Jack&Bettyの目次へ  ホームへもどる

第48回「セントラル・ステーション」

CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 「セントラル・ステーション」には、はっきりいって泣かされました。

B/ 映画館を出てきたとき、しゃべろうとすると涙が出てきそうになっちゃって、しばらくお互いにそっぽ向い てたものね。

J/ もうだいぶいい歳になった元女教師の主人公ドーラ。彼女の職業がいいね。手紙の代書屋さん。大きな大き な、セントラル・ステーションの片隅でみかん箱みたいな、粗末なテーブルひとつでやってる。

B/ 次から次へとひっきりなしに、お客さんがきてるのね。文盲の人がいかに多いかね。

J/ もう、面白くってね。若い人からお年寄りまで。いろんな顔の人たちが、それぞれに様々な思いを持って手 紙に託す。「好きな人がいるんですが、どうやって思いを伝えたらよいのでしょうか」という若い男がいる かと思えば、「私ははじめてあんたに手紙を書くが、あんたのことを恨んでいる」なんてじいさんもいる。

B/ 撮影を始めたら、たくさん人が集まってきて、勝手に語りはじめてしまったんだって。それでそれをそのま ま使ったらしいわよ。だからカメラは望遠で、人の顔だけを同じ角度で写すことになったのね。

J/ なるほどね。だからそれぞれの顔がいいんだね。自分の名前を言うその顔だけを繋げたりしていたけれど、 それだけでもうすでに何かを語っていたものな。

B/ 夕方、ドーラが帰る電車。電車が着くと、気の早い若者が窓から次々に中へ入っていって、席取りをしてん のね。なんでなんだろうって思っていると、発車する頃には人が入りきらなくて、屋根まで登っている人が いるんで、なるほどと思った。カメラはその電車が駅のホームを離れて、線路のはるかむこうへ出て行くと ころまで映していてとってもいいわ。

J/ 人が電車から出て、中央フロアにワーと出てくるところとか、丁寧に映しているよな。本当にたくさんの人。

B/ 驚いちゃったのは、近くでお店に泥棒が入って、犯人が射殺されても誰も気にしてないことね。色々な地方 からの電車が乗り入れて、常にたくさんの人たちが交差しているセントラル・ステイションなのに、集まっ てくる人、一人一人の心は乾いていて、それが余計に孤独感を感じさせてしまうのね。

J/ 彼女自身も心は乾ききっている。人と人との、喪失したコミュニーケーションを取り持つ代書屋さんの彼女 自身が、もう随分と前にそうしたものを放棄してしまっているのが、とても皮肉だよな。

B/ 「写真は必要ない」なぜなら思い出を忘却のかなたへ置いてこれるから。こう言いきってしまってるものね。

J/ で、実は彼女は、せっかく書いた手紙を投函なんてしていない。これは気に入らない。こんなのは、わがまま な女の繰言だなんて言って、端からビリビリと破り捨てている。人の気持ちを思いやるんではなくて、色々と 評価して楽しんでいるだけ。

B/ そんな日常の中、お客として通っていた女性が子供を残したまま、ひとりバスに轢かれて死んじゃう。死ぬ 時、彼女の忘れていった、折り目のしっかりついた、花の刺繍が端っこに控えめについた、白いハンカチが 風でハラッと机から落ちるのが印象に残るわね。一瞬気持ちが動くのがわかるのね。

J/ 子供がひとり取り残された。お腹がすいてくる。粗末ないっぱい飲み屋から食べ物のにおいがしてくる。貧し そうな貧相な大人たちが、酒を飲んで、酔っ払ってる。ポツンとひとり取り残されたこの子の不安が、よく出 ていたね。さらに夜もふけて、駅の構内に人がいなくなると、そんな子供や家のない大人だけが取り残されて て、それを駅員だか、警察だかわからないけれど、追い払いに来る。暗い電気がポツンとついた中を、真っ黒 い犬がうなだれて横切って行く。それが、とても寂しい感じがした。心細い感じがよく出ていたな。

