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第67回「マイ・ネーム・イズ・ジョー」

ネーム・ジョー 監督…ケン・ローチ 、 脚本…ポール・ラヴァティ
撮影…バリー・エイクロイド 、 音楽…ジョージ・フェントン
キャスト…ピーター・ミュラン 、ルイーズ・グッドール
デヴィッド・マッケイ、アン・マリー・ケネディ

1998年英国(シネ・カノン)/上映時間1時間44分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 今英国映画を語る上で、欠かすことのできない監督のひとりケン・ローチの映画なんだけれど、実は僕は初め てだったんだ。彼の映画を観たの。

B/ 私はよく知らなかったのだけれど、この監督さん随分たくさん賞を取ってるものね。

J/ カンヌの常連って感じだものな。だから一度観ておきたかったんだ。

B/ 私は予告編に惹かれて観てしまったの。でもこの映画は予告編とは、随分雰囲気が違ってたわ。もっと心温 まるお話かと思ってたから、結構ヘヴィな内容で、観終わって疲れてしまったわ。

J/ もっとも、『日陰のふたり』のマイケル・ウインターボトムみたいに登場人物を突き放した感じではなくて、 もっと人物に近づいて撮っている感じがするよ。厳しい話なんだけれど、人の温もりを感じたことは確かだ よ。それにユーモアもあるし。だから救いがあるんだよ。

B/ それはわからないでもないけれど、私にはやっぱりちょっとヘヴィだったわね。

J/ 舞台となる町は、スコットランドのグラスゴー。ここはスコットランドの中で、エジンバラに継ぐ第2の都 市なんだよ。結構活気のある町って聞いているけれど、この映画では沈滞しきっていて、とてもそんな風に は見えなかった。

B/ 多分街のはずれの方なのじゃないかしら。丘から遠くの中心街を見るシーンとかあるから。

J/ 失業者が多いのにまずびっくりするね。失業手当を受けて暮らしている人ばかり出てくるよ。1997年が 舞台だから、丁度政権が労働党に移るくらいの話だよね。

B/ サッチャーからメージャーへと引き継がれた保守党の弊害、弱者切り捨ての政治がもう末期的症状に陥ってい 頃なのね。ロンドンでさえ、乳飲み子を背負った母親が物乞いをする風景が日常的に見られたくらいだから、 地方都市のグラスゴーなんておして知るべしよね。

J/ ニュースでもブレアー首相の誕生に、ロンドン市民が熱狂している様子が映しだされていたよね。

B/ この映画はでもそういった社会問題をストレートに批判するんじゃなくって、もっと人の中に入ることに よって、描いていくのね。

J/ こんなに性根のイイやつが、なんでこんな風にすさんでいくんだいっていうような感じでね。社会という単 位でなしに、個人の問題として捉えているところがいいと思うな。

B/ 主人公のジョーは、元来どんな仕事をしていたのかしらね。

J/ おそらく、鉄鋼か炭坑関係じゃないかと思うよ。仕事をしていた時にはブラス・バンドをやっていたみたい だから。『ブラス!』とか『フルモンティ』とかとだぶってくるところがあるよね。

B/ 建築関係じゃないことは確かよね。知り合いから頼まれて壁紙貼りやペンキ塗りをするのだけれど、まった くのトウシローだったから。鉄鋼、炭坑関係じゃ仕事あるわけないものね。それしか知らなかったみたいな タイプの人間だしね。

J/ サッカー・チームのコーチをやったりかなり面倒見のいいやつなんだけれど、みるからに無教養そうだもの ね。家には本もあんまりないみたいだし、たまに読めば線を引きながら、ゆっくりゆっくり読んでいる。ジ ョーを演じたピーター・ミュランは、考えたらすごい俳優だよね。

B/ そんな彼だけれど、自分の甥夫婦の世話をしている健康管理センターの職員、セーラとたまたま知り合うの。 彼女は麻薬中毒になった人たちとかの相談をしているのね。だから貧しさや、家庭に問題を抱えた人たちば かりの話しを聞きすぎて、結婚はおろか彼氏を作ることさえ臆病になって今日まできちゃった。そんな感じ の人なのね。

