・。」

「・・・・・っ!」
真っ赤になってうつむいてしまう彼女。
髪の毛がその表情を覆い隠す。

「悪かったな。昨日から変なことばっかり言って困らせて。」
「でも、昨日、話たかったのは本当だし、今日、会いたかったのも本当だ。」

「悪いな。」
もう一度、謝った。
桜木には嫌われたくない。

「ううん。謝られるようなことは何にもないよ。」
「なんか、神崎君、昨日から謝ってばっかりだね。」
彼女が顔を上げてくれる。まだ、その頬は赤い。

「最近、神崎君悩んでるような感じで、あまり話もできなかったから。昨日、今日と 話す機会が増えて嬉しいの。」
そういって、彼女は微笑んでくれた。

「そうか。ならいいんだが・・・。」
笑顔にどぎまぎしてしまう。
目をあわせているのが恥ずかしい。

「1つ頼みごとしていいか?」
紛らわすように、話題を変える。

「うん。私にできることなら。」
笑顔を崩さずに返事をくれる。
でも、表情には少し緊張が走ったようだ。
桜木がいやがるお願いなんてしない・・・君には・・・絶対。

「昼になったら起こしてくれ。」

「・・・うん。」
くすくす。
何をお願いされるかと思えば・・・。彼女にとってはそんな感じだったのだろう。
昨日からの俺の言動にもう慣れたようだ。
自分自身がまだ慣れていないのだが。

「それじゃ。私行くね。お休みなさい。」
そういうと、俺の前を通って廊下へと向かう彼女。
小さな風が起き、甘くやさしい香りが鼻腔に届く。
良い夢が見れそうだ。

「ああ、お休み。」

パタン。扉を閉める音が、小さく響く。
彼女が気を使ってくれたのだろう。

再び彼女に起されるのを心待ちにしつつ、再び眠気に身を任せる。


これでもかと言わんばかりに、女性キャラには個別のエンディングが存在する。
にもかかわらず、桜木さんだけはエンディングが存在しない。
ついでに、名前もわからない。
ということで救済のつもり。
ゲームをクリアしてずいぶん経つのに、やり直してみることもなく適当に書く。
主人公こんなキャラじゃないな〜。

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