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第69回「黒猫・白猫」

黒猫・白猫ポスター 監督…エミール・クストリッツァ 、 脚本…ゴルダン・ミヒッチ
撮影…ティエリー・アルボガスト 、 音楽…"ドクトル"・ネレ・カライリチ
キャスト…フロリアン・アイディーニ 、ザビット・メフメドフスキー
ブランカ・カティチ、スルジャン・トドロヴィッチ

1998年ユーゴスラビア/上映時間2時間10分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ この映画のタイトル『黒猫・白猫』っていうけれど、原題は言葉じゃなくって、黒猫と白猫が向き合って る「イラスト」がタイトルになっているんだよね。こんなタイトルは見たことないね。

B/ この映画は絵で見せますよっていう意気込みを感じさせるわね。

J/ 映画の魅力は、理屈じゃなくて、絵でみてわかる。そこにあるんですって言っているようだね。で実際この 映画は絵作りに凝っていて、とにかく映像で見せていく作品になっていたね。

B/ ドナウ河のほとりが舞台なんだけれど、この河がいいわよね。真っ白い鵞鳥が泳いでる。荷物を乗せた船が 行き交う。大きな密輸船も入りこんでくるし、豪華な客船もきて船上でダンス・パーティーなんかをやって たりもする。もちろん泳ぐこともできる。色々なものが混在している。映画の雰囲気そのままに。

J/ 若い男の子が河とその周辺を双眼鏡で見ていると、黒猫と白猫が仲良く通りぬけてく。ガチョウが群れをなし て歩いていく。河の向こうから、船が登ってくる。キャンピング・カーみたいにお家のついた赤いトラック を乗せている。いいなぁあれ。「結婚する時、ああいうの買っておくれよ」父親はひとりで賭け事の予行演 習をしていてなんにも聞いてない。こんなのどかな出だしでね。

B/ そこにロシアの密輸船がやってくると、こんなのどかな風景が一変して、どこからともなく、ワァーと人が 湧き出してきて、「船がきたぞー」ってみんないっせいにボートを繰り出して、船に群がっていく。急に映 画に猥雑な空気が流れて。この静から動への転換がとっても映画らしい出だしで良かったわ。

J/ この密輸船が来たっていっせいに走り出すシーンやフェリーニの『アマルコルド』みたいにみんなで豪華客 船を見物したりするシーン、映画の魅力に溢れているよ。

B/ ひとりひとりの顔もいいわね。決して豊かではないし、顔もきれいじゃないんだけれども、いい雰囲気があ るのね。味のある顔をしている。プロの俳優さんの中に、本物のジプシーの人たちが入ってたりするのね。 「ゴッド・ファーザー」って言われているおじいさんの顔のいいこと。酒場の太ったおばあさんの存在感の あること。

J/ あのじいさんは、本職はただの靴屋なんだってね。なのに黙っているだけで、なぜか貫禄があったりするん だね。

B/ あのおじいさん、その辺の首領なのだけれど、ビデオで何回も『カサブランカ』なんか観てたりするのが可 愛いのよね。やっぱりボギーはかっこいいななんて、ラスト・シーンを何度も何度も観てウルウルしてたり するの。ヨーロッパの辺鄙な町のおじいさんのあこがれがボギーなんて、なんか微笑ましくなってくるわ。

J/ あれは、監督が彼の声に惚れ込んで、ぜひボギーのセリフを言わせてみたかったからなんだってよ。

B/ 映画にそういった遊び心がいっぱいあるから、観ていてとても楽しいのよね。女の子が木の切り株の中に隠 れて歩き回るところなんかは、チャップリンの『担え銃』だし、そんな映画的な記憶もいっぱい詰まってい るのよね。

J/ 映画の原点に帰ったような映画と言えるかもね。スラップ・スティックあり、アクションあり、ダンスあり。 出てくる人たちがじっとしてない。音楽に乗っていつも踊っているような感じでね。目で見て楽しい映画な んだよね。

B/ ノーテンキと言えば、ノーテンキ。私たちの生活からすると、出てくる人みんなが怠け者に見えてくるわね。 なんの束縛もなく自由気ままに生きているという感じなのね。飲んで、踊って、賭け事をして。自由で活気 に溢れてるわね。

J/ それが、この映画の魅力なんだね。そんなことは現実にはかなわないことだから。なんか御伽噺を見ている ようなんだね。ミュージシャンたちが大きな木にロープで体を括り付けたまま演奏をしてたり、傘をさして、 カバンを持った死体が踏みきりの遮断機に吊るされてブラブラしていたりとか、摩訶不思議な絵が、とても 魅力的で、なおさら御伽噺の雰囲気を醸し出してるよ。

B/ オペラを歌いながら、お尻で釘を抜くヘンな芸人とか、おかしな人たちがいっぱい出てきてね。この映画で は何が起こっても全く不思議がないような感じになってくるの。彼らなら、そんなこともできるだろうって。

J/ ウディ・アレンの『ハンナとその姉妹』で、死ぬ心配ばかりしている主人公がマルクス・ブラザースの映画 を観て、「映画の中であんな馬鹿なことをして笑っている人たちがいるんだ。そうだ、人生は楽しめばいい んだ」って結論に達するのだけれど、『黒猫・白猫』にもそうしたマルクス・ブラザース的な精神があるん だね。

B/ みんな大人たちは、いい加減なんだけれど、男の子と彼よりちょっと年上の女の子たちだけは純粋なのよね。 それもとても気持ちが良い。

J/ もう、あの位の年の男がいかにも憧れそうな、隣のお姉さんなんだよな。ちょっと自分より大人の世界に入 っているみたいで、手が届きそうで届かないって感じのね。

B/ 女の子も女の子で、それがわかっているから、最初はからかいたくなっちゃうのね。でも段々可愛くなって くるの。それもよくわかる。女の子の方が主導権を握っていてね。ひまわり畑で走りながら、笑いながら、 次々と洋服を脱いでいくラヴ・シーンきれいだったな。いやらしい感じがしないの。背よりも高いひまわり がたくさん植わっていて、頭のてっぺんしか見えなくなってね。

J/ この映画こうした若者の純粋、大人の思惑と、それと暇をもてあました老人の智恵?が加わってくるから面白 いんだね。

B/ 気骨のあるおじいさん。ギャンブルのためには、自分の息子も売りかねないダメなお父さん。それに反発し、 おじいさんを尊敬している子供。この三世代の構図はよくあるパターンではあるけれどね。

J/ 確かに。『ファミリー・ビジネス』もそうだったな。ショーン・コネリーのおじいさん、ダスティン・ホフ マンの「ダメパパ」、マシュー・ブロドリックの息子みたいだよね。

B/ そんな愚かな、でも愛すべき人間模様を端っこからいっつも眺めているのが、黒猫と白猫なのね。「何馬鹿な ことしてるんだろう、この人間どもは…」みたいに。

J/ そういった視点も併せ持っているところが、気が利いているね。

B/ あの猫たちって、テレビドラマの「やっぱり猫が好き」の猫とおんなじような立場なのかしらね。

J/ そうだね。あの猫たち、でも実は…だったていう意外性もあってそれも嬉しかったんだよ。

B/ ふむふむ。お楽しみてんこ盛りで、とにかく元気の出る映画。映画らしい映画。エンド・マークもなんと前 代未聞の「HAPPY END」だものね。

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