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第150回「王の男」

製作…イ・ジュンク、キム・インス
監督…イ・ジュンク
脚本…チェ・ソクファン
撮影…チ・ギルン
キャスト…カム・ウソン、イ・ジュンギ
チョン・ジニョン、カン・ソンヨン

2005年韓国(配給角川ヘラルド映画)/ビスタサイズ/上映時間2時間02分


<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ この映画は『宮廷女官チャングムの誓い』を観ていたから時代背景がとってもよくわかって面白かったね。

B/ 第一回目の話とだぶるところがあるからね。第10代王ヨンサングンの母が毒殺され、のちに彼が王位に着き、その事実を知ったとき、大静 粛が行われる。それに立ち会ったチャングムの父親も追われる身となり、やがてチャングムは、両親を亡くしてしまう。そんなところから 物語が始まったのだけれど、この『王の男』は、その時代を背景とした映画だったのね。

J/ 映画の主人公は、この王ヨンサングンと、チャンセン、コンギルという名の芸人ふたり組み。

B/ このチャンセン、コンギルの芝居が中心となって、ストーリーが展開されていくのだけれど、この伝統芸というのがとにかくスゴイ!!この映画 はこれを観るだけでも充分に価値があるといっていいわね。

J/ 仮面をかぶって、綱渡りをしながら、男役女役に分かれて芝居をする。お囃子に乗って調子をとりながら、綱の上で飛び跳ねたり、宙返り をしたり、もうそれだけでアクロバティックですごいのに、演じられる芝居も世相批判といった内容で、しかもエロチックだったり、下品 だったり、ブラックな味も利いている喜劇ときている。

B/ 韓国にこんな優れた伝統芸能があるとは知らなかったわねぇ。

J/ 19世紀ヨーロッパのコメディア・デラルテ(パントマイム)では道化役は、舞踏家か女の綱渡り師が演じていたということを聞いたのだけれ ども、そんな要素がすでにある。そして仮面劇としての要素もあり、音楽が入るという点では音楽劇としての要素もある。中国にも日本にも ないタイプの独自の芸能なんだな。

B/ 日本で上演されたことあるのかしらね。こんなの生でやったら絶対観にいきたくなっちゃうわね。

J/ しかもこれだけの荒業だから絶対スタントを使っているなと思っていたら、とんでもない。俳優自身が実際に演じている!! しかも経験者ではなくて、この映 画のために特訓したというのだから驚異だよね。こんなこと特訓したって普通できるものじゃない。チャンセンを演じたカム・ウソンという俳優、 凄すぎるぞ。

B/ それでチャンセン、コンギルふたりの芸人は、国一番の芸人になるために、国一番の都漢陽に行くのね。王のお膝元で宮廷を皮肉った芝居を 演じたのね。「王様は民衆には重税をかけておきながら、毎夜芸者上りの宮女を相手に遊び呆けている」というのを、すこぶる下品に演じ てみせたから、見物人は大いに日頃のうっぷん晴らしになり、それでものすごい評判になった。そしておのずと王宮の重臣の耳にもこの評 判が入っていったのね。

J/ なにせ暴君として歴史に名前を残した王ヨンサングンだからね。たちまち捕まり、王を侮辱した罪で死刑が宣告されてしまった。

B/ チャンセンは「王が笑えば侮辱じゃない」こうしたもっともな反論をして、一時的に死刑は逃れるのだけれど、さあこれからが大変。なん てたって、王の前で王を演じなくてはならない。しかも思いっきり下品に。しかもこの王はほとんど笑った姿を見せることがないという。 みんな恐怖で演技どころではなくなってしまう。震えちゃってセリフさえまともに言えない状態で。

J/ ただひとつの救いは、王が宮女役のコンギルをひと目見て気に入ってしまったことだった。宮女役とはいえコンギルは、その辺の女性よりも 見た目が美しい。そう、これまでも土地土地の有力者たちがひと晩を我が物にしようと金を出し、慰みものにされてきたという人生を送って きた。王もまたその美しさと、必死の芸を見るにつけ心を和まし、いつしか笑いが止まらなくなってしまったのだね。

B/ コンギル役のイ・ジュンギは確かに美しいわね。私はじじい好みだから夢中にはならないけれど、日本でもこの映画で人気沸騰することは間 違いないと思うわ。

J/ 王は大層気に入って、彼らは死刑を間逃れただけではなく、宮廷に住み自分のために芝居を演じてほしいと懇願される。それで一転し て彼らは宮廷お抱えの芸人になってしまった。一見最高の結末になったような気がするのだけれども、ここからがいよいよ本当の苦悩が始 まるのだね。夜毎王に呼ばれ、王の前で芸をさせられるコンギル。王とチャンセンの間に挟まれ心が引き裂かれそうになるコンギル。

