J/
またまた出てきました。英国映画の新しい風。でもこの作品『トウェンティフォー・セブン』、うたい文句
は「弱冠25歳シェーン・メドゥス監督、衝撃のデビュー作」だけれど、まあ衝撃的ってほどではないね。
B/
例えば、ジム・ジャームッシュや『トレイン・スポッティング』のダニー・ボイルほどの衝撃はないわね。
むしろストーリーは懐かしいようなお話だしね。
J/
最初にボブ・ホスキンスが、誰かを踊りに誘う練習をひとりでしているところ、ちょっとミュージック・ビ
デオっぽくて、おいおいまた『トレスポ』の亜流かいなと思ったけれど、物語が進むにつれて、じっくり描
くところは描いてるし、良くなってきた。
B/
これは、イギリスの中央部分、ロンドンから200キロくらい離れているノッティンガムっていう町が舞台
になっているの。これがまたさびれた街ね。
J/
もう街の楽しみは、ビンゴ・ゲームしかないみたいな街なんだね。『ガールズ・ナイト』と通じるところが
あるね。悪いことに電車のほうも、もう随分前に廃線になってしまったみたいで、英国の好景気とも無縁だ
ったような街だね。
B/
この映画のタイトルにもなっているのだけれど、「一日24時間、一週間7日、無気力で、何をするのでも
ない暮らし町の大人も若者も一生それで終わる」っていうのが、25歳のこれから世に出て行く監督にして
は、とても実感がこもっているのね。
J/
そこが、この映画の命かもしれないね。この映画の世界は、監督が自分の生活してきた街そのものなんだね。
だからそこには、実感がある。人の姿、街の姿が息づいているんだね。それだからこそ出てくる感覚がある
ね。うらびれたダンス・ホール、ゴールのネットも張っていない吹きさらしのサッカー場。ビンゴ・ゲーム
の会場のようなボクシングの試合会場の飾りつけ。廃線となった駅ね。
B/
この映画、時間の経過が良くわからないのだけれど、季節は冬よね。その割に出てくる人たちは薄着だった
けれど、草も枯れてたし、木も葉っぱが落ちてたものね。それがよりさびれた感じを強めてたんじゃないか
しら。
J/
ただでさえ英国の冬は色がすくないのだけれど、雲は低く垂れ込めているし、そのうえモノクロだものね。
B/
モノクロの映像はなかなかセンス良かったわ。表の景色は、どちらかというと、アンダーぎみにして、木の
枝が複雑にねじれているところとかを、シルエットにしてみたり、ダンスのシーンは逆にオーバーにして非
日常の世界みたいな感じを出してたり。コントラストをしっかりと出してたわ。
J/
みんなで合宿にいく、ウェールズの山、これがウェールズそのものみたいな景色なんだけれど、それがとて
も美しかった。ねじれた木がポツーンポツーンってな感じで立っていて、それがシルエットで映されるんだ
ね。そこを白いヤッケ?を着た若者たちが、走って行くところ。
B/
それでも、このシーンが一番この映画で開放的だったかもしれないわね。ここでボブ・ホスキンスがひとつ
の答えを見つけ出すのね。「現状を撃ち破ろう」ってことで、無気力な若者たちを集めて始めたボクシング
・ジム。大きな地球の虫眼鏡でやっと見える、チョコマカと動く人、その一人一人が奇蹟をおこせるかけが
えのないもの。おまえもその一人だって言った、父親の言葉の意味をみつけた気がしてね。
J/
ボフ・ホスキンスがとってもいいね。味があるね。
B/
きっと、これまで挫折感ばかりを味わってきた人生だったのよね。そんな感じがにじみ出ていた。人から見
れば小さなことかもしれないけれど、ジムを始めるってことは彼にとって、大決心だったのよね。試合を控
えての忙しそうな彼の顔の満足そうなこと。
J/
ヤク中の男を看病する時の彼の顔もやさしい、実にいい顔をしていたね。彼無しにはこの映画は成り立たな
いと思うね。
B/
あのキャラクターの豊かさは、監督のあの人物への思い入れがあるんじゃないのかなぁ。おそらく、自分の
少年時代に実在した身近な人間の肖像が盛り込まれていると思うわよ。愛情があるもの。
J/
雑貨屋の女性にひそかに恋心を寄せてるんだけれど、いじらしかったなぁ。
B/
彼女の手のあとが白くカウンターに残っているのを見て、自分も手に白い粉をつけて、それに重ねあわせた
りなんかしてね。
J/
ユーモラスでもあるけれど、ちょっと悲しくてね。
B/
この映画は、モノクロで暗くなりがちな画面だったけれど、そうはならなかったのは、ユーモアの感覚があ
るからもしれないわね。
J/
病院に行けば、痛々しく顔を腫らしているのに、まだボクシングのジャブをやっている患者がいたり、レフ
ェリーがマイクを持つとすかさず、「蝶ネクタイでマイクなんか持って、フランク・シナトラの歌なんか歌
うなよ」なんて声がかかったり。(笑)
B/
そうそう。なぜか英国映画は、田舎街を舞台にすると、いつもフランク・シナトラが出てくるのね。(笑)
J/
この映画の登場人物たちは、決して悪い人たちじゃない。唯一の悪役のティムの父親だって、悲しみを抱え
た人間になっているし、出てくる人たちに愛情がこもっているような気がするんだ。けれど、若者たちの描
き分けがいまひとつ整理が足りなかったのは、惜しかったな。
B/
どの人がどちらの仲間に属した誰なのかが、よくわからないのね。
J/
僕は、それだけが大きなマイナスだった。その辺がまだこれからの人なのかなって感じがする。
B/
あと私は、音楽のセンスがいいことはわかるのだけれど、前半でちょっとうるさくなりすぎたことがマイナ
ス・ポイントだった。この監督の良さは何もダニー・ボイルの向こうを張ることではなくて、日常生活から
出てくるユーモアの感覚を自然につかむところにあると思うから。
J/
次回作は『ロミオ・ブラスの部屋』犯罪に手を染めることになってしまった少年たちの話だそう。自分の
身近な世界を描いたリアリティある感覚、ユーモアセンス、登場人物への暖かい視線。こういった特徴を
また出してほしいね。
B/
モノクロのセンスが良かったから、カラーになったときどういう映像を作るか、それも楽しみよね。
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