J/
ベルギーからまた個性的な監督の映画がやってきたね。今までほとんど観る機会のなかったベルギー映画なのだけれど、最近面白い映画が
きているね。
B/
手元の資料を見てみると、『八日目』『トト・ザ・ヒーロー』 (ジャコ・ヴァン・ドルマル監督)、『ぼくのバラ色の人生』(アラン・ベ
ルリネール監督)、『ロゼッタ』『息子のまなざし』(ダルデンヌ兄弟)、『エブリバディ・フェイマス!』(ドミニク・デリュデレ監督)
、『小便小憎の恋物語』(フランク・ヴァン・パッセル監督)そしてこれが長編デビュー作となる『ポーリーヌ』のリーフェン・デブロ
ーワー監督と。ここ4,5年の間にこれだけの映画が公開されているのねぇ。
J/
ベルギーと言えば、ポワロとチョコレートとワッフルくらいしか頭に浮かばなかった。フランス語圏なので、下手をすればフランスとごっち
ゃになるし、ベネルクス3国といえば、オランダばかりが目立ってしまうし、どちらかといえば地味ぃーな印象だっただけに、これだけの
映画が公開されていること自体が驚きだし、また次から次へと個性的な新人が現れているというのがすごいね。
B/
ベルギーの小さな街の4姉妹…なんかの本に『枯草物語』なんて出ていたけれど、これは言い得て妙(笑)…66歳のポーリーヌを中心に
した姉妹の物語りだものね。
J/
ポーリーヌは知的障害者、この妹を一番上の姉が面倒をみている。朝起こすところから始まって、朝食の仕度をして、パンにバターとジャ
ムを塗って食べさせる。靴の紐を結んでやる。彼女はこの姉の世話がなければ生きていけなくなっている。
B/
ところが、その姉がある日突然倒れて帰らぬ人になってしまうのね。遺産相続の問題も出てきて、住みなれた田舎風の家からもポーリーヌ
は出ていかなくてはならなくなってしまう。
J/
ところが、彼女は姉の死さえも「車に乗って行ってしまった」そんな感覚でしかとらえられない。
B/
ポーリーヌは自分の世界に生きているのね。彼女は花が大好き。赤やピンクのその色の美しさに見とれてウットリしてしまう。朝起きると、
花に水を遣るのが何よりも楽しみ。それからすぐ下の妹がやっている洋服店に行き、美しい花柄の包装紙を眺めるのが好き。華やかな色の
洋服を見ていると想像力がどんどん膨らんで、いつしか広いお屋敷の庭いっぱいの花に水を播き、また広いお花畑の真中に自分が立ってた
りするの。
J/
この花に水を遣るシーンがちょっと幻想的で綺麗だね。「花のワルツ」が流れてね。お屋敷の庭の花壇には、ドワーフの置物がしっかりと
小鹿を抱いて鎮座していたりする。まるでおとぎ話の世界のようだね。画面から色が溢れ出してくるんだな。
B/
ふたりの妹には自分の生活がある。さてこの不憫な姉をどうしようかという話に自然になってしまう。本人のほうは妹の洋服店に行きたくて
しようがないのね。しっかりものの姉がいた時でさえ、彼女はすぐ下の妹ポーレットのことが好きで好きでしようがなかった。でもそれも
わかるのね。ポーレットのお店も彼女の部屋も色で溢れているから。特にベッド・ルームはまさにメルヘンの世界で、ピンク一色。実はこ
の姉妹、向かう方向は違うとはいえ、共通する感性を持っているのがわかるのね。
J/
一番下の妹はそんな姉たちを置いてとっとと都会に出てアパルトメン暮らし。違いがはっきりと出ている。ポーリーヌはそんな妹を妹と
認識しないのか、お葬式の際にも「あらっ誰かが来たわよ」なんて全然無関心でね。興味のないことにはまったく関心が向かない。こう
いう人特有なんだね。
B/
誰がポーリーヌを引き取るか…下の妹はこんなに慕っているのだから、姉さんのところに行くのがいいと思っているし、ポーレットは彼女
を施設に入れればいいと思っている…ところがふたりが揉めることをしっかり者の姉はもう予想していたのね。ちゃんと遺言を残してあ
った。
J/
一見、メルヘン調の画面で進んできて、この姉の死からこの映画は段々厳しくなってくるね。誰もが歳を取るし、病気の身内を抱えるな
んてことも起こりうること。決してこの映画、劇的ではないのだけれども、さりげない描写の積み重ねでそれが染みてくるね。
B/
これね、『東京物語』といっしょなの。ベルギーだから『ブリュッセル物語』になるのかな。姉妹それぞれに自分の生活がある。ポーレッ
トは、自分の老後の夢を持っているのね。店をたたんで海を臨むリゾート地にアパートを買い悠悠自適に住むこと。イギリスで言えば、
ブライトンみたいなところ。日本でいえば葉山みたいなところかしら。
J/
自分で靴紐も結ぶことさえできないポーリーヌ、自分でバターをパンに塗ることさえできないポーリーヌ。けれどもポーレットはなんとか
やっていけないか努力はしてみるんだね。少しでも彼女を自立させようと。
B/
今まで一番上のお姉さんが何もかもやっていたのだけれども、教えてみたら自分でパンにバターを塗ることくらいできるのね。留守番も
務まるし、なんとかなるのかなぁって思っていたたのだけれど、やっぱりどうしてもダメだった。自分が永年大切にしてきたオペラの
舞台を台無しにされてしまった…それでもうどうにもできないってことになってしまう。遺産を別けてもらえる条件がポーリーヌの面倒
を見ることだったのだけれども、それを放棄してもってところまで追い詰められちゃう。
J/
