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第53回「シン・レッド・ライン」

シン・レッド・ポスター 監督…テレンス・マリック 、 脚本…テレンス・マリック
撮影…ジョン・トール 、 音楽…ハンス・ジマー
キャスト…ショーン・ペン 、ジム・カヴィーゼル
ジョン・キューザック、ニック・ノルティ、ウディ・ハレルスン

1998年20世紀フォックス/上映時間2時間51分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 今手元に『シン・レッド・ライン』のポスターがあるのだけれど、これはとっても映画の内容をよくとらえ ていて、いいポスターだね。ヘルメットをかぶった兵士たちの三つの目が、とっても印象的なんだ。それぞ れが恐怖からか落ち着かない視線を向けているのに対して、トライアングルの頂点の位置にある、ショーン ・ペンの目だけが、まっすぐにしっかりと前を見つめているんだね。

B/ この映画は、ショーン・ペンが出番の割にとっても重要な意味を持っているように思うわ。ただひとり、自 分を見失うまいとして、物事を冷静にとらえ続けていたわね。

J/ この映画は、戦争映画というよりは、もっと哲学的な意味をもった映画だったように思うよ。反戦とかそう いう社会的メッセージというよりは、もっと個人的な考え、人生観を前面に押し出したようなそんな感じ。 だから、広く一般には受け入れられない種類の作品だね。

B/ 『プライベート・ライアン』と比較されがちだけれど、同列では語れる映画じゃないわね。

J/ 『プライベート・ライアン』のほうが、若い人にも衝撃を与えられたという意味では、社会的には意義があ ったかもしれないね。だけど、人物描写だけをとってみると、格段にこの映画のほうが深みがあったことは 確かだね。

B/ 例えば上官に楯突いてまで、懸命に部下を守ろうとする心優しい男が、結局「おまえは軍隊に不向きだ」と言われ て、怪我人と一緒に本国へ送還されてしまう。ここまでは、勇気のある行動なのだけれど、裏を返せば自分 大切さにやっていた行動だったことがあとでわかるのね。

J/ 送還されることが決まった途端のうれしそうなこと。守ってもらった部下たちが、別れに感極まって「こん なことって許せない。私たちが上に嘆願書を出しましょう」って言うと、「そんなことをしても、どうせ 無駄だよ。それより私はこれで故郷に帰れるってことがなにより嬉しいんだ」なんて言ってしまう。これ からまだ戦場が待っている部下たちにだよ。一瞬部下たちがヘンな顔をしたね。

B/ ちょっと、それじゃ可愛そうよね。嘘でもいいから、「残して行くのが心残りだ」くらい言ってもいいのに ね。でも自分ではそれがまるでわかっていないのよね。「君たちは、私の子供といっしょだ。一生君たちの ことを思って生きていくよ」なんて後からつけたしてもなんら説得力がない。

J/ 人間らしいっちゃらしいね。(笑)戦場のような極限状態に置かれると、人がでてくるね。自分の命を守るの がせいいっぱい。そのような状況では人間が裸になってしまうんだね。

B/ これが出世の最後のチャンスっていうんで、部下のことを考えようとしない上官がいたり、色々。みんな 感覚が麻痺してくるのね。

J/ 戦場で風がサーッと流れて、それが故郷の家のカーテンがそよ風に揺れるシーンにつながって、さらに窓か ら外を出ると、戦場へと戻ってくる。落ち着いた平和な暮らしと、狂気の戦場がひとつにつながる。まった くの別世界が、ひとつの環でつながるという表現が面白いね。

B/ この映画は、終始そうした感覚で作られているわね。弾が飛び交うなかで、ふと叢で目にするおじき草。そ っと手でふれると、葉っぱがキューッと縮む、その生命感。疲れて行進する兵士の上に飛び交う、天然色の 鳥、コウモリの群れ。遺体と、自然の力がいっぱい溢れた草。戦場の冷たさと木々の上から差し込む優しい 木洩れ日。

J/ 自然が、とにかく美しい。戦争を描いた作品とは思えないほどにね。地上の楽園っていう感じがする。「生 と死」が実は隣り合わせであることが実感される。戦場という特殊な空間だから、それがひときわ際立って くる。

B/ これから戦場に向かう兵士たちと、原住民のおじいさん、はだしのおじいさんが静かにすれ違うシーンは何 とも不思議な感じがしたわ。美しくって何か幻影を見ているようだった。こんなところが本当に戦場になる のかなっていう感じだった。ここはすごくいいシーンだったわ。

J/ 物々しい兵士たちの格好とのアンバランスさが異様な感じだったな。

B/ なにかあの島は「エデンの園」といった感じがするの。原住民は自然のままに平和に暮らす、いわばエデン の国の住人たち。海で魚を採り、貝殻で遊ぶ。自然の作物を食べ、必要以外の自然破壊もしない。身には腰 布だけをまとい、虚栄や見栄もない、文明という禁断の木の実を食べていない人たち。

J/ 「エデンの園」ね。実はこの映画がちょっとわかりにくくなっているのは、そうした監督の宗教観が多分に 入っているからだと思うんだ。美しい風景の意味も、そこにあるわけだし、また「神はこんなに美しい自然 を作り、また人も作ったのに、どうしてそれを破壊しなくてはいけないんだ」「この現実をみずからの目で 見て欲しい」っていうのだけれど、キリスト教徒ではない僕には、理屈ではわかるのだけれど、心から受け 容れられない部分があったな。

B/ セリフで「神」と対話みたいなことをしていて、一語一語がとっても意味の深いことを言っているのもわ かるのだけど、頭がおっつかなかったわ。

J/ 映画を観ているうちに、戦場にしては異様に美しい自然描写がなぜ必要だったかは、わかってきたね。けれ ど、それがわかるとかえって、何だって気持ちになってきちゃった。この映画は頭で作った映画なんだなっ て。ちょっと理屈っぽい話になってくるんだな。

B/ この映画には語り手がいて、最初は脱走して原住民と暮らしていた男の子が話をしているのだけれど、それ が終わりの方にくると、ショーン・ペンに変わってしまう。ところがおんなじようなことを言っているから、 これはいったい何なのだろうって思ったわ。

J/ これは、監督がしゃべりたいことをその時々に、俳優にしゃべらせていただけなのじゃないのかな。でもどう せそうするなら、ショーン・ペンが、唯一最後まで冷静に自分をみつめていたから、最初から彼の視点に統 一すべきだったと思うな。そうすれば、あの語りももう少しわかりやすくなったはずだよ。

B/ すごく繊細な演出をしているから、目だけでも充分伝わってくるものはあるのにね。語りは、最初と最後のほう だけで良かったのじゃないかしら。

J/ なんせ3時間近い映画だからね。観ているほうはそんなに集中力が続かないしね。

B/ 私は、映画としては『プライベート・ライアン』より、描写が繊細で感覚も優れているとは思うのね。でも、 監督の思い入れの強さが、逆に私には窮屈になってしまった。

J/ すべてに完璧を追求しすぎて、逆に窮屈になってしまった感はあるね。

B/ 感覚はいいのにね。

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