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第137回「復活」

復活 監督…パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ(『グッド・モーニング・バビロン』)
脚本…パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
撮影…フランコ・ディ・ジャーコモ(『サン★ロレンツォの夜』)
音楽…ニコラ・ピオヴァーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル』)
キャスト…ステファニア・ロッカ、ティモシー・ピーチ、マリナ・ヴラディ、


2001年伊・仏・独(配給アルシネテラン)/上映時間3時間7分


<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 上映時間3時間以上、『復活』は久しぶりの見応え充分の堂々たる長尺文芸映画だったね。

B/ 本当に最近はがっかりさせられるばかりだったからねぇ。『サハラに舞う羽根』は支離滅裂。『シベリアの理髪師』は監督の自己陶酔の 世界。『太陽の雫』は大味。『ドクトル・ジバゴ』のような映画がたまには観たいという思いがあったわよね。

J/ ファースト・シーンからして素晴らしくいいね。一羽の蝶が薄暗い留置場にヒラヒラ入って行く。色のない世界に映える鮮やかな色の大き な蝶。大勢の女と子供たちが息苦しいコンクリートの壁の中に閉じ込められている。子供がそれを見つけると、大人たちも目を輝かせ、つ かまえようと走りよる。その中でひとりの女が見向きもせず煙草を吸っている。

B/ 煙草の煙で蝶が逃げちゃうのね。なんと心の乾いた女か。一体彼女にはなにがあったのだろうというところから始まっていくのね。

J/ 普通、ロシアが舞台の映画でイタリア語しゃべってたら、白けちゃったりするのだけれど、この出だしにもう引き込まれてしまってまった く気にならなかった。いかにこの映画がいいか。

B/ この映画のいいのは心理描写がとにかく細やかなところ。カチューシャ役の女優さんがすごくいいわね。知性的で繊細で。

J/ ステファニア・ロッカ…あんまり知らない女優さんだけれどもね。『ニルヴァーナ』のヒロインをやっていたらしい。

B/ 一方、ネフリュードフ、彼は貴族のお坊ちゃん。貴族でありながら学校の論文のために「小作人たち」を取材している。そんなところを みてもわかる通り理想家肌で夢想家の青臭いやつなのね。

J/ ショパンにはこんな曲もあるよって…ポーランド革命軍がロシアに鎮圧されたショックを胸に書かれた「革命」をよりによってピアノで弾 くような無神経な男。自分は鎮圧したロシア側のしかも貴族なのにね。その曲調の激しさに酔っているけれど、中身の本当の意味には気づ いていない…そんなところがあるね。

B/ カチューシャとネフリュードフふたりの最初のひと夏の恋は純粋なある意味幼い恋だったとも言えるかもね。だから召使と貴族という身分 の違いも関係がなかったのね。でも微妙な食い違いはこの時すでに見えている。彼の論文を「私はこの生活を失いたくない」と言って切り 捨てたカチューシャ。ここに彼女の現実志向が見える。

J/ 3年後、「復活祭の日」に彼らは再開し結ばれる。今では卒業し軍服を着ているネフリュードフ。彼は学生時代に書いた論文を暖炉にくべ たことからもわかる通りもはや昔の彼ではない。自分の階級の世界にどっぷりとつかっていることがわかる。この時もう悲劇は見えていた んだね。再開を喜びながらも彼女はそれが不安だった。だから彼を最初は拒むのだけれど、あのひと夏の思い出は忘れがたい。どこか希望 にすがるようなところがあったんだね。馬車に向かう彼が思いなおしたように彼女の元にもどってきた。あの時の彼女の嬉しそうな顔。 ところが彼はなんと彼女にお金を握らしてしまう。

