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第51回「BARに灯ともる頃」

CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『BARに灯がともる頃』は10年目にしてやっと公開されたんだけれど、こんな良い映画なぜ今まで公開さ れなかったのかと、まず思ってしまった。

B/ 85年から90年にかけてのマルチェロ・マストロヤンニは、とにかく脂が乗って充実していた時期だものね。 フェリーニの『ジンジャーとロジャース』『マカロニ』『黒い瞳』『スプレンドール』などもこの頃。なぜ かこの作品だけが公開されてなかったのね。

J/ ベルリンの主演男優賞を『イル・ポスティーノ』のマッシモ・トロイージとダブル受賞した話題作にもかか わらずね。

B/ イタリアの家族映画っていうのは、独特の暖かさがあって、過去にも名作が多いジャンルよね。

J/ あの国は、プログラムにも書いてあったことなんだけれど、本当に母親が中心にいるんだね。ふくよかで、 逞しくいつもめげすに明るく振舞っているイタリア女が。『鉄道員』にしても、父と子供を中心にした家族 ドラマであったにもかかわらず、母親の存在感が大きかったものね。アメリカ産のコッポラの『ゴッドファ ーザー』にしても、母親の存在って結構大きかったよね。母親の出てこない家族の物語は、どこかわびしか ったりするものなんだな。

B/ 『自転車泥棒』の父子なんてわびしいものね。

J/ 今回のマストロヤンニの息子をはるばる訪ねてくる父親役っていうのは、古くからの映画ファンには、また 別の感慨もあると思うんだよ。

B/ っていうのは?

J/ 30年前、フェリーニの『甘い生活』で彼は、ちょうどこの逆の役をやっていたんだよね。ローマで雑誌記者 をやってるマストロヤンニのところにお父さんが訪ねてくるっていう具合に。で、マストロヤンニは父親を ローマ案内して、キャバレーに連れてくんだね。

B/ 今度のこの映画では、父親が田舎からではなく、都会ローマの方から田舎の港町に息子を訪ねてやってくる っていう風になってるのね。なにかあの映画の延長線上にあるみたいな感じがして、面白いわね。

J/ 『甘い生活』のあの時代にまさに、彼は弁護士になって、その後お金を稼ぎまくってた世代なんだろうね。

B/ 明らかに世代間のギャップがあるのね。

J/ 父親がローマから持ってきた贈り物にもその辺が象徴されてるよね。ことごとく彼の生活には合わないもの ばかりでね。車の免許がないのに高級車。生活する気がないのに、ローマのテラス付きの高級マンションて な具合に。やれ英会話学校に行け、車の免許はどこぞで取れ、父親は自分と息子を比較して、彼の生き方が 歯がゆくてしょうがないんだね。

B/ いっぽう息子には息子の世界がある。父親とは全く別の価値観の。この二人の父子関係は、二人の位置関係 がとてもそれをよく表してると思うのよ。例えば、港でふたりが腰掛けて話しをするシーンね。息子は父親 とは並んでは話しをしないの。父親の後ろに少し距離を置いてしゃがんでるのね。しかも、父親が彼を見よ うとすると、見上げなきゃならないような位置に。ここにとっても彼の気持ちが現れてるの。

J/ いつも、話したいときには、やれ仕事だなんだといっていないくせに、彼が話す時には自分の生き方を一方 的に押しつけてくるだけで、自分の気持ちなんて聞いてもくれない父親。けれど、彼は優しいからそれを初 めからはっきりとノーとは言えないたちなんだね。だから父親から見下ろされ、一部始終を見られる位置で はなくて、逆に見下ろす位置を選ぶんだね。

B/ 父親はといえば、彼にいつも近づこう、近づこうとしているの。いつも腕を組んで歩こうとするのは、父親 のほう。父親は父親で理解できない息子に何とか近づき力になろう。もっとも、それは自分の思い通りの人 生を息子にも歩んでほしいっていう一方的な思いではあるのだけれど、彼なりにあせっているのね。そんな 気持ちがよくでていたわ。

J/ それで思わずまったくの第三者、息子の恋人に会った時、息子についてあれこれと、それこそ「能力」につ いてまで訪ねたてしまったり、あせる気持ちを告白したりしてしまうんだね。

B/ ふたりそれぞれの気持ちがとってもよくわかるのね。父親の息子への愛情もよくわかるけど、息子が父親を うっとうしく思う気持ちもとってもよくわかる。二人の演技がまたとってもうまいから、だから尚更切なく なってくるのね。

J/ だけど、父親も息子の生活がどんなものか段々とわかってくる。一緒に入った映画館で寝てしまって、いつ の間にか隣にいなくなった息子を探してロビーに出ると、息子が誰かと電話をして笑いこけている。それが 今まで見た事もないような活き活きとした姿だったんで少なからず、驚き嫉妬の気持ちを感じる。このあた りから、彼も寂しくなってくるんだね。今までそれなりに確信を持って息子に接してたけれど、何かが違う ことを感じはじめるんだね。

B/ 彼が言うところの『父親の悲劇』ってやつね。でもこのあたりから今までは、父親優位だった二人の力関係 が対等になってきて、はっきりと物事を言わなかった息子が本心を父親にぶつけはじめるようになるところ が、ドラマとしてとっても上手にできてるわね。

J/ この邦題の『BARに灯ともる頃』っていうのは、この父親の気持ちが一番出てくる場面を取った題になっ ているんだけれど、原題はちょっと違っていて『何時ですか』っていう題になっている。邦題もとっても素 敵ではあるのだけれど、この原題はもっとこの映画の本質を表してるね。

B/ 父親の三つ目の贈り物がおじいさんの時計なのね。で、これを息子が一番喜ぶ。小さい時のおじいさんの思 い出が詰まっているから。ずっとふたりがすれ違ったり、いがみあったりしている中で、この時計にまつわ る話しをしている時だけは、ふたりの気持ちが通じ合ってるのね。

J/ 父親が嬉しそうに「今何時ですかな」と訪ねると、息子が「今1時52分23秒です」って嬉しそうに答える。 これだけなんだけれど、この時は、ふたりに親子の優しい情が流れているんだね。それを題名にしてるんだな。

B/ 親子の血を感じるのね。この古めかしいごっつい時計がまたいいわね。鉄道員が会社から支給されていたも のだから、古いけれども性能はとてもいい。仕事につかうものだから、随分ごっつくて頑丈にもできている の。うしろに機関車の絵が彫られている。値段的には価値のないものかもしれないけれど、いかにもおじい さんの汗がしみついている感じがする。おじいさんの誇りもそこには入っているような感じがする時計なの ね。

J/ 親子の時に冷たい葛藤とかを描いた映画なのに、どこか暖かいものが終始一貫流れているのを、感じるのは、 この時計の存在があるからなんだね。本当いいね。これ。イタリア映画らしいしね。アメリカのニール・サ イモンの家族のドラマとは、やっぱり違うね。

B/ レストランで時計をいじくる二人の表情がたまらなくいいのね。愛しくなってしまう。考えてみれば、イタ リア映画は、こんなにも素敵な俳優をふたりとも失ってしまったのね。

J/ まったくね。このふたりの俳優だからこそ、尚更見応えのあるドラマになってるんだろうね。演出は控えめ で、このふたりを全面的に押し出しているようにも見えるしね。どこにでも誰にでもあるドラマ。僕にも、 君にも思いあたるようなこのドラマがいっそうの説得力を持つのは、二人の力も大きいね。

B/ 私は、二人の名優の演技をたっぷりと味わえること。これだけでもこの映画は絶対観る価値があると思うわ。 声を大にしてこの映画お薦めしますわ。

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