J/
『エイミー』は最近時々公開されているオーストラリア映画の一本で、その中でも拾い物の一本だったと思
うけれど、どうだった。
B/
オーストラリアが舞台っていうと、どうしても雄大な自然が思い浮かんでしまうのだけれど、この作品はち
ょっと趣きが違っていて面白かったわ。
J/
確かに『プリシラ』にしても『ピクニック・アット・ハンギング・ロック』『クロコダイル・ダンディ』に
しても広大な自然が舞台になるからね。
B/
この映画はオーストラリアのメルボルン、下町が主な舞台になっているのよね。
J/
もっとも最初親子が住んでいるのが、砂漠の真中みたいなだだっ広いところで、おおっオーストラリアだっ
て感じで始まるんだけれどね。
B/
でも父親の死がショックで、口が聞けなくなった女の子と母親のふたりが住むには、ちょっと寂し過ぎるとこ
ろなのね。おそらく外の世界から孤立することで、精神のバランスを保とうとしている部分があるのね。
だから子供も親も寂しいというより、意外にノビノビとしたところがあるのよ。
J/
意地悪な福祉局かなんかの役人が、子供を預かりたいって言ってくるまではね。こういうの観てると、どこ
ぞのお役所の「介護認定のマニュアル」を思い出してしまう。国は違えどなんとやらでね。
B/
そのお陰で逃げるようにして、都会に引っ越すのだけれど、今度はよりによって、前の住まいとは逆にやけに人口密度
の高い小さな路地の住宅街で。となりのうちの夫婦げんかが、もろに聞こえてきてしまうような。
J/
路地に年がら年中水を撒いているおばさんとかがいたりして、まるで東京の下町みたいなところなんだよね。
B/
いやでも人と接触しなければならない所というのが、この映画のミソよね。
J/
死んだ父親が人気ミュージシャンだったということもあって、彼を思い出す音楽が家で流されることがなかった。
ところが、家の向かいにミュージシャン崩れの男がいて、夜中でもギターをジャンジャン掻き鳴らしている。
この子は父親を思い出すんだろうね。音楽が聞こえると、その家の前に駆け出して行く。で、思わずギター
にあわせて歌を口ずさんでしまう。あれっ、この子は耳が聞こえないとばかり聞かされていたけれど、音楽
は聴くことができるんだって、男は発見する。
B/
でも彼がそのことを母親に知らせようとすると、彼女は「この子はどんな医者に見せても、耳が聞こえないの
よ。なんで何にも知らないあなたが、そんな人をからかうようなことを平気で言うの」ってまったく取り合っ
てくれないのよね。
J/
多かれ少なかれこういうのってあるんだよな。母親が「私がこの子のことを一番よく知っているんだ」って
いう自信っていうか、プライドを持ちすぎてるケースって。
B/
ましてや、この映画の場合は、子供が耳が聞こえない。そんな子を女手ひとつで面倒見てきているのにって
いうのが入っているから尚更なのね。両肩にひとりで背負い込んでかたくなになってるのよね。女だからっ
ていうだけで、「働きながら障害のある子を育てるのは無理」ってお役所に判断されたり、色々男以上に
社会的な阻害があるのよね。だからそういう気持ちも理解できる部分もあるわよ。
J/
まあ、そう言われてみればね。けれど彼女たちは、いい所に引越ししたものだよね。周りの住民たちは、み
んな個性的だけれど、とっても親切で。そんなかたくなな気持ちも自然にほぐれてきてね。
B/
仕事がないんだか、いつも動かない車の手入れをしている兄弟とか、仕事のないミュージシャンのお兄さん。
年中けんかばかりしている夫婦とそのひとなつっこい男の子。音楽は聞き取れるってことがわかったら、み
んな「♪エイミー、聞こえるかーい♪」って皆して歌を歌ってやって。いかついおまわりさんまで、ヘタな
歌を一所懸命歌うのがホント微笑ましいの。
J/
これが、隣は何をする人ぞみたいな集合住宅だったら、こうはいかなかったよね。そういうところに紛れこ
んだほうが、かえって福祉局のいけすかない調査員には見つかりにくかったと思うのだけれど、まあ逆に
見つかって強制的に連れ去っていったことから、住民たちがひとつになって協力することになったわけだし、
そのお陰で彼女は自分の心を開いていけたのだからね。
B/
彼女は無意識に、それを求めていたのかもしれないわよ。
J/
どうなんだろうね。
B/
そうじゃなきゃ、わざわざ人にいつも見られているような環境のところなんか選ぶ理由がないわよ。
J/
まあね。ただひとつこの映画で府に落ちないのは、なんでわざわざ昔のミュージシャン仲間や、音楽製作
会社のある街を住むところに選んだのかなって。例え避けていたとしても、狭い世界だから出会わないと
は限らないし、そうすればマスコミの餌食になってしまうことも予想できたはずだよ。
B/
まあ、いいお医者さんがいたりとか。それとも死んだ夫の思い出を避けているつもりでも、無意識にそうす
ればするほど、求めていたってこともあるし。バスに乗るだけでもう、コンサートのために夫とミュージシ
ャン仲間、スタッフと一緒に移動したバスの思い出が込み上げてきて、大変だったじゃ
ない。
J/
何も大都市は他にもあるのにな。だから多分そういうことなんだろうな。
B/
まあ、そこまで考えなくてもいいんじゃないの。あくまで娯楽映画っていう姿勢で作られている作品だから。
希望をもって終わって、映画館を幸せな気分で出ていってほしいっていう監督の姿勢が貫かれているのよ。
J/
確かにこの映画は、後半エイミーが行方不明になって、それを探す人たちが、みんな歌でもって彼女によびかける
ことからちょっとミュージカルっぽい味が出て、楽しくさえあるんだよね。子供が行方不明っていうのに、
そんなに深刻さはないんだ。えー、こんな人までが歌を歌うのぉーみたいな可笑しさまであって。
B/
最近、音楽が癒しになる映画って多いじゃない。これなどはまさにその典型なのよね。
J/
いわば音楽からエイミー自身の「心の旅路」を探っていくようなね。ここではその核心にはふれないけれど、
クライマックスは結構な盛り上がりもみせてくれて、とってもハッピーな気分にさせられるよ。
B/
またエイミーもいいのだけれど、母親の成長物語という点もよく描けていて、見所は色々あるのね。そう
いった視点で観るならば、女性には特にお勧めの映画かもしれないわね。
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