J/
『シックス・センス』は面白かったね。今年僕が一番面白かったアメリカ映画だな、これは。いっぱいし
ゃべりたいことはあるんだけれど、ストーリーはしゃべらないでくださいっていうんだから、困ってしまう。
B/
どうしようかしらね。でも何とかやってみましょう。観た人には、何かがわかる。観てない人には、期待が
膨らむみたいなやつを。これは私たちの試練よ(笑)えーと、それでね、なんていうのかしら、これは今まで
観たことのないタイプのアメリカ映画なのね。ひとことで言ってしまえば。
J/
『ゴーストニューヨークの幻』『幽霊西へ行く』みたいなタイプともちょっと違うし、恐いところもあるけ
れど、『オーメン』『エクソシスト』みたいな悪魔的なホラー映画とも全然違う。
B/
教会や、聖母像も出て来ることは出てくるけれど、比較的キリスト教的な色彩が薄いのね。向こうの幽霊話
というと、大抵天使が出てくるものなのだけれど、それもないし。
J/
『異人たちとの夏』みたいな日本的な世界とも共通するものを感じたね。これやっぱり監督が、東洋人って
こともあるからなのかね。
B/
むこうの『臨死体験』とか、霊媒師の話しとかって読むと、意外に宗教を超えて共通するものがあるのが
わかるのだけれど、これはそういった視点でもってお話しが作られてるのね。
J/
脚本には、色々なそういった生の体験談が盛り込まれているんじゃないかと思う。僕はこの映画を観ていて、
『未知との遭遇』を思いだしてたんだ。
B/
それはどうして。
J/
あの映画も色々なUFO遭遇体験談を集めてきて、作った映画だったでしょう。それが「日常の中の非日常」
といった効果を生み出していたんだよ。ファンタジーとはわかっていても、でもなんかこんなことって起こ
りそうなみたいな感じをね。それとよく似てると思ったんだ。あとでプログラムを見たら、同じプロデュー
サーだったんで、ああやっぱりって。
B/
確かに子供の頃から霊感が強いって人の体験談を読んでみると、映画と似たようなことが書かれていたりす
るわね。
J/
やっぱりね。例えばどんなのがあるの。
B/
これテレビで一世を風靡した宜保愛子さんの話しなんだけれど(笑)やっぱり彼女も幼少の頃から霊の姿が見
えていて、それで悩んでいたのね。「お父さんあそこのおばあちゃん見て」「おばあちゃんなんてどこにも
いないじゃないか。お前はなんでそんな夢のようなことを言うんだ」大人は誰も信じてくれないわけよ。
最初はヘンだなと、思っているのだけれど、学校にあがる頃から実は自分だけが見えていることがわかって
くる。そんなことを言えば、みんなからいじめられるから、段々内に閉じこもって無口になっていったそう
よ。
J/
なんか映画の中の男の子とよく似ているね。
B/
ただ彼女の場合には、母親にはなんでも話せたらしくて、「あそこでお葬式が出る」とか、「隣のおばさん
が怪我をしそう」とか話していると、あんまりよく当たるもんで、彼女の能力を認めざるを得なくなってく
るの。それでやがて近所中の評判になって、相談にくる人も出て来たりして、初めて自分自身の能力を素直
に受け容れられるようになるのね。
J/
映画では精神科医のブルース・ウィリスが、少年の閉ざされた心をなんとかしようって立ちあがるというこ
とで、これが物語の核となっていくんだね。
B/
彼自身も精神的に参っていて、奥さんとうまくいかなくなっているから、そんな彼が少年の治療を通して立
ち直っていけるかっていうところも面白いわね。
J/
オカルト映画っていうより、そういう人間ドラマ的な要素も強い映画なんだよね。だから不覚にも僕は涙が
出てきてしまった。
B/
散々オカルトっぽい話しをした後に言うのもなんだけれど、実は本当に少年に霊が見えているのかどうか途中
までよくわからないのよね。もしかしたら、幻覚かもしれないようで。
J/
完全にブルース・ウィリスの視点だけで映画が進んでいくからね。
B/
少年が霊を見ている時には、他の人がいたためしがないのね。それでその時だけが、彼の視点になっている
の。それ以外、例えばブルース・ウィリスと少年が並んで歩いているような場合、母親と少年が一緒にいる
場合は、ウィリスの、母親の視点になっているから、私たち観客にも霊は見えなくなっているのよね。
J/
客観的に第三者の位置からキャメラを写すってことが、少ないんだよね。少年がひとりでいる時以外は、常
にブルース・ウィリス、または少年の母親の視点でもって動いていく。その分彼や彼女に感情移入しやすく
なっている。
B/
ブルース・ウィリスの印象に残った出来事だけが、切り取られて映画が進んでいくみたいなところもあって
ね。パーティーに行っても、彼の関心のあることを集中して描いていくのよね。
J/
実に映画的な演出。映画でしかできないような、ストーリーの進め方なんだよな。小説とも、演劇とも違う。
演劇は、すべてが観客に見えてしまうから。一人芝居にすれば別だけれど。あと、小説は主人公自身が語り
部となるってことになるのかもしれないな。そういえば、映画史の中で時々おかしなことを考える人がいて、
一人称映画っていうのが現れることがあるよね。『湖中の女』とかこの間の『視線のエロス』みたいなやつ
ね。
B/
主役の姿がほとんど映らなくって、主役の視線がイコールカメラになっているというのね。だけれど、皮肉
なことに主役の姿が見えないってことは、感情移入もできないし、かつ自分が体験しているようなバーチャ
ル感覚になるわけでもないのよね。馬鹿みたい。
J/
エッチな場面以外ではね(笑)自分がカメラを持っているような感覚になるから(笑)まあ、それはともかく、
この映画は一人称としては、理想的な形なのじゃないのかな。映像や、カット、それによる観客の心理まで
もが計算された、完璧な脚本があるからこそとも思うけれどね。
B/
そうしないと、何がなんだかわからなくなってしまう危険性もあるものね。
J/
これから観られる方は、どうかオカルト映画とか、何か意外なストーリーがあるらしいとか、そんな観念は
捨てて観たほうがいいと思うな。そんなこと考えてたらつまらなくなっちゃう。ドラマとして結構見応えが
あるから、その世界にどっぷりとつかってね。そうすれば、人の寂しさとか何気ない優しさとかが、身にし
みてくると思うよ。これは、人と人との繋がりのドラマだから。
B/
どうやってふたりが心を開いていくか。実はその過程が大変に面白いのよね。粗探しに夢中になってたら
損々。それに主役の少年がただ者ではない。映画の中で一度も笑わなかったでしょ。それととにかく上手。
大きな老木の影や、暗闇に怯えた子供の頃の記憶がまさに蘇ってくる感じ。賢くって、繊細で傷つきやす
い少年の心が見事に表現されて、来年のオスカーは彼の手に輝くかもしれないわよ。
J/
それってもしかして青田買い?
B/
まさか。40年経てば分からないけれど…。
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