J/
こりゃ、もう濃厚な男の世界。もうすっかりしびれちゃったよ。この映画には今のハリウッドのアクション
映画にはない何かがあると思うな。
B/
私もけっこう楽しかった。なぜって男たちがかっこ良かったから。寡黙な男はやっぱり絵になるわねぇ。
J/
冒頭のシーンからしてセリフがほとんどないんだよね。雨がシトシトと降っている。モンマルトルによく
ある急な石階段をデ・ニーロがひとり降りてくる。コートが雨に濡れている。小さな酒場、ジャン・レノ
が一杯の酒を注文する。中の様子を伺い、銃を入り口脇の酒のケースに隠すデ・ニーロ。中に入る。異様な
緊張が走る。「閉店時間ですよ」「いっぱいだけでいいんだ」そして合言葉…。これってフィルム・ノワー
ルの世界なんだな。
B/
セリフはないし、何が始まるのかまだわからないのだけれど、緊張感は確かにあるわね。何か秘密めいた世
界のはじまりを予感させるような。ところで、フィルム・ノワールって何?
J/
ごめんごめん。君にはわからないよね。元々はフランス製の犯罪映画のことを、こう呼んでいたんだ。アメ
リカ製のギャング映画とは違ってアクション・シーンは派手ではないのだけれど、多分に心理的で、ニヒリ
ズムな映画。主人公は大抵陰を背負っていて、独特の暗いムードが漂っている映画。これをフィルム・ノワ
ールって呼んでいたんだね。
B/
なるほど。アラン・ドロンの『サムライ』って映画があったわね。ああいう映画のことを言うのね。ふーん
なんか共通点が見えてきたわね。タイトルの『RONIN』っていうのは、もしかしたら『サムライ』を意識し
ているのかもしれないわね。
J/
まさにそうだと思うよ。『サムライ』だって何も武士が出てくるわけじゃなくて、その生き方が「サムライ」
だって意味で使っているからね。
B/
そのへんにこだわりがあるのね。
J/
今のアメリカのアクション映画ってこのコダワリが感じられないんだよ。メル・ギブソンの『ペイ・バック』
も最初の方は、ちょっとフィルム・ノワールっぽい始まり方で期待しちゃったのだけれど、途中からベラベラ
としゃべり出して、コメディ色が強くなってくるでしょ。なんでだろうと思う。悪の凄みとか、美学がこれっ
ぽちもそこにはないんだよね。
B/
私はなぜ、主人公があそこまで「お金」にこだわるのかが理解できなかった。彼の腕ならそのくらいのお金
簡単に稼げるのになぜって気がしてしまった。
J/
でしょ。主人公が軽すぎるんだよね。最初のシーンの重い感じでずっといけば、その不可思議な行動も納得
なのだけれど、途中からコメディ・タッチになってくるからおかしなことになってくるんだな。
B/
この辺で爆発させて見せ場を作って、ちょっと笑わせた後には、色恋も持ってきて、女性のメル・ギブソン
ファンも満足させてっていう製作の裏側が見えてくるようで(笑)ひどくお手軽に見えちゃうのよね。
J/
一方この映画、それぞれにどこかに傷を背負った男たちが、何だかわからないたった1個のスーツ・ケース
のために命を賭ける。そこには理由というよりも、男の意地とプライドが感じられるんだね。いいねぇ。
B/
スーツ・ケースの中身が何だかわからないところがいいわね。わかったら、案外ああこんなものって感じが
してくるものね。
J/
僕は銃マニアじゃないからよくわからないのだけれど、銃ひとつをとっても彼らなりのこだわりがあるのが
充分に伝わってきた。仲間のひとりが単なる銃マニアだってデ・ニーロが見抜くのも、理詰めでカッコ良か
った。
B/
普通は、秘密を知ったら殺されるものなのだけれど、それほどのタマでもないということを見抜いているか
ら、銃マニアの彼は、途中までの報酬だけ渡されてそのままサヨウナラになっちゃう。彼が本物のプロだっ
たら、結構屈辱的なのだけれど、案の定彼は何も言わずスコスゴ帰っていくのね。
J/
素人さんはほっとけばいい。そんなところにも彼らのプロ意識が出ているんだね。
B/
この素人さんが、やたらデ・ニーロに突っかかって「人を殺したことがあるのか」なんて言ってしまうのだ
けれど、それに対しデ・ニーロは「たくさんのハートなら傷つけてきた」なんて、もうっかっこいいのよ。
J/
デ・ニーロがほのかにナターシャ・マケルホーンに恋心を持っているようなんだけれども、特にラヴ・シー
ンになるわけでもなく、ほのかなままで終わる。でも充分に気持ちは出ているね。
B/
大人の恋よね。それを前面的に押し出さないところが、観客に媚びていなくっていいわね。
J/
集団の中に女性が、一人入っている。それがしかもリーダーで、どことなく頼りない。その不安定さに、サ
スペンスがあるね。この辺が従来のフィルム・ノワールとはちょっと違うところ。この映画が不安定で常に
危うさを持っているのは、その辺のところかもしれないね。
B/
カー・チェイス・シーンもすごかったわねぇ。この映画を観ると『TAXI』なんてひよっこに見えちゃうわよ。
J/
あのヨーロッパの狭い石畳の道を、猛スピードで走るところがすごいねぇ。クラシックな町並みとカーチェイ
スのアンバランス。これがいい。特撮は一切ないから、迫力満点だね。
B/
遠くにエッフェル搭が見えてたりするするのよね。フランス政府が全面協力してるのね。カフェで人々がくつ
ろいでいる中を車が暴走して、それこそ人々が刎ねられる寸前で逃げ回る。これぞカー・アクションの醍醐
味よね。
J/
ただ単に車をぶっ壊せば、それでいいってわけじゃない。アクションに迫力が出るのはいかに見せるかにあ
るっていう、原点を思いださてくれたな。
B/
ジョン・フランケンハイマー監督は、その昔『フレンチ・コネクション2』っていう映画を同じくフランス
のマルセイユで撮った事があったでしょ。その実績があるから、ヨーロッパのどこをどうしたら、アクショ
ンが映えるかも熟知していたのね。
J/
そうだよね。彼は四半世紀ぶりに、フランスに帰ってきたというわけだね。
B/
確かにこの映画、ストーリーやその語り口には不器用なところがあるの。モタモタしているところもないわ
けじゃないし。でも直球勝負。監督のプロとしてのこだわりが感じられて、そこが嬉しいわね。
J/
アメリカ映画にこういうこだわりのある監督が増えてくれば、もっともっと面白くなると思うのだけれども
ね。
B/
映画のタッチは確かに古いのだけれども、今のハリウッドの多くの映画が失っているものを見せてもらった
気がして、かえって新鮮だった。映画って面白いわね。
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