B/ 幼馴染でいつもコンギルのことを守ってきた相棒のチャンセンは、王に彼を奪われたような感じになってきてしまった。なんだか女を巡る 三角関係のような様相を見せてくるのね。元々コンギルとチャンセンの関係自体が単なる幼馴染とか芸人仲間という以上のエロチックな 雰囲気が漂っていたものね。はっきりとは見せてはいないのだけれど、そんな匂いがプンプンとしててね。それでさらには、宮女のノクス は、男のコンギルに王が夢中になってしまったために、のけ者扱いにされてしまって、嫉妬に狂う。ということで、まったくすごいことに なってくるわね。

J/ この映画の面白さはこうし立場の逆転、この人間関係の変化、王の変化。ここからどんどん王宮が崩壊していくところ。

B/ この映画の主役は、チャンセン、コンギルの芸人ふたりなのだけれども、この王の描写が画一的ではなくて、魅力があるわね。本当の主役 は王じゃないかとさえ思えてくるほどだった。もっとも監督は否定しているし、最後まで観てるとやっぱり主役はチャンセン、コンギルで あることは確かなのではあるのだけれど…。

J/ 単なる暴君というのじゃなくて、悲しい運命を背負ったたためにという描き方がされているね。何かと父親の前君と比較されて寵臣からも 信用されていないしね。父に対してはコンプレックスを持ち、また母の愛情を知らず、愛情にも飢えていて気の毒な面もある。王じゃなけ れば、こんな思いをしなくても良かったのにな。

B/ そうなのね。でも私はとても面白いことに気づいてしまったわ。どういうわけか歴史を見てみると、ダメな王にはある共通点があるのね。

J/ そうそう確かにそうなんだよね。

B/ 例えば王についた年齢。ローマ皇帝カリグラが24歳、同じくネロが16歳、バイエルン王ルートヴィヒが18歳、そしてヨンサングン がやはり18歳。若くして父親を亡くし、王に就いているのね。ローマ皇帝のふたりは幼いときに父を亡くしている。ルートヴィヒ、ヨン サングンにしても、まだ18歳という年齢では、父王の仕事を受け継ぐ心構えもないし、授けられなくてはならない父から子への智恵も まだまだ残っていたはずの歳だと思うのね。

J/ ただ優れた助言者がいれば、そのうちに王らしくなってくるはずなのだけれどもね。ローマの皇帝たちはその歳になる前にもうすでにアウ トになってしまったし、後者にはそういた人たちがどうもいなかった。

B/ それからどうしたわけか、彼らに共通することのもうひとつは、国の政(まつりごと)以上に、夢中になってしまうことがあるのね。

J/ カリグラは、確か『ベン・ハー』に出てくるあの戦車競争に熱中してしまって、自分専用の競技場を作ってしまったんだね。予算のことな んか眼中にないって感じで。

B/ ネロはもっと滑稽で、ギリシア文化に傾倒してしまって、あげくの果ては政務をほっぽらかして、みずから吟遊詩人になり、コンサートま でやってしまったのね。さらに言えば本家ギリシアの大会にまで出かけて優勝し、なんとローマでの凱旋式まで挙行してしまった。なんと もはや。

J/ ルートヴィヒもまたワーグナーに金をつぎ込み、役にたたない城(今では皮肉にも観光客をよぶための目玉ということで大いに貢献している )を次から次へと建設をしてしまってね、国家財政を破綻に近い状態にしてしまうんだな。ヨンサングンもまた、史実では馬好きが高じて、 乗馬場を建設したとか、自分の趣味のために、色々と国庫から投入していたとのことで。

B/ なんというか。夢想家というか、現実とはあまり向き合いたくない性向がどの王にもあるように思えてならないわね。

J/ 『王の男』で言えば、彼ら芸人たちが王宮の中に入ってこられたのも、ある意味ヨンサングンがそうした性向をもっていたことからとも言 えるよね。ご丁寧に芸人といっしょに自らも演じるシーンなんかあってね。『ルートヴィヒ』にもそんなシーンがあったことを思いだした よ。まあコンサートをやっちゃったネロにはご両人とも遠く及ばないけれど(笑)

B/ そう考えると、映画の製作者たちの頭の中には、そうした西洋の王たちの歴史が刻みこまれていたという節がどうもあるわね。これはあな がち、外れてはいないように思うわ。

J/ なぜヨンサングンはこんなにも歴史に汚点を残す存在になってしまったのか…なぜ現実とは向き合わず暴君となってしまったのか…どうも 映画を観ていると、除々にそんなことが浮かび上がってくる。

B/ まるで『ハムレット』のように芸人の芝居を通じて、宮廷内の陰謀が明らかになっていくにつれて、彼の哀しみといったものが浮かびあが ってくるのね。いつしか観客も彼が暴君といった以上の人間味溢れる、同情すべき人物といった風に見方が変わっていくようになるわね。

J/ 男たち三人の「愛の物語」、それが歴史を動かすことになるといった物語…発想としてとても面白いと思うね。それぞれの人物が、何か を代表しているわけだから。

B/ 哀しみを背負った王の気持ちも理解できた「王の男」コンギルは、民衆の代表とも言える存在の相棒チャンセンとの間に挟まれ、気持ち が右に左に動かされ、張り裂けそうになってしまう。さてこの三人の男たちの行く末は…あとは劇場に行ってお楽しみくださいね。

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