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スミに置けない脇役の伝説 第6回

「OH!ラッキーマン」
ウィリアム・H・メイシー


メイシー


1997年は、彼にとっては生涯忘れがたい1年となったことだろう。
『ファーゴ』の演技により、オスカーにノミネート。 『ER』のモーガン・スタイン博士役でエミー賞にノミネート。

彼の名は…ウィリアム・H・メイシー。
97年ノミネート以降に出演した作品は、 『ブギー・ナイツ』『エアフォース・ワン』 『ワグ・ザ・ドッグ』などの話題作揃い。 年に5,6本も映画に出演すると、ギャラも1作品40万ドル (日本円に換算して約5700万円)と格段に跳ね上がった。 たかがオスカー、されどオスカー。 一夜にして、かくも鮮やかに1人の男の人生を、そして俳優としての キャリアを変えてしまう。
ウィリアム・H・メイシーは1950年3月13日、フロリダ州は マイアミに生れる。はじめは獣医を志し、カレッジに入学するが、 (なんとモーガン・スターン博士は獣医だった!?) 大学の演劇部で『ゴドーを待ちながら』『二十日鼠と人間』に出演。 お決まりのパターンではあるが、演技の魅力にとりつかれ、道を 変えることになってしまう。
一見、典型的にサル顔(失礼)、かといってそれほど目立つわけでもなく、 お世辞にもスター性があるとも言えそうにもなかった彼であるが、 実はこの時点から強運の俳優人生が始まる。

「第1の幸運」は、演技を学ぶため選んだヴァーモント州 ゴダード・カレッジで、ディビッド・マメットと出会ったことである。
マメットは後に『評決』『俺たちは天使じゃない』『アンタッチャブル』を 手がけることになる脚本家で、この時以来彼とマメットは、 学校の師弟というよりは友人として、お互いに協力関係を 結んでいくことになる。
1985年には2人で「アトランティック・シティ・カンパニー」を設立。 彼はここで演技の教師、演出家、俳優として活躍することになるのだ。
彼はこのころより、映画への出演にも意欲を見せ始めている。 ウディ・アレンの『ラジオ・デイズ』(87年)では、 映画の終盤カウントダウンをするラジオのアナウンサーといった 役でチョロッとその姿を観ることができる。
『ボビー・フィッシャーを探して』(93年)では、 チェスの天才ボビー・フィッシャーの再来とも言われる主役の 男の子と対戦することになってしまった子供の父親の役。 主役の子の父親の余裕ぶりに比べ、ナーバスで落ち着きのない メイシーの親バカぶりが、笑いを誘った。
しかし『妹の恋人』では、奥さんと休暇旅行先のことで揉める 気弱な芸能エージェンシーの役で、端役程度。 1980年『ある日どこかで』に出演以来、10数年、 途中マメットの監督作品『週末はマフィアと』(88年)、 『殺人課』(91年)では主役級の扱いではあったものの、 映画界ではパッとしない日々が続いていた。
ところがここで「第2の幸運」が訪れる。
『依頼人』(94年)でチョイ役とはいうものの、 医師の役が見事にハマり、それが同年の『ER』への 出演へとつながっていく。果たして獣医の勉強が役立ったか どうかはわからないが、白衣を着て患者に容体を説明する 様子は、誠にサマになっており、さすが獣相手とはいえ、 医道を志した者?は一味違うと思わせるほどのものがあったことは確かだ。
一旦『ER』で主役級の役につき、評判を得てからは 映画界でも俄然灯りが見えてくる。

『陽の当たる教室』(95年)では、黒ぶちメガネ、 角刈りの誠におカタい教頭の役。 生徒のスカートの長さをチェックするは、お金に渋い。 リチャード・ドレイファスが、授業でロックのピアノを 弾いていれば、「ロックン・ロールは規律を破壊する」 と校長に告げ口をする。 なんともイヤらしい役だったが、彼にとって、 映画界ではこれが最初の「陽の当たる映画」となった。

そして、その次が『ファーゴ』(96年)だ。
彼は冴えない車のセールスマン。いつもおどおどして自信がな、 奥さんにも怒鳴られてばかり。義父にはいつも馬鹿にされる、 気の小さい惨めな男。お客に見せるなんとも安っぽい笑顔が、 たまらなく惨めったらしくて、せつなくてとても良かった。
彼がいつも卑屈な顔をしているのは、家は奥さんのもの、車の 販売会社は義父のもの、自分ではなにひとつ自由にやらせてもらえず、 頭の上がらない生活をしていたためで、誠に可哀相。 子供には優しく、罪のない男のように見えたが、 ちょっととんでもないことを思いつき、それがもとで 大変な事件が起きてしまう。
彼の顔、演技、安っぽい笑顔が誠に強烈なイメージを残し、 これが見事オスカーの候補となる。 舞台で培われた演技が、ついにここに大輪の花を咲かせた… そんな印象がする。
この作品こそが「第3の幸運」。その後の彼の売れっ子ぶりは、 冒頭で書いたとおりである。
『エアフォース・ワン』…事故を犠牲にして、大統領を救う少佐役。
『ワグ・ザ・ドッグ』…食わせもののFBIの捜査官。

活躍の場は確実に増えている。 今、ハリウッドでは実力がある個性的な脇役が若干不足気味。 英国俳優にその場を与える機会が増えている。 そんな中で、彼の個性は光り輝き、これからも貴重な バイプレーヤーとして、大いに活躍を期待したいものである。

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