B/ 最低のやつ!彼にとってはあの情熱を傾けた論文も彼女との恋も、同じレベルのものでしかなかったというわけね。

J/ これからの人生を歩むために、過去はここで捨ててしまおうっていうわけだね。

B/ なんかムカムカしてきたわ。それにしてもこういう話って…イギリス映画の『サマー・ストーリー』もそんなんだったわね。田舎の素朴な 女の子に恋をして「迎えに来る」という約束をしておきながら、自分の属する階級の社会に戻った途端、なんだか彼女のことが恥ずかしく なってきちゃって、自分の中で都合のいい言い訳を見付けながら、結局すっぽかしてしまうというやつ。

J/ 未練はあるけれども、自分を偽ってしまう。ただ『サマー・ストーリー』では煮え切らない態度をずっと引きずっていたけれど、ネフリュ ードフの場合にはそんな未練を断ち切るためにわざわざあんな暴挙をしてしまったんだろうね。どちらが罪深いとも言えないけれどもね。 結果は悲惨このうえないのだから。

B/ 一体あの後、彼女がどうなってしまうと考えたのだろう。でもそんな意識はこれっぽっちも持っていないわね。数年後、陪審員になるため に朝仕度をする彼。召使が着ていくものをひとつずつ丁寧に選んでいる。シャツはこれ。タイはこれという風に。高級そうな衣類がどれも 替えを取り揃えてあるという贅沢。そんな生活に溺れ、なんの目標もなく惰性で生きている彼。そんな彼にはそんな想像力が働くはずもな いわね。

J/ こんな生活をしているのに、あんな論文をかつて書いていたというギャップ。それだからこそ彼女の法廷での変貌ぶりに愕然とするわけだ。 誰だって愕然とはすることだけれども、彼がその事実にあそこまでとり付かれてしまうのは、彼がいかに現実が見えていなかったというこ との現れだと思うんだな。

B/ それでもこの時点での彼は、まだ自分の世界の中に安住したまま何かをしようとしているのね。自分の過去は人に知られたくない。だから 陪審員としてきっちり意見を述べることはしないで、判事に裏から工作しようするのね。もしここで判決が彼女にとって有利なものになった としたら、彼は私財を投げ打ってまで、彼女を援助しようとしたのかしら。自分の出きることだけをやって自己満足してたのではないかし ら。自分に酔ってしまうタイプの人間だからね。そんな疑問が残るわ。

J/ 彼女を助けたいということの中に、最初から自分がその罪から逃れて安心したいという気持ちが入っている。だから彼の行動は多分にひと りよがりになっているんだね。

B/ 彼女にはそれがわかるし、あれだけのことをされたうえに今さらそんなことの出汁にされたくないわっていうのがあって、「すべてを賭け て救ってあげる」という彼の申し出を最初はうっとうしく思う。彼にはそれがなぜかさえ最初はわからない始末。

J/ それでも彼は、いつかわかってもらえる。許してもらえることを願って、次第に現実に飛びこんでいこうとしはじめる。でも彼にとって困 ったことには、深入りすればするほど、罪の意識が軽くなるのではなくて、重くなる一方なんだな。非現実的な世界で生きてきた男がいき なり、厳しい現実の中を旅し始めるのだから無理もない。

B/ 自分の小作農の家に上がりこめば、地主のお坊ちゃんが来たってそりゃみんな大歓迎を装うけれども実は迷惑な顔をしている。その昔学生 時代には、自分は何かとってもいいことをしているに違いないという思いあがりがあったのね。自分は他の人間と違って、身分の低い人に も理解があるんだって自分で酔っていた。でもさすがに今度は色々な経験をして、その皮肉な空気を感じ取っていたのね。

J/ 今まで無縁だった人種、危険をかえりみず活動している人間とかと接するようになったからね。彼女を助けたい一心で。自分が安全なとこ ろにいては人の心はとらえられないことを彼女の拒絶から学んだんだな。

B/ それで学生時代の夢を実行するのね。彼らに自分の土地を分配しようとする。きっと彼らは喜び「感謝してくるに違いない」でもそんな 彼の思いはまったくの幻想に過ぎなかった。小作人たちはとまどうばかり。一体彼は何を考えているのだろう。騙されているのじゃないか。 土地をくれるったって色々な手続きのことなんかわからないし、サインしろって言われたって字も書けないのにどうしろっていうんだとか。 土地を管理するなんてとてもできない。かえって迷惑な顔をされてしまうのね。

