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第147回「コーラス」

ハリウッド・エンディング 製作…ジャック・ペラン
監督…クリストフ・バラティエ
脚本…クリストフ・バラティエ
撮影…カルロ・バリーニ(『グレート・ブルー』)
キャスト…ジェラール・ジュニョ、ジャン=バティスト・モニエ
フランソワ・ベルレアン、ジャック・ペラン

2004年仏(配給日本ヘラルド映画)/スコープサイズ/上映時間1時間37分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『コーラス』は、子供たちの歌声が売りになっている映画なのだけれども、子供たちが主役というよりも、ひとりの無名の先生が主役の映 画と言ってもいいかもしれない。

B/ 今は指揮者として活躍するジャック・ペランの元に母が亡くなったという知らせが届くのね。偶然その日に寄宿舎時代の旧友が訪ねてくる。 「何年ぶりの再開だろう」「もう50年経っているよ」どうして突然訪ねて来たか。実は先生の日記が残っていて、それをぜひ読んでほし いという。その日記を読むというところから映画が始まるね。

J/ 先生が見た生徒たちの姿…それは先生を通して自分たちの姿を振り返ることに他ならない。今は指揮者として活躍する彼。先生が自分たちに 何をしてくれていたのか。当時はきっと気づかなかった事もあるかもしれない。そこで改めて、少年時代の貴重な体験がいかに自分にとって 大切なものだったかが、偲ばれる。

B/ このあたり、ジャック・ペランが演じているということもあって、どうしても『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出してしまうのね。 自分の師が残したものがフィルムじゃなくて、日記だったという違いがあるにしてもね。

J/ 舞台は1949年のフランスのとある寄宿学校。戦争で両親を亡くしてしまった子や、親の事情で預けられている子。様々な境遇の子供たち が生活している。校長先生の教育方針は大変に厳しくて、イタズラをすれば、懲罰房に入れられるし、外に出してもらえることもなく、ま るで収容所のような生活を送っている。

B/ 両親が会いにきてくれない子がいたり、両親が死んでしまっているというのに、毎日門のところで訪ねてくるのを待ち続けている小さな男 の子がいたり、子供たちはどこかつらい境遇を背負っていたりする。狭いところで閉じ込められて、自由もなく、寂しさのはけぐちとして、 イタズラをしたり暴れたりね。

J/ それに手を焼く校長といえば、それに対して、厳しく折檻するだけ。「犯人」がわからないときには、名乗りを上げない限り、くじ引きで 罪のない誰がが身代わりにされる。これではすさんでいくだけだよね。

B/ そんなとき、1人の音楽の先生がやってきたのね。さっそく子供たちにからかわれる。「ハゲー」って(笑)ずんぐりむっくりとしていて、 一見冴えなさそうなこの先生は、音楽への情熱を内に秘めている人だった。そしてとても優しかった。さびしさをいたずらで紛らわしてい る子供たちの気持ちをすぐ見てとり、彼らを叱るかわりに、歌を教えてくれた。

J/ この先生の優しさは、コーラスに全員参加させること。歌のダメな子には、楽譜を持たせ譜面台の役割を課し、小さな男の子は自分の隣の 机の上に座らせ、歌わなくともそこに参加させること。

B/ コーラス自体、バリトンがいたり、バスがいたり、ソプラノがいたり個人個人の声の個性から成り立つもの。そうこの先生はコーラスを通 じて、子供たちひとりひとりの個性を大切にしたのね。だからこそ、手を焼いていた子供たちが、先生になついていったのね。

J/ ひとりだけ、天性の素質を持った子がいた。けれどもその子ピエールは学校一の問題児でもあった。天性のものがあるだけに、人一倍繊細 で個性豊かであるということを見抜いた先生は決してこの子を甘やかさず、それでいてこの子が離れて暮らす母親のことが恋しくてしよう がないことを知れば、母親にだけは、懲罰を受けていて面会日に会えなかったことを隠してあげたりと、優しさを見せたりして、時間をか けて、信頼を勝ち取っていった。

