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第25回「ウインター・ゲスト」

CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 今日はご機嫌だね。

B/ 私のアラン・リックマンさんの初監督作品「ウインター・ゲスト」ですもの。

J/ 「ダイ・ハード」以来の大ファンだったものな。ところで、この映画の季節は題名で 判る通り冬なんだけれども、これはとても大きな意味を持っているね。

B/ そうね。秋だと晩年。次に来るのは「死」を意味する「冬」になってしまう。けれど、 冬だと、その後には「希望」「生」を意味する「春」が来る。そんなフィーリングが 、この映画のストーリーにはピッタリくるのよね。

J/ また、「冬」ということで、登場人物たちの閉塞的な状況が際立ってくるんだよね。

B/ スコットランドのどことも知れぬ小さな海辺の町が舞台なのね。海に氷が張って(これ が「ウインター・ゲスト」のことね。)、道には雪が積もって白一色。他の土地とは隔 絶した空間といった感じがするのね。

J/ この原作は元々舞台劇だから、舞台ではこの世間から隔絶された空間というのが、と てもうまく表現されていたと思うよ。舞台そのものが閉じられた空間だものね。けれ ど、映画でその感覚を出すのはとても苦労したろうね。スクリーンには無限の広がり があるからね。

B/ だから、この映画はその小さな町のさらに小さな空間、海辺の周辺だけでストーリー が展開するのね。何か、皆海辺の周辺にへばり付いて生きているような、そんな感覚 なのね。

J/ 彼は、以前ロンドンで蜷川幸雄の「タンゴ・冬の終わりに」の舞台に出たことがあっ たよね。あの作品も、日本海沿いの小さな町の小さな映画館が舞台になってたんで、 それを僕は思い出しちゃった。

B/ 彼の意識のどこかに、あの作品のイメージがあったことは確かね。ただ、この映画で は、外の世界へ通じる海さえも凍ってしまっていて、その舞台の孤立感がいっそう高 まっているわね。

J/ あの凍った海っていうのは、ヴィジュアル的にも、象徴的意味という点でも誠にドラ マチックだったね。

B/ そうそう。ある時は「この氷の海を歩いてどこか別の世界に行ってみたい」という願 望を起こさせるし、かといって実際歩こうとすると、いつか割れて氷の裂け目に吸い 込まれるんじゃないかという不安も感じさせる。

J/ 霧に包まれれば、「向こうの世界を覗いてみたい」好奇心にかられると同時に、何も 先が見えないことからくる不安にも襲われる。

B/ これって、人生そのものじゃなくて。だから、それぞれ登場人物の置かれた状況によ って、この凍った海との関わり方も違ってくるのよね。いわば、彼らの心の鏡みたい にね。

J/ その辺がとても映画的で、魅力あるんだよな。舞台ではとてもできない表現方法だね。

B/ 人生って事で言えば、この映画の登場人物そのものが人生の縮図といった感じもしな い?

J/ えーと、「大人って皆幸せそうじゃない」って言って大人になることを拒んでいる少 年でしょ。それから夫を亡くした妻とその年頃の息子。母娘の絆が断ち切れそうなそ の祖母。それからお葬式にばかり出掛ける老婆たちか…。うーん、なるほどね。

B/ だから、この物語は母と娘の物語に一番共感する人もいるだろうし、青年が自己にめ ざめる話しとして観てもいい。それから、少年が思春期から大人への一歩を踏み出す その瞬間としてもいい話しだし、老人たちの余生のスケッチとして観ても面白いのね。

J/ どの年代の人が観ても、それぞれ共感を得るところがあるということだね。

B/ そうね。一本の映画の中に色々なドラマが詰め込まれているのね。そんなにドラマチッ クではないのだけれども、なぜかその一つ一つの物語にたまらなく愛しさを感じてし まうのよ。

J/ この物語を作ったきっかけは、リックマンが友人から聞いた何気ない日常の話だった というんだね。「その時、ごく普通の人生の中にも様々なストーリーがあるというこ とにハッとさせられた」と、彼は言っているんだけれども、そういったことが土台と なっているから、僕はこの物語に親近感を感じたんじゃないかと思うよ。

B/ あと、私はこの映画、声高に「人生はこう生きなくっちやいけないんだぞ!」なんて ことを言ってないところがいいと思うのよ。

J/ うん。そこに残るのもよし。危険な氷の海を渡って、先へ進んで行くのもよしってね。 人それぞれ、その人にあった生き方があるんだってね。

B/ 私あと、人の手のイメージも鮮烈に残ってるの。支え合う手。優しく髪をなでる手。 傷口を洗う手。救いを差し伸べる手。誰かが誰かに自分の気持ちを手で伝える。「 頑張って!そこから逃げ出さないで!」それを受け止める心。とても優しさに溢れて いるの。

J/ 細い美しい手。皺だらけの手。まだ、小さな若い手。人それぞれの手でね。

B/ 私、この映画の背後に、優しく人を見つめるリックマンさんの暖かい視線を感じてね。 それでなおさら感激しちゃった。

J/ それは、どうだかわからないけど、景色は寒いのに心暖まる映画であったことは確か だね。

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