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第87回「ムッソリーニとお茶を」

ムッソリーニとお茶を 監督…フランコ・ゼッフィレリ
脚本…ジョン・モーティマー&フランコ・ゼッフィレリ
撮影…デビッド・ワトキン
音楽…アレッシオ・ブラド&ステファーノ・アルナルディ
キャスト…シェール、ジュディ・デンチ
ジョーン・プローライト、マギー・スミス、リリー・トムリン


1998年ユニヴァーサル/上映時間1時間56分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ この映画は、第二次世界大戦が舞台になっている。大戦前夜から始まって、大戦末期に至るまでの10年の物語。イタリアのリゾート地 に段々と黒い影が忍び寄って、アレヨアレヨという間に、戦争に突入していく。その気分というのがとっても良く出ている。アガサ・ク リステイがこんなことを言っていたよ。「前の大戦ほど思いがけないものではなかった。前兆はあった。が、わたしたちはチェンバレン 首相の保証、彼がわれらが世に平和を、といっているので、それが真実と思っていた」

B/ 色々なところに前兆は出ているのに、この映画でもムッソリーニの言葉を信じ、まさか英国とイタリアは戦争にはならないし、私たちは 平和の中で暮らせるだろうって、呑気に構えている英国人の姿が出ているわね。

J/ エドワード・フォックスとバネッサ・レッドグレイブの『湖畔のひと月』もこの時代、しかも同じくイタリアのリゾート地コモ湖を背景 にしていたけれど、やっぱりそんなムードが出ていたものね。

B/ 段々戦局がきびしくなって、そんな英国人の楽観論は、ガタガタと崩れ落ちしだいに暗い時代に入っていくのだけれど、この映画にはど こかのどかな感じがずっと残っていくのが面白いわね。

J/ 生死の危険にさらされるシーンとかもあるのだけれど、どこかオブラートに包んだようなところがあるんだね。イタリア人の男の子を真中 に置いた、典型的なイタリア映画のスタイルになっているからなのかな。

B/ そうね。ノスタルジーの色が濃いのよね。でもこの映画がノスタルジーだけの甘ったるい映画っていう風に見てしまうと、それは違うと 思うのよ。この映画はある意味で監督の理想の世界だと思うから。ゼッフィレリ監督の映画や美術、それと人々への愛情に溢れている映画 だと思うのね。

J/ この映画って実話なんだよね。といっても、ある英国人の婦人の回想録からエピソードを抜き出しているっていう意味だけで、全体のスト ーリーはフィクションなのだけれど。監督が英国人とアメリカ人の婦人たちから可愛がられる少年、やがて成長して、レジスタンスに身を 投じているこの少年に自分自身を投影させているんだね。そこに実際には自分はいなかったけれど、でも映画の中では、まぎれもなく若い 頃の自分が、そこにいるという風に。まるで監督の回想録のようなスタイルになっているんだ。これがこの映画の鍵だと思うよ。

B/ ゼッフィレリ監督は1923年生まれだから、丁度この映画の中の少年と年齢がだぶるのね。両親と縁の薄いこの少年が、英米の女性たち に育てられる。ある人は、少年にイタリア美術の素晴らしさを教えてくれる。ある人はシェイクスピア劇の舞台の美しさを教えてくれる。 それをしっかり吸収して、成長していくこの少年役の男の子もとってもいいわね。監督が彼に自分を重ね合わせているだけに、彼の存在 っていうのは、ひとつのポイントなのね。

J/ シェイクスピア劇といえば、素晴らしいシーンがあるよね。

B/ ジョーン・プローライトが、子供に紙で出来た舞台の模型を使って、シェイクスピア劇の素晴らしさを教えるシーン。舞台の真上に電燈を 引っ張ると、舞台の上がオレンジ色の明るい光に包まれて、まるで夢の世界のようになるの。丁度『ロミオとジュリエット』のバルコニー のシーンのセットが舞台には組まれていて、ふたりの紙の人形が立っている。その人形を子供といっしょに動かしながら、セリフを朗読 する、その素敵なこと。

