J/
今日は、『ハイ・フィデリティ』なんだけれど、このタイトルは言いにくいね。どういう意味があるんだろうね。
B/
フィデリティ証券なんていうの聞いたことあるわね。で、調べてみたの。フィデリティは「信頼」、ハイがつくと、高い信頼、それにハイ
・ファイ・サウンドの「ハイ・ファイ」っていう意味もある。音楽オタクが主人公の映画ってことで、このふたつの意味をひっかけてるの
ね。
J/
結構考えられたタイトルなんだ。でも日本のタイトルはなんとかならないのかねぇ。
B/
けれど、この映画『ギャラクシー・クエスト』につづいてまた、オタクたちの映画というのが、面白かった。
J/
この映画で、自分のオタク度を僕は測ってしまった。(笑)
B/
じゃ、試してみようよ。@自分のお気に入りの曲をテープに録って、プレゼントしたことがある。
J/
YES.
B/
Aレコード屋(ビデオ屋)に行って、そんなのはやめたほうがいいと言ってしまったことがある。
J/
NO.けれど気持ち的にはよくわかる…
B/
B家では、レコードが自分の思い出順にきっちり整理されている。
J/
NO.映画のプログラムは、50音順に並んでいるよ。映画みたいに見出しもついているな。
B/
Cベスト・テンとかつけるのが好き
J/
YES.これは一年の年中行事だものね。
B/
Dその人の価値基準を、音楽(映画)の知識の豊富さで決めてしまう。
J/
絶対にNO.もっとも映画の場合は、その人の映画の好みや、感想などにその人の性格なりが反映されているから、人を知るヒントにはな
るね。まあ、とりあえずオタクではなさそうだ。
B/
そうかしら。かなり近いと思うけど。(笑)
J/
オタクとマニアの違いってなんだろうと考えたことあるのだけれど、この映画を観るとそれがよく出ていると思うよ。人にどう思われると
か、そういうことをまったく気にしない人、それは自分のことしか考えていないからなんだけれど、そこまでいけばオタク。自分の世界は
持っていても、それを人に押付けない人はマニアなのではないかと。
B/
店に勝手にいついちゃったアルバイトのジャック・ブラックはそういう意味では、絵に描いたようなオタクで、素晴らしかったわね(笑)
J/
自分の気に入らない曲は、欲しい人がきても追い返してしまう。妥協ということを知らない。人の尺度も知識があるかないかで計っている
ようなところがあってね。
B/
すごいのは、落ち込んでいる主人公のためにテープに録る曲を選んであげようと、最初は彼のことを思いやっているかのように選曲を始め
るのだけれど、段々興奮してきてしまい、主人公のことはそっちのけで、あれがいいこれがいいと、一人で盛りあがっていってしまうとこ
ろ。迷惑はなはだしい。
J/
本題とどんどんズレてっちゃってね。こういう人ってでもいるよね。
B/
あの感覚は身近にそんな人がいた人でなければ、描けない(笑)
J/
主人公のジョン・キューザックと監督の姿がなんだかだぶってくるんだね。おそらくこれは実体験に違いない。かなりの部分自伝的要素が
あるんじゃないかと思う。
B/
ジョン・キューザックのほうは、オタクといっても、人の目を気にしているところはあるし、ちゃんと商売もしようとはしているから、そ
の点ではまだまだ中途半端なのね。
J/
だからこそ、どうして自分はこんなに振られるのだろうって、昔の恋人たちを訪ね歩くんだものね。まるで『舞踏会の手帳』みたいにね。
ただあの映画と違うのは、あれが、訪ね歩いた人たちのその後の人生だったのに対して、この映画はあくまでも、主人公自身の人生を振り
かえることになっている点。あくまでも自分は相手にどう思われていたかってことにしか興味にない点かな。
B/
だから、自分の顔をあっちから、こっちから鏡で眺めているナルちゃって感じがするのよ。私はこういう男は嫌いだな。ちょっとウディ・
アレンにも共通するところがある。
J/
確かにこの映画、ウディ・アレンっぽいところあるね。主人公が観客に語りかけてくるというのも。彼がオタクだから、それがごく自然に