B/ 頼る人のいないこの子は、ドーラを唯一の頼みの綱として、彼女の前に姿を現わすのだけれど、そんなこと は知ったこっちゃないって初めは追い払う。ところが、ひょんなことから、この子の父親探しの旅を一緒に することになる。ここからが、この映画の本題に入っていくわけ。ここまでたっぷりと、孤独感を描いてき ているから、この後の旅が、より生きてくるのね。

J/ 人の大勢いる大都市から、人の少ない、砂漠の町々へと向かって行くのだけれど、逆に人と出会い、何かを みつける旅になっていくんだね。

B/ ロード・ムービーっていうのは、時に冗長に陥りやすいのだけれど、この映画は行く先々のエピソードで、 主人公の生きてきた道とかが、くっきりと浮かび上がるって構造になっているから、常に緊張感があった わね。

J/ 結構、運から見放されちゃったみたいなとこあるね。子供時代からね。男運も相当なかったみたいで、行き づりのトラック運転手に、自分の残り人生をかけてみようって簡単に決心しちゃうところなんか、とっても 悲しいものがあった。

B/ 浅薄かといえば、浅薄かで。子供に化粧もしないから、結婚できないんだなんて言われて、「何言ってるの よ。友達の○○なんて、化粧してたって、結婚してないわよ。」とは言ってみたものの、そんな自分にいつ からなったんだろうってハッと気付かされたりする。あとで口紅を塗るシーンが、それぞれ違う意味で2回 出てくる。1回は、ただ単に男を掴まえたいため。あと1回は、自分自身をみつけたという意味でね。

J/ そうして子供と反発しあいながら、見つめるのを避けてきていた自分自身の生き方が見えてくるようになる。 アメリカ映画でも、『グロリア』とか、子供と反発しながら旅行をしていく映画ってあるけれど、この映画 では、それによって見えてくるものが大きい。

B/ 子供と深く関わるのを避けてきたのに、いつの間にか逆に甘えたりするようになってくるのが面白いわね。

J/ その甘えが、子供の心を傷つけて、彼が群集の中を逃げて行く。キリスト教のお祭りで賑わう群集の中を 名前を叫びながら、追いかけていくシーン、すごかったな。人々が手に手に蝋燭を持って、小さな明かり が手元を照らす、その群集の熱気の中を必死に追いかける。火が放たれて、キリスト像にしかけられた花火 がはじけ、人々の祈りと興奮が最高潮に達すると、主人公の緊張と疲労もピークとなる。群集から喚声があ がる。

B/ まるでお祭りで、キリストの復活を祝うのと同時に、主人公の生まれ変わった人生を祝福するかのような 感覚があるのね。このあとの彼女は、随分吹っ切れた感じになるものね。

J/ さて、子供の父親はみつかるのか。彼女と子供の関係はどうなるのか。彼女はこの旅で最終的に何を得るの か、話はさらに続いて行くけれど、それは観てからのお楽しみということにして、この映画で一番感動する のは、何かって言うと、やっぱり彼女があの歳になって自分を見つけられるってことにあるんだろうね。

B/ 人間誰でも、歳を取れば取るほど、自分の生きてくスタイルっていうのが出来てしまって、なかなかその殻 から抜け出すことっていうのは出来なくなってくるもの。

J/ 手紙をポストに入れないで、金だけ取って平気でいられるとか、相当彼女の場合は感覚が麻痺していたから、 尚更そう言えるね。

B/ そんな彼女にさえ、そういう勇気が残っていたということに、人間の大きな可能性を見、私たちはとても勇 気づけられるのよね。私が涙がとまらなくなってしまったのは、どうもそういうことのような気がするのね。

J/ 決して、自分の過去を否定するのではなくて、そこを見つめなおす勇気から、新しい1歩を手にした主人公 は、これからの人生絶対に後悔で生きていくことはないだろうね。映画の結末がどうであれね。彼女の勇気 に僕も拍手したいな。

この映画についての感想やご意見がありましたら下記までメールを下さい。

メイル このページのトップへ ホームヘ