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第86回「インサイダー」

insider 監督…マイケル・マン
脚本…マイケル・マン、エリック・ロス
撮影…ダンテ・スピノッティ
音楽…ピーター・バークandリサ・ジェラード
キャスト…アル・パチーノ、ラッセル・クロウ、
クリストファー・プラマー、フィリップ・ベイカー・ホール

1999年ブエナ・ヴィスタ(東宝東和)上映時間2時間38分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『インサイダー』は久々にアメリカ映画らしい、なおかつ骨のある映画だったね。

B/ 私は、毎週「60ミニッツ」を楽しみに見ているからとても興味深かったわ。

J/ 実に番組をよく研究しているよね。インタビューする時のカメラ・アングルから椅子の位置まで、そっくりそのままに再現されているよ。 クリストファー・プラマーって『サウンド・オブ・ミュージック』のお父さんをやった俳優なのだけれど、60ミニッツに登場するマイク・ ウォーレス記者に話し方や身振りまでそっくりで、ずいぶん役作りをしたのだなぁって感心してしまった。

B/ この間、丁度「イスラエルのレバノンからの撤退」という特集をやっていて、その中でレバノン側の重要人物にインタビューをする場面が あったのだけれど、映画の冒頭のシーンにまるっきりそっくりで、思わずスゴイっと思ってしまったわ。

J/ なんか、どこかの一室でやっているのだけれど、いかにも急場で作ったインタビュー・ルームといった感じだったよね。あの背後で映画で 出てきたようなやりとりがあったのかと思うと、番組がますます面白くなってしまうよね。

B/ 映画がとっても現実を忠実に再現しているから、あの映画でおこった出来事に、より一層の信憑性がでてくるのよね。

J/ ある場面では手持ちカメラを使ったり、ある場面ではテレビ画面をそのまま映したり、あるいは、スタジオの編集室のモニターを映してみ たりと、臨場感をだすための工夫も随所にちりばめられているんだよ。この映画では常に、これが実話であることを観客に意識させるこ とも大切だったんだね。

B/ 実際あんまり映画がよくできているんで、ブラウン&ウィリアムソン社が「この映画の一部は捏造だ」ってクレームをつけたんだって。 でも映画の最後で「この作品の一部にドラマ化された部分がある」ってテロップが流れるじゃない。それで逃げたんだって。

J/ 会社の行為が、ドラマ化されたところとは言ってないけれど、とりようによっては、そうとれないわけでもないんで、その辺上手 だよね。

B/ そういう圧力に屈服しないで、正々堂々と描ききったところが、まるで映画の中でおきた出来事をそのまま地でいっているみたいよね。 とっても興味深いわ。

J/ ますますもってこの映画の中身っていうのは説得力があるよね。

B/ それにしてもよ、日本の報道陣が「小渕首相が入院した」っていう例の記者会見の時に、誰も突っ込むことができずに、そのまんま終わっ てしまったのを見るにつけ、なんだか情けなくなってしまったわ。日本に較べてアメリカの報道人ってまだまだ気骨のある人がいるんだな って思うわね。「ウォーターゲート事件」の記者魂いまだ死なずってところね。

J/ アメリカっていうのは日本よりすごい競争社会だからっていうのもあると思う。だからそういう健全さを持つ一方で逆に狂気も渦巻いてい る。両極端なんだわな。

B/ 純粋に社会の悪をあばこう、そうすることでより多くの視聴者の共感も得られるって真摯に報道に情熱を燃やす人がいるかと思うと、視聴 率をあげたい、有名になりたいって、センセーショナルなヘンな方向に行ってしまうのと。後者を描いた作品には『ネット・ワーク』って いうのがあったわね。人の死をもエンターテインメントにしてしまうみたいなね。

J/ マイクロ・ソフト社が独占禁止法にひっかかるっていう判決が出たけれど、これもずいぶん前から報道されてたよね。もちろん60ミニッツ はかなり早い時期にビル・ゲイツへのインタビューを放映してたっけ。このすばやさ。建前と本音っていうのがあって、建設業界の間で 談合があるのは、誰もが知っていることなのに、長らく見て見ぬふりをしてきた日本とは格段のスピードの違いがある。報道より先に口コ ミのほうが早かったりしてね。

