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J/ 今日は、トルーマン・カポーティの『草の竪琴』ということで、 ちょっと張り切っています。 B/ オードリーの『ティファニーで朝食を』も彼の作品だったわよね。 J/ そうそう。ただ『ティファニーで朝食を』は、彼の作品て言っても、 映画自体は別物ではあったけれど。 ホリー・ゴライトリーのような人物ではなくて、今で言えば ジョディ・フォスターのような女性を想像して書いた、ということだよ。 B/ オードリーのイメージが私なんかは強いから、 ちょっと意外な感じがするわね。 J/ うん。今度の『草の竪琴』は、そうした意味では 原作のイメージに忠実な映画だったと思うよ。 B/ 南部の雰囲気がとてもよく出てたわね。 緑豊かで明るくて、どこかおとぎ話的で、と同時に 奥深い暗黒の部分を持ったような…。 監督は相当本を読み込んでいるんじゃないかしら。 J/ 実は監督の母親のキャロル・マッソーは、 カポーティと親交のあった人なんだよね。 彼の晩年の作品『叶えられた祈り』には、キャロルが実名で 登場してくるんだよ。 B/ それじゃ、子供のころからカポーティの作品には 親しんでいたのかもしれないわね。 J/ そのようだね。監督自身この作品を自分自身の中で、 完全に消化しているね。 例えば、映画の中で主人公の男の子が、 ドラッグ・ストアでアルバイトしているシーンがあったよね。 B/ 友達のライリーが"シャドウズ"、実はコンドームのことなんだけど、 注文をして彼がなんのことだかわからずにモジモジしてるシーンね。 J/ あのドラッグ・ストアのイメージが、原作ではあまり詳細に 書かれていないんだけれど、そんなところは彼の作品 『銀の壜』に出てくるドラッグ・ストアのイメージなんかを ちょっと入れたりするんだね。 B/ そういえば、これはプログラムに出てたんだけれど、 昔、カポーティ原作の映画『冷血』に主演したスコット・ウィルソンを 主人公の父親役として使ったあたりも、監督のこだわりの現われかしらね。 J/ しかも彼は、カポーティの本物の父親に体型が似てたりするんだからスゴい。 B/ まあ、そこまでくると、単なる偶然だという気がしないでもないけれどね。 J/ 僕は、この映画でとっても良かったのは「むくろじの樹」「インディアン草」が、 どういものかを初めて見れたことだね。 B/ あー、よくあるわね。 小説で読んで、その地方ではごくありふれたものかも知れないけれど、 私たちにはなじみがないために、皆目見当がつかないものって。 J/ そうそう。それで初めて「むくろじの樹」がどういうものかを知って、 感動しちゃったね。なぜ「樹の家」が「むくろじ」でなければ いけなかったかが、わかるような気がする。 B/ なんて言ったらいいのかしらね。 何かとっても不思議な樹よね、あれって。 葉っぱの部分が糸のかたまりみたいで…。 J/ 風に吹かれると女性の髪のようで、なにかなまめかしいものがある。 亡くなった母親への亡霊のような感じでね。 それが頬をなでるような。そんなイメージがこの樹にあったとは 知らなかった。 B/ 去っていった人々の声を集め、そして語る「草の竪琴」…インディアン草 も見事だったわね。ただ私としては、音楽をかぶせないで 風に揺られてなびく自然の草の音色をもっとじっくり聞かせて 欲しかったと思うけど。 J/ 音楽も美しいことは美しいんだけれどね。 B/ 今話していて気づいたのだけれど、この映画っていうのは、 「死のイメージ」が至るところにあるのね。 もうひとつ。ハロウィンの余興に主人公のエドワード・ファーロング が着る衣装も「骸骨」だものね。 J/ あれって「死神」のようだよな。しかも、ぜんぶ縫いつけてしまったので、 脱ぐことができないんだよね。 B/ 皮肉なことにね。 映画を観てて思ったんだけれど、もしかしてカポーティの小説って、 視覚的なイメージが最初からもう、映画的になっているのかもしれないわね。 J/
そうだね。 B/ エドワード・ファーロングなんてもうピッタリ! ちょっと猫背に歩いたりしてね。 顔立ちも女性に囲まれて育ちましたって感じで、なおかつ繊細そうで。 J/ ウォルター・マッソーも欲のない暖かそうな人柄が にじみ出てたよな。 ちょっと『プリースト判事』(ジョン・フォード監督作品)のウィル・ロジャース 的なところがあってね。 B/ あと、なんといっても最高だったのは、主人公の叔母の役で 無垢な魂を持つパイパー・ローリー。 彼女を見てると私たちがどこかに置いてきてしまった 大切なものを思い起こさせてくれるようで…。 J/ 他の人たちも、本当にみんなよかった。 シシー・スペイセク、ジャック・レモンなどなど。 B/ 登場人物たちがどこか皆、世間から少しはみ出してしまった人たちばかりなのよね。 J/ カポーティにとっては、そういった人たちが少年時代、 本当に身近にいたからね。とても愛情を持って描いている。 B/ 監督も本当に愛着を持って、これらの人物を描いてるわね。 映画を観終わって、とても暖かいものが心に残るのは、きっとそのせいね。 J/ この映画はおそらく、カポーティの原作の映画化作品としては、 最高の出来だったと思うよ。今日は、僕は本当に満足だったよ。 |