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第57回「恋におちたシェイクスピア」

シェイクスピアポスター 監督…ジョン・マッデン 、 脚本…マーク・ノーマン
撮影…リチャード・グレートレックス 、 音楽…スティーヴン・ウォーベック
キャスト…グウィネス・パルトロウ、ジョセフ・ファインズ 、
ジュディ・デンチ、コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ

1998年ユニヴァーサル/上映時間2時間03分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 面白かったなぁ。こういう映画が観たかったな。

B/ 一応、主演女優はアメリカ人だし、アメリカ映画って形になっているけれど、スタッフもキャストも英国勢 で固められていて、もう英国の匂いがプンプンしてくるかんじの映画だった。シェイクスピアを知り尽くし ていなければ、とてもできない映画だわ。英国の底力ってところね。

J/ シェイクスピアを知り尽くしているっていえば、昔オーソン・ウエルズが『フォルスタッフ』っていう映画 を作ったことがあってね。フォルスタッフっていうのは、シェイクスピアの演劇の中でたびたび、コメディ ・リリーフ(道化)的な役割を与えられて出てくる人物なんだけれど、いくつかの戯曲の中から彼の出番を抜 き出して、彼の一代記みたいなのを作っちゃった。これは大変すごいことだったのだけれど、あまりにも玄 人受けするような内容で、僕にはあんまりわからなかったということがある。

B/ ああ。覚えてるわ。その点今度のこの作品は、シェイクスピアをあんまり知らなくても、誰もが楽しめる作り になっているので、とってもいいわね。

J/ 『ロミオとジュリエット』じゃ誰もが知っているしね。

B/ エリザベス朝は、色々な新しい戯曲家が現れてそれまでの宗教劇的な演劇から、脱皮した時代。その時代が 見事に再現されていて、それを見ているだけで楽しかったわ。

J/ 劇場の風景なんか、嬉しいね。当時の絵に出てくる劇場が忠実に再現されててね。

B/ 以前、東京のグローブ座でやった『お気に召すまま』が当時の舞台装置を再現していたのだれど、かなりいい線 いってたのだなということが、この映画を観てわかったわ。

J/ 昔、ローレンス・オリビエも『ヘンリー五世』で当時の舞台を再現していたけれど、その雰囲気に較べると 観客の雰囲気とかは、現代風になっていたようだな。オリビエの映画に見られた猥雑さが、この映画にはな かったものね。上演中に雨が降り出してきて、観客がいっせいに逃げ出すとか、そんな描写があっても良か ったかな。

B/ オリビエの映画や、以前に観た『お気に召すまま』の舞台の雰囲気ともちょっと違ってたわね。休憩時間に 道化役の役者が、観客たちと冗談を言い合ったり、当時のものはもうちょっとのんびりしたものだったと思 うのね。

J/ 現代の演劇人としての、情熱みたいみたいなものを出したかったんだろうね。

B/ もっとも、一方で色々な細かいところで時代を再現する努力もされているところが、この映画の魅力かもし れないわね。ヘンズロウが道を歩いていると、いつも彼の後ろに窓から汚物が落ちてきたり。

J/ あの時代は本当に衛生面がなっていなかった。だからペストが大流行したんだね。

B/ エリザベス1世は、本当にお祭り好きで、三週間くらいかけて地方でお祭りを楽しんだ人なの。さすがにこの 映画のようにロンドンの劇場に足を運ぶということはなかったけれど、地方に出かけて行って、湖に船を浮か べて、花火を楽しんだり、演劇を観たりしたの。映画の中でも彼女が「もっと花火を」ってちゃんと言ってる じゃない。(笑)

J/ 彼女がストラッドフォードにも足を運んでいて、大々的に演劇祭みたいなものも開かれて、その時にシェイ クスピアは、演劇を観て、その魅力に取りつかれたんじゃないかと言われてるね。

B/ でも何と言ってもこの映画の面白さは、歴史的事実は間違いないのに、そこへ行くまでの過程を見事な創り 話にしてしまっているとこだと思うわね。ヘンズロウがお金に細かくて、劇場の経営日誌を細かくつけてい たのも事実だし、シェイクスピアの先輩の天才作家マーロウが、居酒屋でけんかの末、若くして死んでしま うのも本当の話。シェイクスピアが役者をやっていたのも本当。

