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第89回「あの子を探して」

監督…チャン・イーモウ
脚本…シー・シアンション
撮影…ホウ・ヨン
音楽…サン・パオ
キャスト…ウェイ・ミンジ、チャン・ホエクー
チャン・ジェンダ、カオ・エンマン


1998年中国・米(コロムビア・ピクチャーズ)/上映時間1時間46分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ いい映画だねぇ。村の小さな、おんぼろな学校。この学校の風景がまるで昔の日本を観ているようだった。といってもその時代は、映画で しか観てはいないのだけれど。

B/ 羽仁進監督のドキュメンタリー映画にこんな風景ってあったじゃない。教室にカメラを持ち込んで、授業風景を映したやつ。それこそ、リ ンゴのほっぺの子供たちがたくさんいた。腕白そうな子、みんな元気良く手を挙げるのに、挙げられない内気な女の子、いつもソワソワし ていたずらばかりしている子。貧しいけれど、子供たちの顔は活き活きしてたわよね。

J/ 主役の男の子、ホエクーがいい顔してるんだ。いかにも腕白そうで。でも、日本にもこんな顔をした子供が、昭和30年代、高度成長期に 入る前くらいまでは、いたんだね。

B/ 代用教員として村にやってきた、女の子も良かったわねぇ。

J/ この映画のいいのは、ドキュメント・タッチなのだけれど、全体を通して、常にユーモアに溢れているところ。子供たちに自由にやらせて いる。それでいて、彼らがどんな行動をとるか、まるでその辺も計算に入れて撮っているようだね。

B/ 山間の村の小さな学校。土が乾いていて大変貧しい村の粗末な学校が舞台。学校のたったひとりの先生が、親戚の葬式に行くというので、 1ヶ月間休暇をとることに。それで代用教員がくるのだけれど、これがせいぜい中学生くらいの女の子なの。ほっぺたが真っ赤で、この 子じゃ、あの悪ガキどもは、とてもじゃないけれど御しきれないと思っていたら、案の定でね。

J/ おまけに、この子全然やる気もなくって、ただお金だけが目当て。だから、黒板に教科書の文章を写して「じゃ、清書しなさい」って言 ったきり後は知らんぷり。男の子が騒ごうがお構いなしで、さっさと教室の外に出て、ボンヤリと外を眺めている。

B/ 子供たちは、自分たちよりちょっと年が上ってだけの先生だから、はなっから馬鹿にしたところがあって、おまけに全然やる気がないから、 好き放題暴れて。あげくの果てに、本当の先生がやっとの思いで買ってきた真っ白い、おニュウのチョークがこなごなになってしまうのね。 1ヶ月間をそれでどうにか持たせなさいって言われていたのに。

J/ 唱歌の時間では、課題の曲を途中まで歌って忘れてしまい、違う歌にしましょうって。まあ、中国共産党が云々っていう歌だったから、子 供には、覚えにくいっていうのもあるのだけれど…監督自身の皮肉かもしれないね。村長さんが様子を見にきたら、お昼近くになるってい うのに、校庭で子供たちが遊んでいて、この少女先生いっこうに授業を始める気配がなくて、怒られてしまう有様でね。

B/ 彼女も自分が子供たちにバカにされているっていうのもわかるから、自分の言うことを聞かなかったらどうしようっていうことも、当然考 えるわけで、それで最初からなんにも言わないってこともあるのよ。最初に「なんだぁ、隣村の誰々のお姉さんじゃんかー。」ってからか われちゃったこともあってね。自信なくしちゃってるの。

J/ 途中で怒りにまかせて、子供たちを叱ったら、案外におとなしくなったんで、それからは勇気が涌いくるんだ。今度は逆に「明日までに 出欠の名簿を作りなさい」って、有無を言わさないような態度になって。(笑)

B/ 腕白だけれど、笑顔がとっても人懐っこいホエクーが、家の事情で学校を辞めさせられることになった。それで、彼女は彼をなんとか学校 に連れ戻そうとする。もちろん彼のことを思ってというんじゃなくて、「戻ってくる間に生徒が減っていなかったら、ボーナスをやろう」 っていう先生との約束があったから。いわばお金欲しさに。

J/ ここからがいいね。どうやって彼を連れ戻そう。バスはいくらかかるんだろう。それじゃ、そのお金はどうやって手に入れよう。ひとり が、レンガを何個運べば、その金額になるのか。じゃ、全員でどれだけ時間がかかるのか。これを生徒に解かせる。急に授業にも熱が 入ってくる。あんなに騒がしかった子供たちが、その目的のためにひとつになって、一所懸命考えている。

B/ 村長さんがその様子をガラス越しに覗いて、「算数もやっているのか。なかなかやるわい」って勘違いして感心してるの(笑)

