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第70回「ウェイクアップ・ネッド」

エネミーポスター 監督…カーク・ジョーンズ 、 脚本…カーク・ジョーンズ
撮影…ヘンリー・ブラハム 、 音楽…ショーン・デイヴィ
キャスト…イアン・バネン 、デヴィッド・ケリー
フィオヌラ・フラナガン、スーザン・リンチ

1998年英国(K2エンタテインメント)/上映時間1時間47分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『ウェイクアップ・ネッド』これはとっても面白かったね。宝クジがもしあたったら。誰もが夢を見ること だものね。宝クジが当たって人生が変わる映画は、古くから色々あるけれどね。『我等の仲間』では、貧し くても親しかった友人たちが、次々と去って行く。『黄金』で宝クジを当てたハンフリー・ボガードは、黄 金の夢に取り付かれ、金の亡者と化していく。なんか結末が不幸でね。

B/ 何でもない、小さな村の平凡な人にそのチャンスが訪れる。この映画のいいところは、そこにあるのかもね。 主人公たちは、どこにでもいるような、おじいさん。特別不幸でもなく、小さな自分の家を持ち、少ないけ れども、親しい友達を持ち、お酒と週一回の宝クジをほんの一枚買うのが楽しみ。こんな罪のない愛すべき 人たちなのね。

J/ 人間誰にも欲があるよね。もっといい家に住みたい。いい車に乗ってみたい。ちょっとおいしい食べ物を食 べてみたい。そんな大きい夢じゃない、ささやかな夢。けれども、ひとたび大きなお金が手に入る。すると もっともっと夢が膨らんできてしまう。人間そんなもんだものな。

B/ これは人間の欲のドラマ。欲に取り付かれた人間の滑稽な、でもどこか自分を見ているような、そんなドラ マなのね。

J/ この映画のファースト・シーン。テレビで宝くじの抽選番組を見ているおじいさん。19、「おっ最初は いっしょだな」「おいパイを持ってきてくれ」お勝手には、この人の奥さん。一人でパイを食べている。 宝くじなんて馬鹿馬鹿しいって思っている。だから「自分でとりにきなさい」ってとてもつれない。いつで も女の人はこんなもの。夢を見るのは男のほう。

B/ でも、自分で勝手に楽しんでいるだから、パイぐらい自分でもってけばいいのよ。当たり前じゃない。

J/ おら、そうきた。でも彼女だっていざ現実が近づきゃ、興味ないはずないんだよ。「40」「4」「7」 「25」「おいあとひとつで当たりだぞ」そうすりゃ、いてもたってもいられなくなってくる。「えっ、あ と一つで当たりじゃないの」あんなに面倒くさがっていたのにパイを持って、テレビの前にやってくる。ま ったくげんきんなもの。

B/ こんなシーンを夢見るのは観客も同じよね。だから画面にぐっと引きつけられるわね。「いよいよ最後です 29」「やったー!」「当たったの?」「いや、でもパイを持ってきてくれたからいいじゃないか」このオチ がなんとも憎らしいの。

J/ とっても人の真理をついた、いい出だしだね。興味がないフリをしていても、目の前に大金の夢がちらつけ ば、心動かされないわけがないからね。

B/ 翌日、村人の中で宝くじが当たった人がいることが新聞でわかる。さあ、誰なのだろう。村人は全部でわ ずか52人。誰もが口では言わないけれど、興味津々。腹の探り合いがはじまる。「新しい車を乗り回して いたから、あいつじゃないか」急に友達のフリをして、飲めや、食えやの大サービス。少々のお金をかけた って、その人とお近づきになれば、おこぼれに預かれるかもしれないっていうせこい魂胆丸見え(笑)

J/ 本人たちが大真面目であればあるほど、観客から見るとこれほど滑稽でおかしなことはないね。

B/ この映画は、宝くじが当たるっていう一種御伽噺のような話しなのだけれど、ある意味で人間の一面を笑わ せながら見せてくれているのよね。そういう意味で決して綺麗ごとの世界にはなっていないのよ。

J/ アイルランドのそれほど豊かでない村の描写がとってもいいね。丘のほうから見下ろすと、村全体が見渡せ ちゃう。そんな小さな村。豚を飼って生計を立てている男がいる。猟師、自動車の修理工、小さな畑をやっ てる人。小さな郵便局をやっているお店もある。そしてもちろんパブ。

B/ いかにもアイルランドの風景。アイルランドでも今では数少なくなってしまった萱葺き、石造りの小さな農 家の家があるのがいいわね。田舎に行くと、こんな家が実際に残っているのよね。土の下にはすぐ岩盤があ って、土地は痩せているから、強い風で土が飛ばないように、石で柵を作ってあってね。

