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スミに置けない脇役の伝説 第1回

生涯端役の人生なんて…

ヴィンセント
ヴィンセント・スキャベリ

脇役というよりは、「永遠の端役」というような人である。はたしてご存知の方はいるだろうか。

彼との最初の出会いは、「カッコーの巣の上で」であった。この映画には実に強烈な個性の持ち主が集め られている。 ウィリアム・レッドフィールド、ウィル・サンプソン、スキャットマン・クロザース(「シャイニング」)、 ブラッド・タリフ(「ミシシッピーバーニング」の暴力警官)、売れる前のダニー・デビート、クリストファー・ロイドなどなど。 そんな凄いメンバーの中においてさえ、彼の姿は目立っていた。彼の目はスリーピーアイ、いやそんな生易しいものではない。 45度に傾いてしまっている。"ちょっとイッちゃってる"といった感じなのだ。おまけに巨体である。 私はモノホンの患者かと思ってしまった。

彼のセリフは一言だけだ。「一人でいるっていうことは、病気っていうことですか。」彼は小柄な おじちゃん(「フライング・コップ」の靴磨きのおじさん)と仲良しで、患者たちご一行で釣りに出かけた際、巨大な魚を釣り上げ、 二人で誇らしげに抱えていたのが妙に印象に残ってしまった。

その後も、彼の姿はちょくちょく見かけた。「グリニッジ・ビレッジの青春」「アマデウス」「恋の掟」。 特にミロシュ・フォアマンの映画では常連のようで、映画にはコンスタントに出続けているようだったが、相変わらずセリフは一言だけだし、 当然名前もわからない。(プログラムに載らないからなのだが。)でも気になってどうしようもない存在になってしまった。

そんな時、突然彼にもスポットライトが当たるときが来た。「ゴースト ニューヨークの幻」である。 彼の役は"サブウェイ ゴースト"。地下鉄の電車の中をさまよい歩き、乗客の新聞を盗み読みするのを唯一の楽しみとしている ゴースト。彼はすごいパワーを持っていて、ゴーストでありながら物に触れたり、壊したりすることができる。 そこで彼はパトリック・スウェイジにその技を伝授することになるのだ。ヴィンセント一世一代の大芝居の始まり始まりぃ。 「ハハハハッ、恨みをパワーにするんだ。もっと集中させて。」「ダーッ」

凄い形相である。この人は普通の顔をしている時でも、すでにモンスターはいっているのだからなおさらだ。 果たして彼の恨みとは何ぞや。 「俺はな、まだ生きられたんだ。それがな、突然ここで誰かに突き飛ばされたんだ。自殺じゃないぞ。殺されたんだ」 はっきりいって自殺である。殺されたのなら「誰か」はわかるはずである。彼は恨みをはらそうにも、それを向ける相手もなく、 永遠にさまよい続けるのである。「神様、せめて一本のタバコを吸わせてくれぇー」なんとも情けないヤツである。 しかし、彼のファンの一人として、これだけの見せ場があったことは、大きな喜びであった。 「苦節25年、やっとここまできたか」感慨ひとしおといったところだ。

しかし、こういった役者はどうやって食べているのだろうか。なにせ25年間もの端役生活である。副業でもなければやっていけない。 彼の場合は…。ご心配なく。彼は役者だけでなく、すでに本のほうで有名になっていたのである。「Papa Andrea's Sicillian Table」 という料理の本が、あちらではずいぶん売れたそうである。日本からでも手に入れる方法はあるようなので、篤志家はお試しあれ。

ともかく、彼は「ゴースト」から多少売れるようになった。 日本でも、最新作「ラリー・フリント」ではプログラムに名前が紹介されていた。「Show Biz」に出演し、インタビューも受けた。 「私はこんな顔ですし、おまけに体がでかいので、オファーがくるのはオカルト映画のモンスター役や、精神病患者の役ばかりなんです。 それが悩みの種です。」

新作は、「007/トゥモロー・ネバー・ダイズ」のDr.カウフマン役。果たしてどんな演技をみせてくれるか。

「まけるな、ガンバレ!!」…THE END

主な出演作品

「華麗なるギャッビー」('74)
「新・明日に向かって撃て!」('79)
「初体験 リッチモンド・ハイ」('82)
「天使が降りたホームタウン」('89)
「バットマン・リターンズ」('92)

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