J/
この映画はいいねぇ。『レッド・バイオリン』バイオリンを巡る4世紀の間の5ヶ国にまたがる物語。
B/
輪舞形式の映画は色々あるけれど、この映画はちょっと変わっているわね。
J/
こういう映画は昔からあるんだよ。ジュリアン・デュヴィヴィエの『運命の饗宴』一着の夜会服が、転々と
人手に渡っていき、そこにドラマが生まれるみたいな話。舞台俳優の服になり、執事の服になり、ある時は、
無名作曲家の晴れの舞台衣装になり、人々の喜びや悲しみ、嫉妬、色々な気持ちを受けとめた末、最後はか
かしの服に落ち着くっていうオムニバス。これは今回のこの映画にちょっと似ているね。
B/
デュヴィヴィエには一冊の手帳に書かれた男の現在を追って旅をする女性の話『舞踏会の手帳』というのも
あったわね。
J/
タヴィアーニ兄弟のオムニバス『カオス・シチリア物語』では鈴を首からぶらさげたカラスが物語をつない
でいるね。カラスの鈴の音が耳に残ったね。
B/
そういう意味で、この映画は意外にクラシックな味がある。ところが、バイオリンを完全に主役にしてしま
ったこと。この点に新しさがあるのね。しかもスケールが大きいわ。
J/
冒頭のバイオリンを作るところから始まって、カナダのオークションの場面。「さて、次は今日の最大の
呼び物1681年の作品レッド・バイオリンです。」って言ってバイオリンにスポットが当てられる。そう
やって物語が進んで行く。物語の切れ目には必ずこのシーンがはさまっていくから、完全にもう主役はバイ
オリンなんだな。
B/
バイオリンの運命。それを巡る人々の物語。バイオリンヘのさまざまな思い。それは人々の音楽への愛、情
熱の気持ちとも重なっているのね。
J/
イタリアから物語は始まるんだ。窓に半月にかかる頃、一人の妊婦と、生まれてくる子供のためにこのバイ
オリンは作られる。一流の職人が丹精こめて作るんだね。「ちょうどあの月が満月になって子供が生まれる
頃、このバイオリンも完成するよ」
B/
ちょっと御伽噺っぽいのね。それもタヴィアーニ兄弟にも通じる「イタリア」のお伽噺って感じがするわ。
J/
家政婦が妊婦に占った不思議なタロット占い。「月が出ているわ。将来は永い旅をします。とても永い旅を」
この占いが、そのままバイオリンの運命になってくる。ここで、バイオリンイコールこの女性の魂という図
式がみえてくるね。
B/
満月の夜、お産は失敗に終わり、女性は自らの命も落としてしまう。その時、それと引き換えにこのバイオ
リンが誕生するのね。窓から亡くなった女性を照らし出す月の光。蝋燭と月の光に包まれて完成するバイオ
リン。このイメージがいいわね。女性の死と月、それとタロット占いの月。月の光を浴びたバイオリン。こ
こからこの神秘的なお伽噺がはじまるのね。
J/
物語が完結するとき、旅の終わり。バイオリンが安住の地に落ち着くときもまた満月の夜なんだね。
B/
バイオリンのか細い泣くような音色と、女性の悲鳴の音が重なる。まるで女性がバイオリンに生まれ変わっ
たかのようにね。
J/
バイオリンの運命もまるでひとりの女性の生涯を見ているようだね。
B/
悲しい別れがあり、色恋あり嫉妬あり傷つき、歴史に翻弄され生命の危機にさらされるなど、栄光と辛苦を
味わいながら400年の時を刻んでいくのだな。
J/
占いにあったようにさまざまな国を旅しながらね。それにしてもそれぞれのお国柄、文化の香りがとてもよく
でていたわね。
B/
全編英語でということになりかけたのだけれど、監督が粘って、それぞれの国の言葉で映画を作ったことも
成功しているね。
J/
ウイーンは、音楽の都。修道院の孤児の子供たちが、みんな見事にバイオリンを弾きこなす。宮廷に、寺院
に、民衆に音楽が本当に染み込んでいる。そんな雰囲気がよく出てたわ。
B/
英国は貴族社会。ロイヤル・ホールでの厳粛な音楽会。スノッブでいかめしい指揮者。一方で恋に生き、そ
れを芸術を生む糧としている退廃的な貴族の青年。英国の貴族社会の申し子の両極端。すべてに英国の香り
が漂っているね。
J/
そうかと思うと、中国の文化大革命のリアリズムな描写。ひとりの監督がそれぞれのその国の香りをよくも
あそこまで掴んだものだね。一番不安だった中国の「文化大革命」の迫力には本当にたまげてしまった。
B/
でもいつも物語りの中心にいるのはバイオリンなのね。
J/
英国のバイオリニストは、恋に生きていたよ。それを糧にバイオリンを演奏するといった風に。
B/
バカね。彼もバイオリンに恋をしていたのよ。彼はSEXをする時には、バイオリンを手から離すことができ
ないの。女性だけでもだめだし、バイオリンだけでも寂しくってしょうがないのね。
J/
段々と喘声がはげしくなって、それと同時にバイオリンの音色も、快感に酔いしれるかのように、激しく
むせびなくものね。
B/
恋人が旅行に行った後、彼がお風呂に使ってバイオリンを抱えて途方にくれているところなんて、もうほ
とんどオナニー状態(笑)
J/
恋人が旅から帰ってきて、屋敷の中に入ると、激しいバイオリンの音色が聞こえてくる。ここで女は、男
が浮気していると確信し、ピストルを持ってバイオリンの音色のする部屋へと乗りこんで行く。するとまさ
にその通りで、女は嫉妬に狂いピストルをぶっ放す。すごい展開だな。
B/
ここで注目してほしいのは、ピストルの弾が、誰に当たるかなのよ。普通であれば、相手の女に当たるもの
なのだけれど、なぜか弾は、バイオリンに命中するのね。ふたりがバイオリンを愛していて、それを介して
の間柄だからこそなのね。バイオリンを介して愛撫できる女性が他にできたこと、そのことが許せないのね。
だから無意識にせよバイオリンに銃口を向けてしまうのよ。
J/
まるで英国版の『猫と庄造とふたりのおんな』みたいな、面白い話なんだね。
B/
どの挿話もそれぞれ魅力があるの。これらのゆかりの人たちが、最後オークション会場に集まってきて、
果たして誰が手にいれることになるのか。最後までサスペンス感もあり、まったく飽きさせることもないわね。
J/
バイオリン誕生の秘話も明らかになる。だけれど後は観てからのお楽しみだね。しゃべりたいけれど。この
くらいにしといたほうがいいと思うよ。
B/
音楽も素晴らしいし、役者もいいし、何回観ても楽しめる、これは傑作ですよ。ところで、この映画を作
った監督。これが日本では初お目見えなのだけれど、何歳くらいの人か知ってる?私たちと同じくらいの歳
なんだってさ。すごい感性の人がでてきたわねー。まったくやになっちゃう。
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