J/ でも考えようによっちゃ、何かを学びたいって気持ちは、そんなところから涌いてくるもので、本来の勉強ってそんなところから始め るべきものなのかもしれないね。

B/ 日本の学校の試験問題なんて、まるでひねくれたクイズやっているみたいなのよね。新聞でこんなのが出てたわよ。「これは、ある国の 温度と降水量の年間グラフです。この国では人口密度が希薄です。それでは、人口密度が低くなる、自然的な条件はなんでしょう」 ふーむ、これは降水量が極端に少なく、気温が年間を通して高いから砂漠だな。アフリカの方の国だろう。ナイル川流域は、雨が少なくて も川の恵みで、必ずしも人口密度は低くない。じゃ、別の国かな。まあ、出題者の意図は乾燥していて、植物が育たない、砂漠気候という 答えを出させたいのかな。なんて考えちゃうの。でもなんかヘンだなって。

J/ オーストラリアだって、人口密度は低くない?アイスランドだって、シベリアだって。

B/ でも、、シベリアは国じゃないわね。モスクワも同じ国だし、これは国の平均ってことだから、答えからはずれる。でも地域の気候ならわかる けれど、国の平均っていったい何なのかしらとか、結構色々考えちゃうわね。とてもじゃないけれど、私には解けなくなってくる。

J/ なんか、物事の本質というよりは、試験に受かるための技術みたいな勉強になっちゃうんだよね。なにかが間違っている。

B/ だから、この映画がとても純粋に見えてくるのね。黒板に生徒のひとりひとりが、文字を書いていくシーンには感動を覚えてしまったわ。 「家」「水」「学」「国」「天」「老」嬉しそうに自分の知っている文字を書いているその姿。文字ひとつひとつに意味があって、その 中に思いもこもっていて。学ぶっていうことは、こんなに素晴らしいことだったのだと。

J/ 映画の後半は、少女が街にホエクー少年を探し歩く話しになる。最初は、お金のために動かされてた彼女だったけれど、墨汁と半紙を買っ て、尋ね人の貼り紙を一晩かけて書くあたりから、気持ちが変わってくる。最後は墨もつきてしまって、しかたがないから、水で混ぜて それでもって書いている。

B/ 粘り強い子よぇ。少年を連れ戻したい。それにもまして行方不明になってしまった彼に会いたい。心配でしようがない、その一心なのね。

J/ 少女が明け方まで駅のベンチで、黙々と文字を書くシーン、きれいだったよ。それから、疲れ果てて路上で寝てしまうところ、オレンジ色 の街灯の明かりに包まれてね。少しずつ空が薄明るくなってくる。まだ太陽が昇る前の青い光が、大気に満ちてくる。誰もいない道路に清掃 のおばさんたちが、ほうきを持って現れて、掃き始める。丸くなって眠る少女。せっかく書いた貼り紙が、少女の脇で風に舞う。それでゴ ミといっしょにかたずけられてしまう。少女の一途な思い。それと、そうは甘くない社会。そんなのが、よく出ていて、なんだかせつなか った。

B/ 最近よく公開されているイラン映画でもそうなのだけれど、子供を描くと、逆に社会がよく見えてくることがあるわね。この映画の後半っ ていうのは、それが顕著に出てくるのね。

J/ 今、中国っていうのは市場開放路線で、繁栄してきている一方で、貧富の差が出てきていることが問題になっているんだよね。この映画を観る と、田舎の子供たちの多くが、都会に働きに出てきていることがわかる。しかも集団で出てきて、昔のたこ部屋みたいなところで寝泊まり しているんだ。子供だというのに、お金お金ってそれしか頭にないみたいで。田舎と、都市にそれだけの格差が出てきているんだよね。

B/ 早くに働きに出て、学校にもろくに行けない。行ったとしても、粗末な小屋が校舎で、チョークさえ買うのがやっと。そうやってますます 格差が広がりつつあるのね。

J/ 迷子になっちゃったからとは言え、都会の人たちが、おいしそうにご飯を食べているのを横目に、薄汚れた服を着た少年が、指を咥えて 歩いているさまには、やっぱり、厳しい現実を感じる。

B/ ただ、お店の人が見て見ぬふりをするんじゃなくて、「そんなところにいると、商売アガッタリだ」と言いながらも、奥に呼んで食事を させてやるだけの人情があるのが救いではあるけれど。

J/ ただし、お役所の場合は、そうはいかなくて、「規則だからダメ」の一点張りで、融通が利かないところなんかもしっかり見せてるね。

B/ 共産主義的なるものと、資本主義的なるものが、複雑に入り組んで、社会が混乱しているきらいはあるわね。

J/ 確かに映画自体は美談といった感じになってはいるけれど、あちらこちらに社会風刺を感じる映画だよな。

B/ 監督が最近のイラン映画の影響を受けたかどうかは、わからないけれど、明らかにそれと通じる部分がある映画なのね。見事な映画だったわ。

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