J/ この意識の落差。小作人たちは学校もろくすぽ出ず、読み書きもできない。富める者と貧しい者。この落差がやがてロシア革命になってい くのだろうなっていう歴史をも垣間見れたような気がした。しかし彼にとってはショックだったろうね。さっき深入りすればするほど罪の 意識が重くなるって言ったのは、こういったことなんだよ。

B/ 歴史を直接描いているわけではないのに、上流社会から革命家、小作農に至るまで彼の心旅と共に、歴史が見えてくる。例えば『桜の園』の ラネーフスカヤの姿がラスプーチンのような怪僧の説教に涙を流す人たちの中にある。そこに没落していく上流階級の人々の未来も見えてく るのね。『シベリアの理髪師』とは違うなって(笑)

J/ 彼は自分と同じ上流階級の人々の偽善も実感したね。一瞬だけグラグラと来てしまった判事の奥さんとの交流。「私って上流社会に はなじめないの」自分と同じ種類の人間?一瞬そう思った。ところが観劇をしている彼女を見て、所詮上流階級の人の一員であることに 気づく。カチューシャと現実の世界を生きる彼にとってお芝居の内容は絶えがたいものだった。何にもわかっていないくせにそれに涙する 彼らの偽善。彼らの贖罪の涙って一体何なのだろうか。疑問を感じざるを得なかった。

B/ そこまで真剣になっていったネフリュードフ。彼が本気であることがわかってきてカチューシャは心を動かされるようになる。彼女の顔が 変わってくるのね。厳しい環境の留置場から彼の努力で子供たちがいる病棟のほうに移された彼女。彼が差入れてくれた昔の記念写真を うっとりと見れるまでに心が回復してくるのね。彼に淡い希望のようなものを見出し始めていたかもしれないわね。

J/ このあたりの変化…荒れ果てていた顔つきだった彼女の顔が昔のように知的で穏やかで優しさに溢れた感じに変わっていくところステファ ニア・ロッカの演技がいいね。


インターミッション…(ふたりのつぶやき)
最近の映画って3時間以上の大作でもインターミッションが入らないのよね。
特に女性は、水分を気にしたりしなきゃならないから大変だよね。
入れると上映回数が減っちゃうとか、そういた事情もあるんでしょうけれど
昔出来ていたことが今出来ないはずはないと思うのだけれどもな。
『1900年』なんて5時間もあるから今公開したら、6割方の人は途中おトイレ立つかも。
なんとかしてください!

それでは後編です…。ここからはまだ未見の方はネタバレになりますので、ご注意くださいね。


B/ でも、現実はそれを許してくれなかったわね。昔の写真の思い出に浸っていた丁度そのとき、所内の男に襲われてしまう。それで現実に引 き戻されてしまうのね。もう過ぎてしまった過去は消せないこと。ネフリュードフの愛は彼の罪の意識から出ていることで、所詮生きてい る世界が違う人間であることをね。プロポーズを受けてもいっしょには生きていけないと。

J/ タヴィアーニ兄弟の語り口のうまいところは、これと並行してネフリュードフが、判事の奥さんに心惹かれるシーンが描かれているところ なんだ。彼もまた自分が元の上流社会には戻れないことをこのとき自覚しているんだね。それでますます彼女との結婚だけが自分の生きる 道であると思いつめていってしまう。

B/ そうそう。ふたりの交叉線が徐々に近づいてきていながら、このシーンで交わることなく離れていってしまうのが予感させられるのね。ふた りの気持ちが近づけば近づくほど、線は交わるどころか離れていってしまう。メロドラマの真髄ここにありね。