B/ この映画のいいところは、子供たちがだからといって、みんないい子になるわけではないところなのね。外から入ってきた問題児は、最後 まで先生になつくことはないし、その問題児の子に感化されて、フラフラする弱い子がいたり、ピエールまでもが、悪いフリをしたりと、 一筋縄ではいかない。

J/ 先生の力をもってしても、その問題児の子だけはどうにもすることができなかった。ただひとこと「あの子だって貴重なバリトンなのに」 というのがせいいっぱいだった。性格的にも問題がある上に、あまりにも深く傷つきすぎているこの子。コーラスごときでは、どうにも ならないということを見せるあたりが、ハリウッド映画とはやっぱり違うところかもしれないね。

B/ 先生といえども決して聖人ではないのね。生徒のお母さんに仄かな恋心を抱いてしまって、それを感じた子供を嫉妬させてみたり。人間味 に溢れているところがとてもいいわね。

J/ 結局この先生は、本当は音楽で成功することを夢見ていた。けれども芽が出ず、音楽の先生をするのがせいいっぱいだった。きっと個性的 であるがゆえに、一般の学校でもうまく行かずに、この寄宿舎に流れついてきたのかもしれない。そんな力のないひとりの人間が、子供た ちに勇気を教え、愛情とはどんなものであるかを教え、またさらに才能のある者にはそれを伸ばしてあげることをした。

B/ 哀しいかな、最後まで師となってその子を世に送り出すまでの力はない。けれど、そのきっかけだけでも作れるということがどんなにすご いことか。偉大な指揮者の恩師ですと、紹介されることさえないのだけれども、彼は確実に子供たちを幸せにして、そのことで自分も幸せ になった。

J/ 一方、学校の校長先生。彼も実は、この音楽の先生とある意味同じ種類の人なのかもしれない。才能もほどほどしかなく、しかし夢だけは 持っている。けれども校長は身の丈以上のものを欲しているんだね。だから子供にはまったく愛情がない。子供たちを押さえつけることに よって、問題が起きないようにしているだけ。大過なく過ごすことは、自分の出世にもつながる。ここの仕事はそのステップのひとつに過 ぎない。そんな風に考えている人なんだな。

B/ 音楽の先生がそんな自分を押し隠し、子供に対して自分ができるせいいっぱいのものを与えていた のと対照的なのね。

J/ 自分というものを見極めた生き方というのは難しい。実際世の中にはこの映画の校長先生のような人も多いと思う。音楽の先生のような生 き方ができる人のほうが少ないのではないのかな。だからこそ、彼の生き方に感動してしまうし、それに応えられた少年たちの姿にも拍手 を送りたくなってしまう。

B/ ほどほどの才能でも、こんな立派な生き方もできることに頭が下がってしまうのね。

J/ 人から見たら平凡な人生なのかもしれないけれども、いかにこの人生が尊いか。こんな無名の人たちが、世の中にはどれだけいるのか。 この映画はそんな無名の偉人たちへの賛歌なのかもしれないね。

B/ こういう貴重な人との出会いがどれだけ人生を豊かなものにするか。この映画を観て自分の子供時代に思いを馳せた人も結構いるのじゃ ないかしら。無名の偉人たちは案外その辺にいるのかもしれないわね。数は少ないにしてもね。

J/ この映画の監督クリストフ・バラティエはこの映画が長編第一作。脚本も自分で書いている。もちろんオリジナルのストーリー。新人らし からぬ、落ち着きがある。そう思ったら、自分もかつて両親が離婚して、こんな寄宿舎で暮らし、コーラスをやった経験があるっていうん だね。自分のよく知っている世界だからこその真実味があったのかもしれないね。

B/ けれども、自分の知っている世界、思い入れのある世界だからこそ力が入りすぎるということもあるから、それにしたら、特別力むことも なく、比較的淡々と描いたこと立派だと思ったわ。なんの欲もなく、ただただ自分の恩師への感謝の念で映画を作ったのじゃないかしら。 そんな思いが映画から伝わってくるので、こんなにも感動できるのかもしれないわね。

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