J/ ゼッフィレリ監督は、映画では『ロミオとジュリエット』が代表作だし、もともと舞台の演出家として出発しているんだよね。シェイクス ピア劇が大好きで、多くの舞台を手がけて、特に『ロミオとジュリエット』を本場英国で上演して、大絶賛されたという経歴の人。だから このシーンは、監督の原点であり、彼がいかにシェイクスピアを、舞台を愛しているかっていう気持ちがいっぱい伝わってきたな。

B/ 特にシェイクスピア劇を好んで見ない人が見てもあのシーンには、ジーンとくるものがあるわよ。

J/ ドイツに留学する子供を英国の女性たちが、送り出すところもいいね。あのそうそうたる女優たちが、みんなでシェイクスピア劇のセリフ を朗読しながら送るシーン。あんなシーンはそうそうは観れないよ。

B/ 古い教会の壁画を破壊しようとしたイタリア兵、それを女性たちがみんなで守ろうとする。誇り高い英国人も、ユダヤ系のアメリカ人も、 みんなが手をつないで、人の鎖を作って。とても感動的だった。結局この映画で監督が言いたかったことはこれなんだなと。美しいものを 前にしたときの、それへの畏敬の念っていうのは、みんな同じ。それこそが人種も国籍も超えさせてしまう。そんなところからみんなが理 解しあえるのではないか。これは監督の映画を作りつづける理由であり信念かもしれないわね。

J/ それにしてもこの映画は、よくもまあこれだけの女優をそろえたものだね。この映画のタイトルの別名は『2デイムス&ア・レディ』って 記者の間では言われてたんだって。

B/ デイム・マギー・スミス、デイム・ジュディ・デンチ、レディ・オリビエことジョーン・プローライトね。イギリス演劇界の重鎮。しかも アメリカからはシェールと、リリー・トムリンなんて、こんなにすごい人たちが一同に集まって、逃げ出さなかった監督はエライ(笑)

J/ それぞれが、自分の持ち味をとってもよく出していて、もう彼女たちを見ているだけで楽しいものね。

B/ ジョーン・プローライトは、本当に人を包み込むような優しさがあるわね。子供を相手に演技している時の彼女のうまさったら、もう素晴 らし過ぎる。でも優しいだけじゃなくて、彼女は他の女性たちに較べて、とってもしっかりしたものを持っていて、芯の強さをも感じさせ るところが、とってもいいわ。

J/ 昔、ローレンス・オリビエがなんであの絶世の美女ヴィヴィアン・リーと離婚して彼女と結婚したんだろうって思っていたけれど、あの 包み込むような雰囲気に惹かれたんだろうね。それはヴィヴィアンにはないものだものね。

B/ それと映画によってまったく変わってしまうジュディ・デンチ。女王陛下から、007のM、ある時はアイリッシュの典型的な女性。この 映画では美しいものには人生を賭けてもいいというほど情熱的で、でもちょっとおっちょっこちょいで、不器用な愛すべきキュートな女性 を伸び伸びと演じてる。犬をとっても可愛がっていて、それが不安定なところもある彼女を、なぐさめているのかも。やっぱりこの人もす ごいわね。

J/ 意地悪な役をやらせたら右に出るものはない、マギー・スミス。でも単に意地悪っていうんじゃなくて、彼女の場合は堅物なんだよね。 『眺めのいい部屋』の頑固で殻にこもって独身を通した、可愛そうな女の役とかがとっても印象に残っているけれど、この映画もそう。 大使の未亡人っていう過去の誇りだけにしがみついていて、新しいものはまったく受け容れられない女性。その特権的な地位にすがって、 事実を見誤ってしまう。

B/ 彼女にとっては、外交官の妻ということが大変な誇りになっている反面、自分の息子や夫を失った今となっては、それしかすがるものがな いとも言えると思うのね。そんな悲しい過去を背負っているから、孫には危ない目に合わせたくないって、まあ彼にとってはありがた迷惑 なのだけれども、彼を守る気持ちがとっても強いの。意地悪に見えるけれど、一皮むけば、やっぱり気の毒な女性なのよ。

J/ でもここだけの話しなのだけれど、マギー・スミスって気難しいのは地らしいよ。僕らの友人がマギー・スミスの大ファンでとうとうイギ リスで彼女の芝居を観て、楽屋口まで訪ねたことがあったよね。