一番下の妹のところに行っても、狭いアパートに妹の恋人といっしょに生活することになってうまくいかないね。彼女は彼女なりに一所
懸命に姉の世話をするのだけれども、そうすれば恋人との仲がしっくりこなくなってくる。
B/
ブリュッセルの「花の祭典」にポーリーヌを連れていったりね。オルゴールを買ってやったりせいいっぱいやっているのだけれどもねぇ。
もしかしたら、永年家族を顧みてこなかったその負い目の意識もあったのかもしれないけれど。
J/
姉妹それぞれポーリーヌにまるっきり愛情がないわけじゃないと思うのだけれど、自分の生活があるからなかなか難しいもんなのだね
B/
自己中と言ってしまえばそれまでなのだけれど、彼女たちを見てそこまでは言いきれないのね。自分の家庭なり生活様式が出来上がってし
まうと、なかなかそれを崩せない。わかるのよねぇ。
インターミッション…(ふたりのつぶやき)
この映画の観客はさすがに年配の方も多かったね
最近は映画館に行くと若者ばかりか、年配の方が多いかどちらかみたい
我々中間層は本当に姿をみかけない
人生で一番暇がない時期なのかしらね
本当はまた若いときとは違った風に映画が観れてきて、ますます映画が面白くなるときでもあると思うのだけれどな
今のうちこんな映画もたまに観て、たまには自分のこれからのことも考えなくては
いやいやまだまだ若いつもりです(^^;
それでは後編です…。ここからはまだ未見の方はネタバレになりますので、ご注意くださいね。
|
J/
さて映画の後半念願かなって海を臨む高層アパートの狭い部屋に越したポーレットなのだけれども、ここからがなんか侘しいね。
きっと、夏にはあのテラス・レストランやカフェも多くの人で賑わうことなのだろうけれど、引越した時期が悪過ぎた。空には雲が重く
立ちこめた冬の季節。とにかく一転して色のない世界になっちゃうんだ。
B/
彼女の元の生活がお店でも、オペラの劇場でも、自分の部屋でも常に色が溢れる世界だっただけにね。
J/
最後のオペラ公演での他の劇団員がなぜか彼女に冷たくてね。結局、お店があり、舞台があるから彼女はいつも人に囲まれていただけで、
一旦それをやめてしまえば、誰も彼女のほうに振り向いて来ない。それがわかった時の寂しいこと。そして新天地でも友人たちらしきものが
出来るのだけれども、会話がかみあっていない。本当にひとりぼっちになっちゃうんだ。
B/
かつては華やかな部屋にあった三姉妹の陶器の人形が、今では寒そうな壁を背景にして、それだけがまるで過去の良き日をしのばせるかの
ようにポツンと置かれているのね。彼女は自分の若い頃、そして若い頃の姉妹たちを連想したのかしら。
J/
このポーレットを演じた女優さんがとってもいいんだな。いかにもオペラ向きという具合に太っていて、顔だちも服装も派手で、元々社交
性もありそうに見える。そんな彼女だから寂しさがかえってにじみ出てくるんだ。
B/
元々住んでいた一見平和だった村。ところがお肉屋さんへ行っても、またポーレットのお店にくるお客さんにもちくりと意地悪なひとことを
言われていたポーリーヌ。(この辺がこの映画の一筋縄ではいかないところでもあるのだけれど)その彼女がいやがっていた施設のほうに
結局入れられてしまうのだけれども、意外や意外そこで早くもお友達を見つけて、結構うまくやっているのね。
J/
「花」が好き…ああいう人たちは純粋なんでもうそれだけで友達になれちゃったりするんだね。それにひきかえ、全然自分とは出自の違う
人たちが住むリゾート地へと越した妹のポーレット。一見上手にお付き合いをしているようでいて、それはまったく表面的で冷たいなにが
漂い、そしてどんどん侘しくなってしまうこととの対比。なんだかとっても皮肉でね。
B/
ポーリーヌが送ってきた彼女自身の手による花の絵。自分の家に集まってきた隣人たちのうちのひとりが「これは何かしら」って興味をひ
いたようなふりをするのだけれどもいざ彼女がその話をしようとすると、別の話題に言ってしまって、寂しい思いをする。レストランで食
事をしていてもなんかポーリーヌのことを思い出してしまい、ひとり思い出し笑いをしてしまう。
J/
花のない生活、色のない生活…それが彼女の孤独をいっそう際だたせているんだね。「花」とはポーリーヌのこと。もはやポーリーーヌが
ポーレットを必要としているのではなくて、ポーレットがポーリーヌを必要としてしまっている。この逆転。
B/
ふたりがまた一緒に住む。あの寒そうな海岸のプロムナードのベンチに座る二人の姉妹。ポーリーヌが大切にしているアルバムの中の花の
切手(仲良くなった施設の別の障害者から貰ったもの)が風に舞う。低い空にはかもめが舞い、それを嬉しそうに眺めるポーリーヌ。
そしてベンチの端っこに特に嬉しそうな顔をするわけでもなく、ただ座っているポーレット。このラスト・シーンの余韻。
J/
ポーリーヌはもう妹とまた暮らせるっていうんでもう嬉しくてしようがない。でも「その後ふたりは仲良く暮らしましたとさ」とはなって
いないあのラスト・シーンね。これからうどうなるのだろうって余韻があるね。
B/
あとは観客自身がお話を埋めるってことなのね。埋めるっていうのはもちろん今度は自分自身の問題としてもね。介護や老後のあり方などなど私たち
誰もが切実な問題をね。そのあたりとても30代の監督が作った映画、しかもこれが長編デビュー作とは思えないところなのよね。なかなか
いい映画だったわね。
|