J/ 上空から捉える島の風景、高い絶壁から眺める広い海、日が沈んでいくその様の美しいこと。雄大なこと。 人間がとっても小っちゃく見える。キャメラが見事だね。

B/ このキャメラマンはヘンリー・ブラハム。『スカートの翼広げて』もこの人だったわね。朝靄がかかった森、 農場の風景、自然の雄大な風景を撮るのがとてもうまい人。

J/ この雄大な自然の中で物語が繰り広げられるからこそ、いっそう人間の存在が卑小で、おかしなものに見え てくるんだね。でもそんな人間たちがとても愛しくなってくる。

B/ 人間賛歌になっているのよね。だからラスト・シーンには目頭が熱くなってしまうのよ。

J/ 小さな道を車でとばすと、アイルランドの伝統的な音楽がかぶさる。今ちょっとしたブームになっているケ ルト音楽ってやつね。これもこの映画の大きな魅力になっているね。

B/ 陽気なんだけれども、とってもリラックスする優しさがある。歌詞を聴いてみると、その中に哀愁も混じっ ているの。歌には、とっても透明感のある響きがあるのが、特徴。癒しの効果もある、とても魅力的な音楽 ね。こんな現代だからこそ、こうした曲がブームになるのかもしれないわね。

J/ もうひとつの主役はパプだね。アイルランドでは、どんな小さな村にもパプだけは必ずあるからね。そこは 社交場になっているんだよ。地域のお知らせみたいなビラが貼ってあったりする。そして、ビールはもちろ んギネス。クリーミィな白い泡が魅力的でね。ちなみに「ギネス・ブック」は、元々はアイルランドのパプ の雑談から生まれたものだって知ってた?

B/ いく種類もの銘柄のアイリッシュ・ウイスキーもパプには備え付けてあるのね。映画の中でも「パディ」 「ジェイムスン」「タラモア・デュー」「ジョン・パワー・アンド・サン」とか有名な銘柄が見えたわね。 彼らが銘柄を場合によって使いわけているのがわかって、面白かったわ。

J/ 普段の夜のお供は「パディ」。特別な折には、「ジョン・パワー・アンド・サン」みたいにね。彼らが、誓 いを立てるのに、サインのほかにウイスキーを一杯飲ませるところが良かったね。

B/ 彼らとお酒は切り離せないのね。子供までが、「彼らにお金が入ったら、みんなこの村を出ていくんじゃな いか」という心配に対して、「どうせ、みんなお酒を飲んで全部つかっちゃうよ。」って言う始末。考えた ら2,000万円以上の大金というのに…

J/ 主役のふたり、ジャッキーとマイケルのコンビが素晴らしかったね。

B/ お調子者のジャッキーとおとぼけのマイケル。息がピッタリで。

J/ 普段はぼーっとしているマイケルが、いざという時にいつも思いきった行動をとるのが、たまらなく可笑し い。飽きれるほど大胆で。

B/ いつも考え、悩むのはジャッキー、直感で意外な行動を取るのがマイケル。素晴らしいコンビね。ふたりの友 情は、うらやましいくらい。女の入れないようなところがあるのね。

J/ 彼らだけでなく、小さい村は、本当に個性的な人でいっぱい。出てくる人の顔がいいね。みんな主役の顔じ ゃないんだけれどね。個性的な脇役顔なんだよな。お年寄りも、枯れた人たちじゃない。物知りで智恵がつ まったという感じでもない。

B/ 年相応の魅力はもちろん兼ね備えてはいるのだけれども、まだまだ活力があって、子供っぽさももっていた りするのよね。欲もあるし、見栄もある。小さな夢も持っている。隣の人の噂話も大好き(笑)けれども分別 や多少の信仰心ももっている。なんたってカソリックの国だから。そんな人たち。

J/ 確かに完璧な人間じゃないんだよ。でもそれが魅力的なんだな。小市民の魅力に溢れていてね。映画を観て いると、この人たちの間に入っているような気分になってくるよね。

B/ 旅行に行っても、すぐに分かるのだけれど、アイリッシュのコミュニティは、とってもお節介な面がある。 でも、とても暖っかくて、そこにいることに居心地がよくなってしまいそう。いつまでも映画の世界に浸っ ていたいような気分になってきたわね。

J/ この映画の魅力は、こういった個性的な役者たちの顔。それと音楽と、アイルランドの自然を捉えたキャメ ラ、そして物語、これらが見事に調和して、ハーモニーを奏でているところ。

B/ アイルランドの香りに溢れた、見事な映画。これは私の今年のベスト3に入る映画。これを見逃したら、映 画は語れないわよ。

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