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第65回「運動靴と赤い金魚」

運動靴と赤い金魚 監督…マジッド・マジディ 、 脚本…マジッド・マジディ
撮影…バービズ・マレクザデー 、 美術…アスガル・ネジャド=イマニ
キャスト…ミル=ファロク・ハシュミアン、バハレ・セッデキ
アミル・ナージ、フェレシュテ・サラバンディ

1997年イラン/上映時間1時間28分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『運動靴と赤い金魚』これ児童映画っていうことなのだけれど、すごく良くって、そんな枠を超えていたね。

B/ イランは、イスラム教の厳しい戒律の国だから、検閲が厳しくて、それでこういうスタイルの映画が多いそ うよ。監督は実際こんなことを言っているの。「大人の世界に迫り大人たちとコミニュケートするために子 供を使っていると、自分は思う。…子供を通して描くことで、よりもっともらしく表せるのだ」

J/ 実際、そういうことってあると思うよね。日本でも土門拳が「筑豊の子供たち」っていう写真集で、そんな 試みをしているね。例えば学校のお昼休みの風景。お弁当を持ってきている子、貧しくてお弁当を作っても らえず、雑誌を読んでいる子がいたりする。むじゃきな顔をしているから、いっそう貧しさが身にしみてく るみたいな感じがあるんだね。

B/ 子供の視線で者をみつめたり、また子供の顔を写すことによって、見えてくるものってあるのね。しかも物 事が単純化されて、よりストレートに伝えられるところもあってね。

J/ この映画は、話自体はとっても単純でね。妹の靴をなくしちゃったお兄さんの、奮闘記みたいなものなのだ けれど、そこから色々なことが見えてくるんだよ。

B/ 靴っていうのがいいのよ。これが他のものじゃ面白くないのね。体育の時間に子供たちが、一列に並ばされてい るわけ。ひとりひとり、幅跳びをさせられていて、女の子が跳ぼうとしたら靴が脱げそうになってころんじ ゃうの。それで先生が「今、彼女が失敗したのは運動靴をはいてないからなんですよ。みなさん体育の時間 は運動靴を履いてくるようにね」って言うの。

J/ そうそう、けれど運動靴を履いている子なんて数えるほどしかいないんだよね。みんなバラバラで。貧しい からそんな上等なもの買えないんだね。先生がそんなこと言うもんだから、運動靴を履いている子は、ちょ っと優越感に浸るんだね。履いていない子はちょっとモジモジして。

B/ 子供はそんなとこあるわよね。小さなことにすごく悲しみを覚えたりね。

J/ 女の子が偶然なくした自分の靴を履いている子がいるのを見つけて、その子を休み時間に探し回る。後ろ姿 しか見ていないから足元を見て歩いてるだけれど、色々な靴があるね。

B/ 新しい靴、破れそうな靴、可愛い靴、なんの飾りもないつまらない靴、靴からその子のお家の生活が見えて くるようね。なんにも言わなくてもそれがわかってくるの。とってもそれがいいのね。

J/ 靴の持ち主の子がわかって、その跡を家までつけていくと、お父さんが出てきてね。見ると彼女のお父さん 目が見えないの。「あー、この子のうちは、うちより貧しいのかー」なんて思っちゃって、靴を返してもら おうと意気込んでいったのに、シュンっとして言い出せなくなっちゃう。

B/ 女の子が嬉しそうに自分の靴でスキップしているのなんか見ると、とてもじゃないけど言い出せなくなっち ゃうのね。子供だから単純なのだけれど、その辺の気持ちの揺れがとっても良く出ているわ。

J/ 残酷なまでに、貧富の差みたいなものが出ているね。町の様子も、ピンからキリまで映し出されるし。

B/ 昔ながらの、道の真中に用水路が流れている、せせこましい町並みと、そこから一歩外に出たときの、高層 マンションが立ち並ぶ風景。それにビバリー・ヒルズみたいな高級住宅街。こんなのが、はっきりと分かれて でもひとつの街の中に混在しているのね。

J/ だけどこの映画は、砂糖も切らしちゃうほどの貧しい家の話しなんだけれど、変に貧乏くささがないのがい いね。

B/ 詩的なところがあるのね。子供たちの走る足音なんかいきいきしているの。お兄ちゃんが、靴を洗って表に 干しといたら、夜中に突然雨が降り出して、あわててしまうところなんかの雨の音とか、とってもいいのよ。

J/ 兄弟が、靴を洗いながら、ふと思いついてシャボンを作って遊んだりなんてね。妹がぶかぶかのお兄さんの 靴をはいて慌てて走っているうちに、用水路に落としちゃって、そこを靴がものすごい速さで流れて行くな んてところも、サスペンス感だけじゃなくて、とってもきれいだったりするしね。

B/ 冒頭、靴の修理屋のおじさんが、靴を直しているところが永遠映し出されるでしょ。そんな手の動き、深い しわのついたゴツゴツとしたお世辞にもきれいじゃない手の、靴に針で糸を通す作業を、永遠映し出す、そ んな感覚がとっても素敵だなと思ったわ。

J/ アパートの中庭の普段は洗濯とかに使っている池に赤い金魚が泳いでいて、足を入れると、フワーッと集ま ってきて、優しく足を包みこんでくれるみたいなところ、素晴らしいよ。

B/ とっても優しいのね。

J/ 父親が、家賃のことで小言を言っているときに、この兄弟が「明日から靴がないのにどうやって学校に行った らよいか」をノートに字を書いて、交換しているところなんかも良かったな。

B/ 「靴をなくしたことお父さんに言っちゃうわよ」「この新しい鉛筆をあげるから許して」なんてね。 妹の短くなった鉛筆、お兄さんのまだ長い鉛筆。これをもらった時の妹の嬉しそうな顔のいいこと。こんな 気持ち、私たちはもう忘れているわね。

J/ 家が貧しいんだなってことが、大人同士の会話を傍で聞いていて、なんとなくわかっているんだね。自分た ちも、子供なりに一生懸命考えているんだね。文字がふたりだけの暗号みたいな感じで、彼ら子供の世界が まさにそのノートにあるんだなぁって、気がした。

B/ 子供たちの、ノートや鉛筆、靴やカバンに対する愛着。何か大切なものを思い出させてくれる感じがするわ。

J/ マラソン大会で走って走って、妹のために運動靴を手にいれようと頑張ったこの男の子。この子には、この 家族の、もっと言えばこの国の明るい未来への希望の気持ちがあるような気がするね。

B/ お父さんと男の子が、庭の手入れの仕事を手に入れようと、高級住宅街に行った時、お父さんは臆してしま ってビクビクしているのに対して、彼の堂々としていること。

J/ 彼は、お勉強も優秀で、知恵もあるんだね。

B/ 教育率も格段に上がってきて、そこに時代が変わりそうな予感があるのね。

J/ この映画が、こんなにも感動させてくれるのは、「優しさと希望」があるからなんだね。

B/ こんな風に希望に、夢にむかって走りつづける男の子の姿勢、私たちも忘れないようにしなくてはね。 素朴で、手作りって感じの映画だけれども、心が洗われるような思いがしたわ。

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