J/ 結局、ネフリュードフのひたむきな努力にも関わらず、カチューシャはシベリアに流刑になってしまう。それも皮肉なことに彼を破滅させ たくないっていう友人の親切心が仇になってね。ネフリュードフとしては、彼女と結婚して、自分の財産をほとんどすべて手放して唯一残 しておいたふたりの思い出の屋敷で静かに過ごそうと考えていたのかもしれないけれど、彼らの社会からすれば、それは身の破滅に過ぎな いという皮肉。社会的にもふたりの結婚は許されざるものだったんだね。

B/ カチューシャにはそれがわかっていた。彼といっしょになりたくてもそれは自分にとってもネフリュードフにとってもつらいものになるこ とをね。彼女はもうただ彼をこの重荷から解放してあげること。そのことを考えていたのね。だからシベリアの旅の中で出会った政治犯の 男シモンソンと慌てて結婚式を挙げてしまったのね。

J/ シモンソンはどん底を味わっている人の痛みがわかる人間だから、彼となら自分も生きていけると思ったのだろうね。

B/ 途中囚人たちからまた彼女は襲われるのだけれど、そのときまたもや身を呈して助けてくれたネフリュードフ。傷つき眠っている彼の姿を 見ている愛しくて愛しくて仕方がなくなってくるのだけれども、いやいやだからこそ彼とはいっしょにはなれない。この事件でかえって彼 女は自分の意志を固められたのじゃないかしら。

J/ けれどもネフリュードフはシベリアへの旅、ついにこまで付いてきてもなお、夢想家でありつづけたのだね。自分の育ちまではやはり変え られない。現実を理解することはできず、彼女の思いも伝わることがなかったんだな。彼女がなぜ自分から離れていってしまうのかが理解 できない。彼女からもう充分に許されていても、彼にはそうとは感じられなかったのかもしれない。なぜなら彼は彼女と結婚することに よってのみこの贖罪の旅は完結すると思っていたからね。

B/ 実はそうではないのね。あれだけ彼女に尽くしたのだからもう贖罪はされているのね。ただ彼にはもう戻る場所もないのね。彼はこのとき 自分の居場所として彼女との結婚がどうしても必要だったのかもしれないわね。自分ではおそらく自覚していないと思うけれども。彼女の ためにやってきたこと、結局はここまでしても最後は自分のためになっているところが、この男の愚かさでもあり、罪深さなのかもしれな いわね。

J/ この映画のラストは新世紀の到来を祝うニュー・イヤーズ・パーティー。庶民の素朴な願い。「来年は牛が一頭欲しい」「来年はいい人が 見つかるといいな」そんな思いをめいめいが告白する場でネフリュードフはひとり所在なげに立ちつくしている。あなたも何か望みをいい なさいよってせっつかれてただひとこと「カチューシャといっしょになりたい」希望のないこの望み。彼が犯したたったひとつの罪、相手 に許されたことでも決して消えてなくなるものではない。過去は決して消えてはくれないのだなという重さが印象に残ったな。

B/ 庶民のパーティーの中に混ざったみすぼらしいネフリュードフは、そこでもなお、いまだ上流階級の人に違いないのね。これはある意味、 ふたりの社会的立場の違いから始まった悲劇なのね。貧困と富み、社会的差別、政治の腐敗や人々の偽善、19世紀の終わりに彼ら庶民が 願ったことなどなど。20世紀を過ぎ21世紀に代わった今もなお、変わることはない。この悲劇の物語りがこんにちにも通用するのは、 実はそんなところにもあるのじゃないかしら。そんなことを感じさせるニュー・イヤーズ・パーティーなのね。

J/ それにしても、これほどの風格のあるメロドラマは本当に久しぶりに観たね。すっかり僕は満足だった。

B/ 単なるメロドラマじゃなしに奥が深いのよね。心理描写にはこちらが重苦しくなってくるくらい神経を使っているし、ひとつの時代のドラ マとしても見応えがあるのね。長い映画なのでそうそうは観れないけれども、観るたびにまた新たな発見があるような種類の映画なのね。 私にはこの映画今年のベストのひとつになりそうだわ。

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