J/ だからだね。ジョーなんか彼らに較べれば、よっぽど頼り甲斐があるようには見える。優しそうな感じだし、 ちょっとだけ魅かれるんだな。

B/ ただし、彼女は彼氏にしたいとか、そんな気は毛頭ないのね。ただこんな男が知り合いにいれば、頼りにな りそうだな程度なのね。水道管が凍って破裂したら応急措置くらいしてくれそうだし。(笑)

J/ 突然ジョーにデートに誘われた時、とまどうわけだよね。「私にはワイルドすぎるわ」って。同僚に積極的に 勧められて、結局受けることになるのだけれど、それでもどっかで自分とは違う人種だなって思っている。 ちょっと残酷だけれど。

B/ 彼女の部屋とジョーの部屋を較べれば、育った環境がまるで違うことが一目でわかるものね。壁には絵が飾 ってあって、本棚には本やCDが並んでいる。テーブル・クロスが掛けてある小さな品のいい丸テーブルが あったり。写真に写るスーツ姿のお父さんも立派もんだったしね。カウンセリングをするくらいだから、し っかりとした教育も受けている感じだしね。

J/ 彼女がジョーの家に行った時に、彼女が何とかこの男に接点を見出そうとして、キョロキョロと眺めていた よね。何にもない部屋だけれど、壁にブラス・バンドにいた時の写真がかかっていた。それでへえーって思 う。この人楽器をやるのかって。ミュージック・テープがテーブルにひとつだけ置いてあったんで、聴いて みる。何が聴こえてくるか。

B/ なんとクラシックだった。これは効いたわね。あまりにも意外だった。こんな男がクラシックが好きだな んて。随分聴きこんだ跡も見えるし。ちょっとイメージがアップするのね。

J/ それとなんと言ってもその音楽が好きな理由、好きな女性に最初から話したくないような暗い過去の話、ア ル中になってしまったことやその他、女性にとっては耳をふさぎたくなるような話を隠さず語ったこと。そ の誠実さに惹かれていくんだね。

B/ 彼女のほうは自分のことはまだあんまり話していないのにね。にしてもこの辺りのシーンの彼女の心の動き とか、とっても丁寧で繊細だわよね。すごい力をもった監督だなぁって思うわ。

J/ そうか。確かにそうだね。このシーンは同時に彼の人間性を、観客に伝える意味もあるんだろうね。

B/ ジョーという男の本質が、一枚一枚はがされていくのね。無教養だけれど、人が良くって優しい男の姿がね。

J/ その男が、どうして酒をまた手にしてしまうか。彼女ともとってもいい感じになっていったのに。なぜ追い こまれていかなきゃならないか。どうしようもない出口の見えない状況がどんなものかが見えてくる。そこ らへんがこの映画の主題なんだろうね。

B/ 彼のいやな部分まですべて剥がされちゃうのね。究極まで追い詰めてしまうのよ。彼の優しさって何だった のだろうかって考えさせられてしまう。

J/ 確かに厳しいよね。でも彼の気持ちもわかるよ。やっと自分が立ち直るきっかけを作れそうだったのだから。 だから余計につらいよな。だけどこれが監督の狙いなんだろうな。彼が幸せになろうってもがけばもがくほ ど、穴に落ち込んでいくって感じがよく出ていたよ。

B/ そうね。人って不幸にぶつかった時に自分の醜い底が現れてくるのよね。それがわかった時のジョーの痛みが、私 にもとってもよくわかるわ。誰もが奥にもっていることなのかもしれないけれど。映画がよく出来ているか ら余計につらくなってしまう。私にはつらすぎるわ。

J/ でもこの映画まるで救いがないわけではないから。彼がこれから酒に溺れていくことはないような感じがし たから。遠い道だけれど、何とか生きていかれそうな感じがするラストだったよ。その辺に温かく見守るよ うな監督の視点があるんじゃないかと。それがあるから、この映画はいいと思うんだ。

B/ そうね。でも何か私は、こういう映画を観るとたまには「英国の貴公子の麗しい世界」みたいなものに浸っ てみたくなってしまうの。せめて映画だけでも夢は観ていたいって気持ち、わかるわよね。だから敢えて☆ 三つにさせていただくわ。よく出来過ぎた映画はつらすぎるって意味で。

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