J/ 知っていると、ニヤニヤしてしまうようなことがちゃんと詰め込まれているね。あんまりさりげないから、 知らなくても全然お話には関係いってところが、この映画に一層の好感をもてるところなんだよ。お高く とまっていないんだね。

B/ ちょうど、ペストが大流行して劇場が閉鎖されていて、資料があまり残っていないから好き勝手にお話を 創れたっていう強みもあるのね。

J/ 『ロミオとジュリエット』は、本当のことを言うと、イタリアに元になったお話がちゃんとあって、この映 画みたいな経緯でできたものではないのだけれど、そうは言ってもシェイクスピアの作品の中では、異色の 作品と言われていて、謎も多いんだ。でもこの映画のような過程を経てこの戯曲が書かれたっていうことに すると、なぜか歴史的な事実よりも説得力があるから、面白いね。

B/ マーロウがシェイクスピアの劇に実際に影響を与えたって言われている作品もあるから、居酒屋で彼にヒン トをもらって戯曲の内容が変わっていくっていうのも、まったくの嘘とは思えないのね。

J/ あの有名な『ロミオとジュリエット』のセリフがどうやって書かれたか、実際の人生と戯曲があるところか ら重なってくる部分が増えてきて、ドキドキしてしまう。舞台と役者たちの人生が重なってくるっていうの は、『天井桟敷のみだらな人々』もそういう構造になっていたし、結構あるパターンなんだけれど、これほ どエキサイティングなものはあまり観たことがないね。

B/ 映画のお話自体、セリフ自体が、シェイクスピア劇と同じ構造やアイデアに満ちているのね。ヴァイオラが 男装して劇場にもぐりこみ、それを見抜けないシェイクスピアが大きな誤解をするところ。これなんかもう すぐにシェィクスピアの有名なあるお芝居が頭に浮かんでくるものね。

J/ 劇場主同士の『ロミジュリ』ばりのけんかがあったり、誤解につぐ誤解っていう話自体が、もうシェイクスピ アのコメディの定番って言っていい。

B/ お話が現代の恋愛映画っていうより、シェイスピアのお芝居を観ているような雰囲気になっているのね。その 辺誤解して観ると案外白けちゃうかもしれないわね。よく出来たお芝居を見るような気持ちじゃないとね。

J/ だけど、登場人物は意外に当世風なんだよ。シェイクスピアは、ニューヨークの劇作家みたいにカウンセラ ーに通っているし(笑)、グウィネスみたいに女王にたてついたり、自分を主張する女性なんて、あの当時で はとても考えられない。そんなことしたら、即首が刎ねられることを保証するよ。

B/ グウィネスなんて、私たちの周りにもいる映画大好き少女みたいな感じだものね。もっとも、お嬢様で別の 世界で生きているところは違うけれど(笑)

J/ エリザベス女王だって、「私だって男を演じてきた」なんて、まるで男まさりのキャリア・ウーマンみたい なことを言っている(笑)実はその辺もこの映画のユニークなところなんだね。当時をただ再現するだけでな しにね。

B/ しかし、エリザベス女王を演じたジュディ・デンチの存在感はすごかったわね。たった8分の出演なのに、 場をさらってしまう。要所要所をこの人の存在感だけで、ビシッと閉めていってしまう。デイムは只者じゃ ないわね。秋にやる『エリザベス』より彼女の8分間のほうがすごかったなんてことになったら、どうしま しょうね。(笑)

J/ はっはっは、本当だね。他にもいい俳優がそろってたよ。コリン・ファース、ルパート・エベレットの『ア ナカン』のコンビが再び共演してたし。ベン・アフレックも舞台上でセリフをしゃべらないで、その存在感 だけで、押してたのが良かったし。

B/ グウィネスも今度は良かった。きれいなクイーンズ・イングリッシュをしゃべっていたわよ。アメリカ人が 彼女にオスカーをあげたくなる気持ちはわかるな。

J/ とにかく、この映画はシェイクスピアを知りぬいた人が、自分の楽しみだけじゃなしに、誰もが楽しめるよ うに考えぬき、脚本、俳優、美術すべてに気を使った、最高のエンターテインメントだって言えるよ。

B/ 楽しいけれども、奥も深くって、何回も何回も繰り替えし、観て見たい作品だわね。

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