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第50回「ムービー・デイズ」

CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 今回、お蔭様で我々がこのホーム・ページに登場して丁度50回になるんだね。

B/ よくもまあ、続いてること。時に喧嘩のようにもなっちゃったけれど、結局のところお互い映画が好きって いう、その一点で持っているのかもね。(笑)

J/ うん。それで、今日はとってもいい映画が観てこれたんで、本当に良かったなと思っているんだ。『ムービー ・デイズ』アイスランドの映画なんで観ている人は多分少ないとは思うけれど、映画が好きな人ならなおさら 、よくわかる映画だと思うんだ。

B/ そうね。監督自身の少年時代の思い出を散文的に綴ったものなんだけれど、その中に彼の映画の思い出も散り ばめられているって感じなのね。監督がいかに映画を愛しているか、そんな気持ちも伝わってくるわね。

J/ ファースト・シーンがとにかく、もう良いね。ゾクゾクしてしまったよ。

B/ 最初は、小雨がしょぼ降る雨の交差点が映し出されてるの。車が行き交って、おまわりさんが真ん中で交通 整理をしている。その車を除けながら、いくつかの家族連れが、傘もささずに足早にある一点に向かって歩 いていくのが俯瞰で見える。そのある一点が映画館なのね。

J/ なぜか見事にみんな傘をさしていないんだよ。映画館ではびしょぬれになったコートを脱いで、「やあ、ど うも」なんて互いに挨拶を交わしている。結構近所の人たちが集まってきているんだな。「今日のはどんな 映画かしらね。」とか、「お隣さん今日は夫婦喧嘩して来てないみたいよ」とか、そんな会話が交わされて いるような雰囲気なんだ。バスの車掌さんみたいな制服を着たモギリのおじさんが「坊やいくつだ。子供は 大人同伴じゃなきゃダメだよ」なんて言って、切符を切ってる風景とかも出てきて、良い雰囲気だね。

B/ 映画はまさに黄金時代。テレビがまだ一部のお金持ちの家にしかなかった時代ね。家族全員がそろって席に 着いて。もちろん歳の下の男の子はお父さんの隣りの席で。

J/ 映写がはじまる。まず最初にMGMのマーク。ライオンが吠えるやつね。『King Of Kings』の大きい文字。 いいねぇ。ワクワクするよな。映写機の青白い光が観客の頭の上を通って、スクリーンにまっすぐに伸びて いる。待ってましたとばかり、ザワザワする客席。しばらく映画の名場面と、客席の様子が交互にカット・ バックされるのもうれしいね。

B/ まさかアイスランドの映画の劇中劇で、MGMのシンボルマークがフルに映写されるとは思わなかったわ。 映画ファンだったら、好きな映画は、タイトルから観たいもの。例えば『スター・ウォーズ』ならフォック スのファンファーレはフル・コーラスで観てみたいとかあるじゃない。だから、これは監督がよっぽどこの 映画に思い入れがあるんじゃないかって、ピンときたわね。映写される映画も、スクリーンに映し出された ものを撮影するだけじゃなくで、オリジナルのフィルムを自分のフィルムに直接繋いでいたでしょ。

J/ そうなんだよ。結構こういうのって珍しいね。キリストがゴルゴダの丘まで、十字架を背負わされて歩いて いくシーンが出てくる。僕はこの時ハッとしたね。このイメージは、この監督の古い作品、『春にして君を 想う』で使われていたイメージそのものじゃないかって。あれはただ単に監督の宗教感から描かれたものだ とばかり思っていたら、それだけの意味ではなくて、この映画のイメージが少年時代に頭にこびりついてい たということもあってではなかったかと、この時思ったね。そういえばあの映画には、「ベルリンの天使」 もそのままの姿、格好で出てきてたんだよ。

B/ さあ、いよいよキリストが磔にされる。手に杭が打ち込まれようとした瞬間、お父さんが息子の顔を手で覆 い隠すの。あー、なんて優しいんだろう。もう、これだけでこの家族がわかるわね。それで画面がお父さんの 手で真っ暗になって、そこに何と映画のタイトルクレジットが映し出されるのね。ミクロス・ローザの音楽、 セリフだけがそれにかぶさる。わーっ、なんて素敵なファースト・シーンなんだろうって思ったわ。もう、こ れを観ただけで、もう私はこの映画を観に来て本当に良かったぁ。

