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第146回「大いなる休暇」

ハリウッド・エンディング 製作…ロジェ・フラピエ、リュック・ヴァンダル
監督…ジャン=フランソワ・プリオ
脚本…ケン・スコット
撮影…アレン・スミス 
キャスト…レイモン・ブシャール、デヴィッド・ブータン
ブノワ・ブリエール、ピエール・コラン 

2003年カナダ(配給クレストインターナショナル他)/上映時間1時間50分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 「スローライフも楽じゃない」というキャッチ・コピーの映画。予告編を観る限り、カナダの貧しい漁村のホラ話。『ウエイクアップ・ネ ッド』のような、はたまた『ローカル・ヒーロー』のような映画を想像していたら、微妙に違っているのが面白かった。

B/ 冒頭からして、どこか人を食ったようなところがあるのね。島の活力は、夫婦のそれぞれの家の夜のお勤めにありみたいなね。いっせいに ハーハー言って、タバコをすって、煙突から煙が出て、これが健全な村の姿だ。今は夢の中に出てくるだけで、もうこんな世界は失われて しまったなんてね。

J/ おやっ、この映画はなんか違うぞってここで思ったね。この映画の脚本家はコメディアン出身ということで、なるほど皮肉な笑いのセンスがあ る。

B/ 人口が120人弱、魚は捕れなくなり、村人の大半が生活保護に頼らざるを得ないような村。諦めて村長さんまでが夜逃げ同然に出て行って しまうような過疎の村。なんとか工場の誘致をして、みんなで仕事に就こうという目標があるのだけれど、それにはお医者さんがいることが 絶対条件になっているのね。

J/ じゃ、本土がお医者さんを連れてこようっていうんで、色々と手を尽くすのだけれど、こんな寂しい島に来るわけがない。偶然この村から 本土に渡り、警察官をやっている男が、お医者さんを捕まえる。ドラッグを持っていたことから、見逃してやる代わりに一ヶ月でいいから 、島に渡ってくれと取引をしてやっと連れてきた。

B/ 決して綺麗ごとじゃないよね。

J/ この一ヶ月の間に島への定住を決意させよう。彼にこの島を気に入ってもらおう。そのためにこの島がいかに素晴らしいかということを アピールしよう。でも、村人までもが逃げ出すような島を都会のまだ若いお医者さんが、そのままの島の姿を見せたのじゃ気に入るわけが ない。島民たちは一致団結、みんなで大芝居を打つ。

B/ 汚れた建物をきちんと修繕し、彼がクリケットが好きだということを知れば、この島ではクリケットがさかんであることを見てもらうため に、ルールもわからないのに、ユニフォームを作り、海岸近くの荒地にラインまでそれらしく引き、ゲームをしているように見せかけたり。 どうしても汚くて修繕の施しようのない家があれば、重要文化財って看板を立てて凌ごうという、大胆さ(笑)

J/ 田舎は人情があって、人間らしい暮らしがあって、自然も豊かで、都会から言えばうらやましいようなのんびりとした暮らしがあるという のが、こういう映画の定番なのだけれども、すべて嘘で塗り固めることによってそういう世界に見せかけているというところが、この映画 の面白さなのだよね。なにかそういう類の映画を逆手にとったような面白さがあるね。

B/ それにしても彼らのやっていることは、ほとんど犯罪に近い。お医者さんの住んでいる家には盗聴器は仕掛けるはなんやらで、彼が電話で 恋人とした他愛もない猥談が、翌日には村人全体に広まっていて、流行言葉になっていたり。

J/ 彼が、父親を探しているって言えば、じゃぁ誰か彼の父親を探して来いとかいうのなら人情話になってくるところなのだけれども、そう ではなくて、「いや実は私にも息子がいたのだが、もし生きていればあなた位の歳になっているのだが…」と嘘をついて、彼をホロリとさ せたり、相当にワルなんだ。

B/ 冷凍にしていた魚を彼の釣針につけて、魚を釣らせるなんて嘘はまだ可愛いほうなのね。

J/ 「この魚やけに冷たいのだけれど」と不審がる彼に「いやぁ、深海にいた魚は冷たいんだ」なんて嘘をついて。またそれを信じる彼も相当 に間抜けなキャラなのだけれども、彼は元来だまされやすい、お人好しの人間なのかもしれないね。

B/ それはまた後から証明されることになるのだけれどもね。それにしても私はそんな彼だから、途中からむしろ可愛そうになってきてしま ったわ。

J/ 確かに彼のハートは掴んでいくのだけれども、まったく、ここまで大嘘をついてしまってこの後どうやって落とし前をつけるのだろうって 不安になってきてしまうんだよね。いくら目的のためとはいえね。嘘をつけば、つくほどこの人たちは誇りを持つ持たないどころか、ます ますひどいことになっていくからね。

B/ 『ウエイクアップ・ネッド』の大嘘は金目当てで、人間の浅ましい物欲が垣間見れて、それがたまらなく可笑しかったのだけれども、こち らの映画の嘘の目的はそこまであからさまなものじゃないのだけれども、それにも関わらず笑ってばかりいるわけにはいかないようなとこ ろがあるのね。

J/ なんでかね。

B/ それはなんでだろうって思ったら、『ウエイクアップ・ネッド』の嘘は子供っぽい他愛のない嘘で、人を絶対傷つけることのないものだった のに、こちらのほうは、嘘がバレたときに確実に彼を傷つける類の嘘までついているというところに違いがあるように思うのね。

J/ けれどもご心配なく、この映画最後にはきちっと落とし前をつけるからね。きっとみんなみんな素敵な人たちに見えてくるはずだよ。

B/ この島が、この村人たちがきっと好きになってくるはず…。彼らが嘘をついたのはお金だけの問題じゃないの。それはあくまで彼らが人間らしく、 誇りを持った生き方をしたいと願っているからなのね。

J/ なんでそこまでしなくてはならないのか…そこに実はこの映画の大いなるテーマが隠されていたんだね。

B/ 高齢化や失業の問題が潜んでいる島の生活。元々が勤勉な漁民たちだった人々が、生活保護を受ける生活にまでなってしまって、誇りさえ も失ってしまった。そんな状態でどうして生きていけばいいのか。そんなどこの国にでもあるような深刻な問題が、この映画の中に込めら れているのね。

J/ それをストレートに描くことなしに、一見スローライフは素晴らしい的な内容に見せかけておいて、問題を提起しているいうこの捻りが実 に面白いね。

B/ これはカナダはケベック州の映画。フランス人たちの子孫の香りがやっぱりどこか隠されているわね。とてもユニークな映画だった。

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