B/ あああの話しね。日本からはるばるお土産を持って彼女に手渡ししたら、彼女いわく「これ、爆弾じゃないでしょうね」(笑)それでその 後、しばらくしてお土産のお礼の手紙がきたっていうんで、喜んで封筒を空けてみたら、秘書の打ったタイプだった。まあ忙しい人だから 仕方ないといえば、それまでなのだけれど、サインもなし、それどころか、差出人の名前まで、秘書名義だったのね。(笑)

J/ まあ、良く取れば、「爆弾」はブラック・ジョークで、秘書名義っていうのは、正直を良しとしていることなのかもしれないけれどね。 でも変わった人であることは間違いないね…おっとごめん、話しを映画からそらしてしまったようだね。シェールがいきなり派手な格好 で、派手なスポーツ・カーで乗りこんできて、これまたすっかりはまっていたね。

B/ 今度のシェールは本当に良かったわ。マギー・スミスたちのことを 「サソリ族」って言われて散々嫌っているのよね、彼女。
秩序と平和を愛するマギー・スミスにとって、こんなににぎやかで その場の空気を変えてしまうような女はとっても許せないわけ。 ユダヤ人で、お金持ちと結婚して、その財産でもって、 絵画を片っ端から買いこんでて、一見嫌味な女なのだけれど、中身は全然違うのね。

J/ とっても勇気のある人。ガッツのある人、それでもって心の広い人なんだよね。ただ派手なだけじゃなくて、そういう深みを見せてて、 シェールの演技は『月の輝く夜に』以上の素晴らしさだったと思う。

B/ 最初のシーンで親友の子供と再開した。その時の子供を見る時の目が本当に優しいね。言葉も心底優しいわよね。

J/ ある意味でシェールとマギー・スミスっていうのが、物語のはじめから対極になっているんだよね。自由奔放さと固くなさ、明るさと暗さ っていう点で。でも物語が進むにつれて、このふたりが底に優しい気持ちを持っていて、哀しみも持っている。対極ではあるけれど、実は 弱いひとりの女性がそこにはいて、ただ見かけを強く見せて生きようとしているという共通点もあって、二人がコインの裏表のような気が してくるんだ。

B/ 後半でこのふたりが、物語のひとつのポイントになってくるわね。相容れないこのふたりが、他の人のひとことで、急に打ち解けるという のも、唐突ではなくとっても説得力があるのは、彼女たちの底に共通するものがあることを彼女たち自身が、どっかで感じていたからなの ね。

J/ リリー・トムリンも充分に持ち味が出ていたね。レズで、いつもパンツを履いて、スカートを履くことがない。遺跡の発掘をして顔が真っ 黒になっている。とっても行動的で、さっぱりして、物事ははっきり言うけれど、ユーモアもいっぱいで、この人がいるだけで元気が出て くるみたいな。細かいことにこだわらないから、英国人のご婦人たちと、シェールの間に入って蝶つがいみたいな役目にもなっているね。

B/ 彼女たちの演技が見事なアンサンブルになっているわね。ひとりだけが出過ぎることもなく、それぞれが持ち味を最大限発揮して。あれ だけの個性的な人をひとつにまとめられるのは、監督の手腕ね。

J/ 彼女たちも見事にそれに答えて、おかげでそれぞれの人物がとっても深みがあって、それが映画の深みにもなっているよ。

B/ 彼女たちひとりひとり、色々な性格の人がいて、異なった環境でもって人生を送ってきて。でも彼女たちに共通するのは、美しいものを愛 し、平和を愛していることね。それと誇りを持っていること。誇りがあるから、それぞれ内に大変な勇気を持っている。

J/ そこには人間の尊厳みたいなものが感じられるね。この映画は、そんな素敵な女性たちを通して描いた人間への賛歌なのかもしれないな。 映像のスタイルがノスタルジックで多少夢の中の出来事のようになっていのも、そうした部分を強調したかったということもあると思う。

B/ やっぱりこの映画は、ゼッフィレリ監督にとって、自分の芸術への思いや、自分の心のルーツを描いた、自分自身の集大成なのかもしれ ないわ。これは彼自身がひとつの夢を語った映画なのじゃないかと思うのね。私たちにとっても素敵な夢になったわね。

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