J/ とにかく良いね。ファースト・シーンだけでこんなに話が盛りあがっちゃうんだからね(笑)

B/ これ時代はいつ頃の話になるのかしらね。

J/ おそらく60年代の前半だと思うよ。『キング・オブ・キングス』が61年の製作だから。監督の実年齢と 主人公の男の子の年齢も大体一致するね。中で子供たちが熱狂していたロイ・ロジャースの西部活劇は時代 がちょっと違うけれど、きっと子供向けに、「ゴジラ大会」みたいなノリでやってたのだろうね。

B/ 日本でいえば、50年代の後半が丁度こんな感じだったのかもしれないわね。小津安二郎の『おはよう』が 59年の製作だけれど、とっても共通点があって面白かったわ。「テレビを買ってくれない」って子供がご ねる話ね。この映画でも近所のお金持ちの家に、子供たちがテレビが観たくてたむろすシーンがあったものね。

J/ 子供たちが、めいめいの家の前の舗装されていない道路でワイワイ走りまわっていて、そこに世間からはみ 出した大人も必ずいたんだね。とても離れた国なのに、日本人にもなんだか郷愁をそそられる風景なんだね。

B/ 前半はノスタルジーに溢れた世界。少年が親戚のおじさんが住む田舎に行く後半は、同じノスタルジーでも 雰囲気が変わってくるわね。

J/ 後半は、少年が成長していく過程なんだね。ここからは、現実と幻想のシーンが入り混じってくるのが面白 い。

B/ この監督は、これまでのどの作品を観ても、現実と幻想が入り混じった、どこからが現実かがあいまいなシー ンっていうのが必ず挿入されるわね。この映画では、現実の「生」のイメージと「死」を思わせる幻想のイメ ージが印象的に描かれていたわ。

J/ 「生」が、川に鱒の取り方をおばあさんに教わりにいくシーン。牛の種付けをするシーン。「死」が悪魔が 通りすぎるシーン。それからアメ車に乗った得体の知れない変態っぽいおじさんにさらわれそうになるシー ンだね。悪魔はちなみに、『ベルリン天使の詩』のオットーだったね。

B/ あの時代には、アイスランドではああいったアメ車はあまりないのね。もうGIは去ってしまっているから。 最初、私はこれは現実にあったシーンかと思って見ていたら、どうもそうではないのね。少年が、この事件 を信じてもらおうと大人たちに、現場に来てもらうと丁度そのとき、車が現れるじゃない。そうすると、そ の車の中には、さっきのおじさんと、幼い少年少女それと老婆が車いっぱいに乗ってるのね。それを見て、 なんだが寒気が走るのを感じちゃった。あっこれは、死神だと。

J/ だから大人たちが、実際にそれを一緒に見ても、みんな口を閉ざしてしまうんだね。そんなものはなかったと。

B/ アイスランドとか、アイルランド、ヨーロッパの外れの国々は、キリスト教の信仰と共に、いかに土着の信 仰が生活に密着しているか。この映画を観るとそんなこともよくわかるわね。アイルランドの妖精。アイス ランドの精霊。だから映画の中にそういった要素が自然に溶け込んでいるのね。

J/ またあの風景、背の低い草が一面に生えた丘、氷河の豊かな水を運ぶ透き通った川、色の薄い空と色の少な い台地。ものすごく美しい風景なんだけれど、いかにもそういった精霊のような者たちが息づいてる感じが してくるんだね。

B/ カメラはとにかく美しかったわね。それと、物語の文体が散文詩的なのよ。ひとつひとつのエピソードが、 絡み合わないで積み重ねられ、全体を通じてひとつのイメージが出来あがるみたいな感じになってるのね。 映画詩って言ってもいいかしらね。

J/ 幼い頃、子供はまだ神の領域にいるなんて言われているけれども、少年時代に入り、「生」と「死」の意味 を肌で感じ取って、そうやって大人へと成長していくっていうのが一番理想なんだろうね。そうした形って 今はなかなかないものな。都市では動物は飼えないし、牛や馬も身近にいない。植物の成長さえヘタすれば 目にできなかったりしてね。

B/ やっぱり、こういうのって健全じゃないのね。子供は田舎を持つべきかもしれないわね。

J/ そう思うね。それからラストがまた本当に良いんだよ。ああ今日はまだ話し足りないことがいっぱいあるって感じ がする。

B/ 本当に良い映画ね。ビデオになってからでもいいから絶対観ることをお勧めするわ。

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