J/
僕は血がドバーッて出てくるようなオカルトものって苦手なんだけれど、この映画はそれとは違うにおいが
したんで、観に行ったんだよ。
B/
人の首がバシバシ飛ぶのに、不思議と気持ち悪くないのね。これって。血が飛び散らないの。私は映画は美
しくなければダメだと思うの。例えそれが残酷なシーンであっても、美学がないと。血が飛び散れば、そり
ゃショック度は大きいかもしれないけれど、目をそむけたくなっちゃうようなのはね。
J/
やっぱり、映画っていうのは見せ方だって思ったね。血が飛び散る場合にも、例えばジョニー・デップの衣
服に飛び散っているところだけを見せてるよね。
B/
映画の雰囲気っていうのをとっても大切にしてると思うのね。例えば夜、獣が森から近づかないように焚い
たかがり火が、ひとつずつフッと消えていき、森の奥から霧が立ち込めると、一陣の風と共に馬のひづめの
音が近づいてきてなんて描写。こういうのをきっちりやっているのよね。
J/
それに森のセットの不気味さ。村のセットのおどろおどろしい雰囲気。1800年のニューヨーク郊外のオ
ランダ移民の村。風車小屋がある風景。それに墓地。ゴシック・ホラーの雰囲気が満ち満ちている。
B/
ジョニー・デップが初めて村にやって来た時、家の窓がバタン、バタンと閉じられて、でもじっと隅の方で
彼を伺っているんだろうなぁっていう、異様な雰囲気。
J/
『マディソン郡の橋』みたいな橋で、誰の姿も見えないのに馬のひづめの音が近づいてくる、その緊張感。
お正月にやったホラー映画の子供騙しとは違う、この丁寧さがいいね。
B/
そもそもアメリカ映画のホラー映画史は、ゴシック・ホラーから始まってるのよね。1910年には、早く
も『フランケンシュタイン』が登場してるのよ。
J/
『フランケンシュタイン』『ドラキュラ』『狼男』『ジギルとハイド氏』でもこれらは、すべてヨーロッパの
作品だよね。やっぱりあの雰囲気は、ヨーロッパの古い街並でなくては、出ないから。
B/
その点この映画は、正真正銘のアメリカ産のゴシック・ホラーなのね。
J/
やっぱりアメリカっていうのは、国自体が新しいから、中世的なモンスターや幽霊の伝説っていうのが、あ
まりないね。やっぱり独立戦争あたりにそれを求めるしかないんだろうね。
B/
入植自体はヨーロッパでは魔女裁判の嵐が吹きまくっていた、15世紀の頃から始まってるのだけれどもね。
当時の入植者っていうのは、どちらかというと、因習や迷信みたいなものにとらわれない、ピューリタンの
人たちが主だったから、そうした伝説も育ちにくかったところもあるわね。
J/
だからこの原作者は、アメリカにもこんな「首なし騎士伝説」があるって知ったとき、嬉しかったと思うよ。
B/
ちょうどこの原作が書かれたのが、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』が世に出て、ロマンチ
ックなゴシック物語がもてはやされた時代だから、この発見は彼には大きな興奮だったのじゃないかしら。
J/
ある意味では、ティム・バートン監督は、かつてのハリウッド映画や英国のハマー・プロ作品の伝説を掘り
起こして、甦らせているような映像作家だから、この題材は、原作者の心情とも重なるところがあって、彼
にはピッタリはまったと思うよ。
B/
この映画でも風車小屋は、『フランケンシュタイン』のイメージそのままだし、『ドラキュラ』などの映画
のイメージも出てきているわね。
J/
往年のドラキュラ俳優クリストファー・リーを特別出演させたあたりにも、彼のそんなこだわりが見れるよ
ね。
B/
この物語が魅力的なのは、亡霊伝説に魔女の話しがくっけられている。森に住んでいる魔女。クリスティーナ・リッチ
の持っている黒魔術の本。さらに金田一シリーズのような探偵ものの味つけがされているわね。
J/
ジョニー・デップの検事の言うところの科学的捜査と、村の迷信との対立っていうのが、『八つ墓村』みた
いだよね。果たしてこれは誰かの陰謀に過ぎないのか、それとも迷信は真実なのかってね。遺産をめぐるゴ
タゴタや、恨みを抱いている者もいたりしてね。
B/
ジョニー・デップが英国系のピューリタンの父親を持ち、一方クリスティーナ・リッチは、オランダ系のカ
ソリックという違いも物語のポイントになっているわね。そうした歴史的背景も反映されているのね。
J/
ジョニー・デップの父親っていうのが、狂信的な新教徒で、自分の妻を「魔女扱い」にしている。ジョニー・
デップは、迷信的な母親の血と、それを忌む父親の血の両方を受け継いでいるんだね。
B/
この物語は、ジョニー・デップが村に入ることによって、母親の血を呼び覚まされるというもうひとつの物
語があるんだわ。彼はその両方の間を行きつ戻りつ、常にジタバタとしてるんだわ。
J/
ジョニー・デップが本当におかしいよね。変なおよそ役に立たないような、科学的な捜査道具を使って、冷
静に、そんなものを使わなくてもわかるような結論を導きだしてたかと思うと、今度は「首なし騎士」に出
会って、ヒーヒーいって布団を頭までかぶって震えていたり。
B/
それが、すごく母性本能をくすぐるのよ。(笑)
J/
その点、クリスティーナ・リッチは白い洋服がとても良く似合ってかわいいのだけれど、一方で温かく包み
込むような母性的な雰囲気もあったりするね。
B/
この映画は、だから怖いというより、笑えて、スリルもあって、推理もある。なおかつティム・バートンの
独特の世界の雰囲気、例えば『ナイト・メア・ビフォー・クリスマス』や短編のストップ・モーションアニ
メのような、そんな世界の雰囲気にも浸れるのよね。
J/
そういうわけで、最近のショッキング・ホラーがダメな自分でもとっても楽しめるんだろうな。
B/
そもそもホラー映画が持っていた楽しさがこの映画にはあるの。ロマンチシズムというものが。だから、
こういうのがダメっていう方にもお勧めできる映画だと思うわ。
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