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第44回「恋の秋」

CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ エリック・ロメール監督の映画は色々と観ているけれど、この『恋の秋』はその中でも特別に素晴らしかっ たね。

B/ 私、ロメールの映画ってあんまり得意じゃないのね。いつも登場人物がペチャクチャしゃべってて、煮え切 らない人たちが出てきて、音楽も入らないから眠気を催してしまう。(笑)ごめんなさいね。でもね、今回の 作品は、そんな私でも夢中になっちゃった。

J/ いいね。でもなぜなんだろうね。

B/ 出てくる人たちが、大人の女性でとっても素敵だったし、話もとっても洒落てて良いのよね。

J/ これ、一種のロマンチック・コメディなんだよな。出会いとすれ違いの面白さ。話にグングン引き込まれて いっちゃって、次はどうなるんだろうってワクワクしながら観てしまう。

B/ 偶然出会ってしまったり、すれ違ってしまったり、そのタイミングが絶妙なのね。すごく自然でわざとらし さがない。

J/ 話は完璧に作られたよく出来た話には違わないのだけれど、なにせドキュメントっぽいタッチだからね。 特別な効果音や音楽も入らないし、自然な音を効果的に使っている。それがいっそうこの映画を面白くし ているんだな。

B/ 来ちゃいけないところに来てしまった。あるいは見てはいけないものを見てしまった。この間の悪さは計算 されて作られたものなんだけれども、そうは見えないのは、そういった演出の効果かもしれないわね。

J/ 葡萄を女手ひとりで作っている女性、彼女をめぐって物語が動いていくのだけれど、冒頭で彼女のプロフィー ルがたっぷりと紹介される。その辺がいいんだね。最初見た時は髪を振り乱していて、着の身着のまま、外 見で判断しちゃいけないのだけれど、魅力的な女性には見えない。それが段々といい顔になってくるんだね。 この女優さん『クレールの膝』でヒロインをやったベアトリス・ロマンだね。へえー、こんな歳のとりかた したんだね。

B/ 彼女の両親は、チュニジアの出身で、彼女に畑を残して亡くなったらしい。学校を出て都会で生活をした後、 どうも一大決心して農業をするため、田舎に引っ込んだらしい。そんなことがわかってくる。彼女の言葉の ひとつひとつがとっても魅力的で、人間的に深みを感じさせるわね。

J/ 彼女の息子の恋人、ロジーヌが彼女と高校時代の哲学の先生ふたりをとっても慕っているのだけれど、この 哲学を論じる高校教師の言葉の薄っぺらいこと。それがとても対照的に見えるんだ。やっぱり自然と対峙し ている人の、経験から出てくる言葉っていうのは、重みがあるんだね。

B/ 彼女は自分のことを「職人」って言っている。有機農業だから、隣の畑と違って雑草がボウボウと生えてい るの。葉っぱも虫が食っていて見栄えもよくないのだけれど、とてもいい葡萄ができてるの。それがとって も彼女らしいのね。ナチュラルで奥が深いっていうの。

J/ 印象的なのが雑草を生やしていることについて「いい面もあるのよ」って言うシーン。ひとつひとつ雑草に ついて説明をするところ。「これはキンギョ草、これはサラダに入れるとおいしい草」畑のものひとつひと つにとっても愛情を感じてるんだね。

B/ 苦労してるからよ。それが人でも物でも、苦労してこそ愛しさが湧いてくる。愛情が湧いてくるのよ。

J/ そんな彼女でも心にポッカリと穴が空くことがある。息子は大きくなっちゃたし、畑意外に愛情を傾けるも のがない。どこに自分の身を持って行ったらいいんだろう。まだまだ老けこむ年じゃない。ひと花もふた花 も咲かせられる年。でもいったいそれが何なのかはわからないんだね。

B/ それにピンッてほぼ同時にきたのが、彼女の幼馴染の友達マリー・リヴィエール、この人は『緑の光線』の あの泣いてばかりいた主人公やった人だわね、それと息子の恋人アレクシア・ポルタルね。「彼女に必要な のは恋人だ!」って。

J/ でもなにせ彼女は「この年では畑で宝を見つけるほうが、まだ簡単」(笑)なんて言ってる人だから、二人と も、それぞれが自分の方法で彼女の恋人探しをすることになる。もうこの時点で我々観客は、すっかりこの ヒロインに魅せられているから、ストーリーに急速に引き込まれて行くことになるんだね。いっしょに恋人 探ししている気分になってくるんだ。

B/ このふたりの方法っていうのが、また対照的になってるの。若い女の子は、一所懸命なんだけれど、多分に ひとりよがりの所がある。好奇心の旺盛な若い女の子らしくキャッキャッ言いながら楽しんでいる感じで、 それがへんな混乱をよんでいくのね。一方幼馴染の友人のほうは…

J/ ちょっと、今度は僕に言わせてくれる。幼馴染の友達の方は、さすがに彼女の性格や、相性なども考えて慎 重にことを運んで行くんだ。熟女の余裕さえ感じる。でも自分自身もはっきりいって冒険を楽しんでいると ころがあって、その辺で事をややこしくしていく。そういうことだよね。

B/ そうね。この話は結局、すべてある人物を真ん中において対象形になってるのよね。若い娘を真ん中に置い て、ヒロインと高校の先生。ヒロインを真ん中に置いて、若い娘と大人の女性、あるいは彼女たちが選らん できた男たち。マリー・リヴィエールが選んだ男を真ん中に置いて彼女自身とヒロインみたいにね。そのア ンサンブルから生まれてくる可笑しさっていったらいいかもしれないわね。

J/ まったく上手く出来てるね。すべてが対極になってるんだね。なるほど、言われてみればそうだ。よくロメ ールはルノワール的だって言われるけれど、その辺がなんだね。なんだかとても合点がいく。ルノワール監 督の『ゲームの規則』を昔観たけどあれはまさにその理想的なドラマだった。それに通じるところがあるね、 この映画は。ふーん。

B/ まあ、私にはそんなことはわからないけれど、そういうことなんじゃない。

J/ エリック・ロメールは今年もうすでに78歳なんだってよ。こういう年でこんな若々しい感性の映画が作れる ことが驚きだよ。

B/ 「枯れ」はないわね。映画がとても希望に輝いていて。この映画の魅力はそこかもしれないわね。私はまだ この映画の主人公たちほど歳はいってないけれど、40歳を過ぎても女性も男性もあんなに素敵でいられるの かと思うと、とっても勇気が湧いてくるわ。

J/ 本当だね。人間、歳じゃないんだね。要はその人の生き方なんだね。それでいつまでも若々しい気持ちでい られるんだね。

B/ 見終わって本当に幸せになって映画館から出て来れる映画だった。

J/ いいね。葡萄畑の黄色の群れ。深紅の葡萄の房。芳醇なワインの香りがとりもつ恋の予感。男の顔に刻まれ た皺。内面から溢れる女性の美。「秋の恋」とは熟した大人の女性の芳醇な恋のこと。まさにフランス映画 ならではの映画の美がここにある。

B/ あんた、いくらなんでもキザよ。柄にもないこと止めなさい。気持ち悪いわ。私が浸っているのにムードを 壊さないでちょーだい。私、今日は家に帰ってひとりでワイン飲むことにするわ。

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