Jack&Bettyの目次へ  ホームへもどる

第81回「ストレイト・ストーリー」

ストレイト・ストーリー 監督…デヴィッド・リンチ 、 脚本…ルアリー・スゥイーニー
撮影…フレディ・フランシス 、 音楽…アンジェロ・バダラメンティ
キャスト…リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク
ハリー・ディーン・スタントン


1999年米・コムストック/上映時間1時間51分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ これは想像以上にいい映画だったね。

B/ アメリカ映画でこんなに質の高い作品が出てくると嬉しくなるわね。

J/ 舞台はアメリカの中西部。どこまでもまっすぐにのびる道。小麦畑が永遠に続き、ばかでっかいトラクターが、まさに収穫の季節で、穂を 刈り取っている。こんな風景っていかにもアメリカだよね。

B/ アメリカの原風景っていうのかしら。私たちが思い浮かべるアメリカの畑のイメージってまさにこの風景なのよね。

J/ ここはいわゆる平均的アメリカ人が住むっていわれているところ。畑以外はなんにもないから、若い人たちは古くから、この町を出てい く傾向にあったらしい。田舎なのだけれど、ニューヨークに出るにしてもそんなには距離がないし、若者は成功を目指して、都会に出て いけたようだね。

B/ どうりで映画の中にジジババばかり出てくるわけよね。

J/ 成功した人の代表はなんといってもエイブラハム・リンカーンだね。それでここから昔のハリウッド映画でもよく描かれる、「アメリカン ・ドリーム」みたいなのが生まれてきているんだよ。「誰でもやったらできる」っていうやつね。そういう意味ではハリウッド映画の精神 的な故郷かもしれないね。

B/ 逆に『陽のあたる場所』の主人公モンゴメリー・クリフトは、この中西部から都会に出て、夢を追いかけたあげく、破滅してしまったのよ ね。

J/ もちろん中西部の出身でもなく、常に日常の奥に潜む異様な世界というものを描いてきたデヴィッド・リンチ監督が、こんな舞台で、こん な映画を作ったことにはとても驚いたね。

B/ 出てくる人たちがいい人ばかりでね。まぁ、多少欲張りとか、そういう小さい欠点はあるにしてもね。

J/ 中西部人は一般的に、均質的で、ゆったりとして、気持ちもオープンって言われているから、そんな彼らの特徴が映画の中でも目立ったの かもね。

B/ 私は、なにげない優しさがとても心地良かったわ。例えば腰痛で杖なしでは歩けない自分の老父が、560キロの距離を兄に会うために、 しかも時速8キロのトラクターでだなんて…私だったらきっと「そんなのは危ないからやめなさい」って言うと思うのよね。でも娘のシシ ー・スペイセクは、彼がトレイラーを組み立てるのをだまって見ている。それで、スーパーに食料の買出しに行ったりまでして、普通に 送りだすのよね。

J/ 父親の気持ち考えたら、止められないんだろうね。けれど、それがわかっていたとしても、なかなかできるものじゃないよな。やっぱり 途中で倒れたらどうしようってことを考えちゃう。倒れたって、当人がそれで幸せならっていう風にはなかなかならない。でもこれは、 優しさではないんだろうね。

B/ 道中トラクターが故障して立ち寄る家の主人もさりげなさがとってもいいの。家の中に招きいれるんじゃなくて、庭にトレイラーが入る 大きさのテントを作ってやって、そこに泊まらせてくれる。

J/ やり過ぎるとおせっかいになっちゃうし、でもせいいっぱいの心遣いでなおかつ、世話を受ける側にも負担が少ないものね。

B/ そこの家族の中に同年代のおじいちゃんがいて、息子と彼のやり取りを聞いて、ただ脇に立ってる。話し掛けたくてしょうがないような 顔をしているのも、とても自然だったわね。

J/ この映画を見ていると、本当にお年寄りの表情が豊かだね。それで言葉のひとつひとつが実に重みがあるよ。「年とってツライことは、 自分の若い時を覚えていること。年取っていいことは、それなりの経験もしてきて、生きる知恵もつき、少々のことでは怒ったり慌てたり しなくなること」なんてね。

B/ 彼のいいところは、すべて話しが実体験から来ていることなのね。本で読んだどこの誰かさんの言葉でもってお説教をするのではなくて、 自分の体験を話す。どうしろ、こうしろ言わなくても相手がわかっちゃう。こんな素敵なおじいさん周りにいないかしらね。

J/ 主演のリチャード・ファーンズワースは実に味があるね。

B/ 私は、この映画とっても深みがあると思うの。もちろん言葉のひとつひとつもそうなのだけれど、それだけじゃなくて、あのどこまでも 続く道が人生そのものを感じさせてしまうから。

J/ 例えば。

B/ あのトラクターのスピードね。若者の自転車には楽々追い抜かれていくし、市街地では他の車に邪魔にされながらも、あくまでもマイ・ ペースで進むさまは、忙しい社会と、老人の歩みの対象のようだし、道じたいも嵐があったり、急勾配の坂があったり、まるで人生の 道のような感じがするのね。道中出会いもあって、助けたり助けられたりね。

J/ なるほどね。段々に秋も深まっていくということもあるしね。デヴィド・リンチって人は、今まで日常の中に潜む一種異様な世界を描く 個性的な監督ってイメージだったけれど、この作品を見て多少見方が変わった気がするよ。

B/ そうよね。あの異様な世界は、日常の観察の中から生まれてきている。人間への観察力、洞察力に裏打ちされたものであって、決して奇 をてらったものではないのね。

J/ もちろんこの映画でも、道を通るたびに鹿をひき殺す、鹿好きの女性とか、冒頭の太った女性が、庭のチェアに寝そべって甘いものをパク つくさまをずっと撮ったりとか、彼らしい描写が出てくるのだけれど、それらがこの物語の雰囲気を壊すのではなくて、見事にはまりこん でいて、違和感がないのも、彼の裏打ちされた一貫性があるからなのだと思うよ。

B/ けんか別れして音信不通だった兄に10年ぶりに会いに行く。果たしてふたりの間に何があったりか。ふたりは和解できるのか。こうした ところは、これからご覧になる方のためにとっておくけれど、ただ一言いえば、セリフが極端に少ないのがとても良かったわ。

J/ なぜ、弟がトラクターで単身出かけることにこだわっていたのか、その辺もセリフなしでわかるね。

B/ この映画を見ていると、人の心は、言葉では言い尽くせないのだなぁと。大切なのは心の中身なのだなぁと、ひしと感じてしまうわね。 人生が愛しくなっちゃうような、本当に素敵な映画だったわ。これは、今のところ私のベスト・ワンになるわよ。

この映画についての感想やご意見がありましたら下記までメールを下さい。

メイル このページのトップへ ホームヘ