B/ だから、なおさらこの映画、気持ちいいわよね。

J/ この映画がいいところは、二本の柱があったところだね。アル・パチーノ演じるプロデューサー:ローウェル・バーグマンの報道に対する 姿勢という面と、ラッセル・クロウ演じる告発者ジェフリー・ワイガンドの苦しい立場と。記者報道する上でどういう風に気を使うべきか。 逆に告発する側はそのことが、どれだけ苦しいことか。

B/ 映画は煙草会社、社会を告発するっていうことよりも、この二点に絞ってあるのよね。その背景にあるものは、両者を通じて自ずから見え てくるものっていう立場なのね。

J/ またまた過去の映画を紐解いてみると、ポール・ニューマンの『スクープ悪意の不在』っていう映画があった。この映画では、一人の女性が オフレコで勇気をもって記者に話してみたところ、実名で翌日の新聞に報道されてしまったことによって傷つけられ、自殺してしまうって いう厳しい結末が待っていた。

B/ 報道の自由とプライバシー、どちらが大切かっていう、常に問題になるところよね。

J/ 告発する側にしてみれば、正義と自分の生活の安全を秤にかけて、なおかつ正義を選ぶわけだから、報道する側は細心の注意を払ってあ げないとね。

B/ この映画の主人公も、いざ告発するとなったとき、色々な圧力がかかり、家族がメチャメチャになってしまう。その主人公がそれでもなお かつ正義を貫き通す。そこにどれほどの葛藤があったのか。ものすごい丁寧に描かれているわね。映画の上映時間を少々長くしても、そこ だけはきっちり描きたいっていう姿勢がよく伝わってきたわね。

J/ この世の中で正義を貫くっていうのは並大抵のことじゃないやね。日常茶飯事のちょっとした悪でさえ、なかなか注意することなんて出来 ないのに、ましてや彼は、大きな会社を相手に戦っているんだものね。脅迫はくる、仕事を探すのも大変になる、子供の学歴にも響く、 自分だけならまだしも家族にまで多大な犠牲を強いることになるのだものね。

B/ アル・パチーノの演じたプロデューサー自身が、みずからそうしたものと戦いながら、やっているからこそ、彼の立場もよくわかる。 だから最後は、自分でスクープをモノにしたいっていうよりも、彼の勇気に報いるため何が何でも放送してやりたいっていう気持ちが強く 感じられたのね。

J/ CBSが、煙草会社の圧力に負けて、放送をとりやめる方向になったらなったで、報道陣としてはおそらく禁じ手だと思う、他紙への情報 流しとか、それこそあらゆる手を使って、完全な形での放送に熱意を燃やしてね。自分の首をあの時点では顧みてなんかいないものね。

B/ あんなすごい姿勢の中からこそ、優れた報道って生まれてくるものなのね。

J/ ただスクープを捕まえるだけじゃなくて、きっちり自分のやることに責任を持ってね。本来そこまでやるべきなのだろうね。大変な、それ こそ自分の命を削るようなことだけれど。ひとつの理想だよね。だからこそ彼がその報道の直後にCBSを退社してしまうのだろうね。 自分の会社と戦ったら、もうそれ以上は仕事が続けられないよね。

B/ こういう映画は観ていて、ハードではあるけれど、でも理想を追い求める人を見るのは気持ちのいいものね。現実ではなかなかできないこ とがわかっているだけにね。この映画が実話であることがより一層嬉しいわね。フランク・キャプラの映画の理想の世界に通じる部分も あるけれど、またそれよりはもっと現実的でもあるしね。だからとても感動的。

J/ ただ唯一、描かれ方が希薄だったのは、ラッセル・クロウの奥さんだったかもしれないね。彼女への夫への気持ちっていうのが、伝わって こなかったし、後でテレビを見て涙を流しているのも、なんだかつけたしみたいで。

B/ でもね、これだけ描くのに2時間40分もかかっているのね。だからその辺は省略ってことで、しようがないんじゃない。私はそう思うわ。 とにかく日本のマスコミの方には特に見て見習っていただきたい映画ですわよ。

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