見えるところがいいけれど。舞台はでもシカゴなんだね。目の前に広がるのは、ハドソン河でなくて、ミシガン湖。
B/
自分が過去に付き合った女性のところへひとりづつ訪ね歩いて、自分の傷を癒していくなんて、とんでもない奴。訪ねられた側からしたら、
逆に過去の傷をほじくり返されたようなものだもの。
J/
確かに中にはそういう人もいたね。彼とつきあって、いきなり振られたことが、トラウマになった女性とかもいたからね。
B/
訪ねてみたら、原因不明の難病になってて、やっぱり別れて良かったっていうのは、気持ち的にはわからないでもないけれど。
J/
けれど年数が経つにつれて、記憶っていうのは、自分の都合のいいように変ったり、あるいは美化されてたり、わからないものだね。
B/
彼の場合は、失恋したことに酔っているフシがある。だから本当は自分が振ったのに、いつの間にか、自分が振られたという風にすり
かわっていたりするのね。その辺がとても自己中心的なのね。
J/
けれど、彼も成長しているんだよ。キャサリン・ゼタ・ジョーンズが若い時には、大人の女っていう感じでただただ圧倒されていたのに、
それが再会したらとてもつまらない女に見えたのだから。
B/
他人は、自分自身の鏡でもあるのね。久しぶりにあってみたら、この人こんな人だったかなって思うこともあるし、逆に相手の自分への対
応が、きっと昔のままの対応なのかもしれないけれど、居心地悪かったり。それは、相手が変っているってことだけじゃなくて、自分自身
が変っているからということもある。
J/
この映画は主人公の回想場面と、今現実に会っている場面とをとてもうまく区別していると思うな。これ回想場面を観ている時に観客に「
彼はなんであんな女に熱をあげているんだろう」と思わせちゃったら失敗だものね。回想場面のキャサリン・ゼタ・ジョーンズは本当に素
敵に見えるし、現在の場面では確かに色あせて見える。目立たないけれど、これこそがこの映画のうまいところだよ。
B/
彼もさすがに、色々な女性とつきあってはいるから、人を見る目は進歩しているのかもね。でも結局振られてしまうのは、自分自身の本音を
相手に伝えられないところなのね。それができて初めて彼は、伴侶を見つけることができる。
J/
最後に同棲していた彼女が走った別の男というのも、すごかったね。ティム・ロビンス!こちらは東洋趣味オタク。
B/
でもかっこばかりで、中身があんまりなさそうでね。彼女と食事中、テーブルになんか距離感がある。言葉もかっこもキザっぽい上に自分
自身がそれに酔っているというのが、あまりにも気持ち悪い。これまた最悪のタイプ。
J/
オタクたちは、こういう中身のない人には特に敵対心もっちゃうね。店に訪ねてきて、「交際宣言」みたいなのされちゃって、もうボカス
カ殴りまくり。
B/
ティム・ロビンスは撮影中、NGも含めるといったい何回ぐらい床に押し倒されたのかしら(笑)
J/
けれども、殴っていたのが想像の世界であって、結局なんにもできないというのが、なんだか悲しいね。そうしたくても、相手は社会的に
は、自分たちよりステータスはありそうだし、お金も持っているとなると、どっか気遅れしちゃったりしてね。
B/
ああ、愛すべきオタク・ワールド(笑)
J/
この映画は、ひとりの男の成長物語としてとても面白いと思う。とても実感が伝わってくるから。オタクの人には、ご自分の人生のご参考
に。そうでない方は、オタクの生態を知るチャンスとして、元オタクの人には、自分がたどってきた道をもう一度振返るという意味で、観
ていただきたいです。
B/
それは、あなた自身のことね(笑)まあ、何当たり前のことぐずぐずとやっているんだかと思ってしまえばそれまでなんだけれど、それにし
ても、監督自身の経験ではと思えるほどの実感みたいのが感じられるところが、なんだか微笑ましくもある映画だったかな。
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