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第123回「アザーズ」

蝶の舌 製作…トム・クルーズ他
監督…アレハンドロ・アナメーバル
脚本…アレハンドロ・アナメーバル
撮影…ハビエル・アギーレサロベ
音楽…アレハンドロ・アナメーバル
キャスト…ニコール・キッドマン、フィオヌラ・フラナガン
クリストファー・エルクストン、アラキナ・マン


2001年米・仏・スペイン映画(配給ギャガ・ヒューマックス他)/上映時間1時間44分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ まず、このSFX全盛のこの時代に、こんなにもシンプルで、仕掛けだけで恐怖を盛り上げる映画が出てきたっていうことが、とても興味 深いね。

B/ ワッと突然何か怖いものが出てきて、驚かせる怖さというのもあるけれど、そうじゃなくて怖がらせるというのは、人間の深層心理の部分 に訴えかけるものがなくてはいけないから、簡単なようで意外と難しい。テクニックがなければ、できないことよね。

J/ 時代に逆行するかのように、そこに敢えて挑んだところがとっても嬉しいな。

B/ 舞台設定がまず、いいわねー。イギリスのチャネル諸島の小さい島ジャージー島、イギリスといっても、限りなくフランスのノルマンディー に近いところにあるから、時代に取り残されたという感じがよく出ているわね。時代が1945年だから、あの閉ざされた雰囲気はこんな 島でもないと成り立たないしね。

J/ すぐ近くでは、ノルマンディー上陸作戦で激しい戦闘が行われている。またこの島は作戦前ナチが包囲網をしいていたのだけれど、作戦遂 行の前段階で歴史的な役割を果たしている。恐らく戦争にいったまま帰ってこない夫というのも、この作戦に参加したように思えるね。 この時代と場所の設定は、実は生と死が隣り合わせになっていた島というそんな意味合いもあるんじゃなかろうか。

B/ よく、ゴシック・ホラーという言葉が使われるのだけれど、この映画はそうした条件のすべてを満たしているように思うわね。ヴィクトリ ア朝の大きな屋敷、しかもご丁寧なことに、その屋敷の子供たちは光アレルギーであるがために、カーテンがいつもひかれたままになって いて、いつも薄暗いときているのね。

J/ 『レベッカ』でも、亡くなったレベッカの寝室がいつもカーテンで閉じられていてというところが、謎めいた雰囲気を出していたのだけれ ど、この映画では家全体が閉じられているからね。それどころか厚い霧がこの屋敷一体に立ち込めていているし…。

B/ ますます世間と隔絶してしまっているのね。この辺が人間の奥底にある恐怖の心理をくすぐるのね。閉じ込められる恐怖。到るところに 暗闇があるという恐怖感。

J/ 部屋部屋には子供たちが間違って光を浴びないための配慮として鍵がかけられている。それがものすごい閉塞感がある。屋敷から使用人が 一辺に逃げ出してしまうのも無理がないと思わせるね。僕はこんなところには一日として住めないな。

B/ なにか心に鍵にまで鍵をかけてしまった家族というそんなイメージもあるわね。心の中にも言い知れぬ闇があるといったね。

J/ 特にニコール・キッドマンの頑なな態度にそんなところが見えているね。これだけの広いお屋敷で、女ひとりでふたりの子供を抱えて生き ていく、それは確かに骨の折れることではあると思うんだ。そのためか周りを寄せ付けないようなところがあるんだね。彼女はしっかりと 母親の顔になっていたな。

B/ 子供に対しての躾もかなり厳しいはよね。もっとゆとりを持ったらいいのにと見ていて思ってしまう。 まるで『がんばれリアム』の神父 さんが家にいるみたいなんだもの。

J/ ゆとりがないから、物事を素直に受け取ることができないんだね。子供たちのことや帰って来ない夫のことに囚われ過ぎて、目の前のこと しか見えない状態になっている。だから子供たちには見える霊も彼女には見えない。

B/ それでもひとり部屋で毛糸を編んでフッとくつろいだときには、突然霊の存在を感じてしまうことがあるのね。

J/ あのシーンの見せ方なんかはとっても上手いね。二階で大きな物音がして、キャメラがその物音のする方向に移動すると、シャンデリア が揺れてたりするんだよね。決して存在そのものは目に見えなくとも、何者かが二階で移動しているのが音と、キャメラの移動でもって わかるんだよね。多分ヒッチコックの『下宿人』とかを参考にした演出だと思うけれども。

B/ それでも彼女は最初はお手伝いの女性が、ドタドタと物音を立てて掃除をしているのだろうって思い込んでいるのだけれど、外を見ると屋 敷の人間全員が揃っているのがわかる。その時のショック。誰もいないはずのところから音がしてきているという事実を認めざるを得なく なった瞬間の怖さ。後から考えてゾーっと背中に寒いものが走るというタイプの恐怖なのね。

J/ 二階にいってみると、誰もいない部屋からお約束の(笑)ピアノの音が聴こえてくる。それでも彼女はまだ信じられないという気持ちで、 止せばいいのに、ピアノの鍵盤のふたに鍵をかけたり、色々と試してみる。部屋を出てドアを閉めるとまたピアノの音が聴こえてくるんで、 戻ってみると、鍵が開けられて、鍵盤のふたが開いている。

B/ 次第に霊の存在を信じざるを得ないような状況に追い込まれていくのね。その彼女の実験のお影で、私たちもだんだんと恐怖を掻き立てられ ていくことになるのだけれど(笑)

J/ そうなってくると、闇が突然怖くなり始めるね。家の中の光といったら薄暗いランプだけのただでさえ暗い部屋。そのランプの光によって できる陰の部分。カーテンの陰。物置に積まれている白い布がかけられた家具の群れ。暗い中にあるさらなる闇、これがとても怖い。こん な感覚って子供の頃は今よりもさらにずっと強かったような気がするけれど、そんな記憶の部分に訴えかけてくるんだな。

B/ なんとかしなければと思った彼女は子供たちを安全な場所に避難させて、家の中のカーテンをいっせいにあけて光を取り込み、何者かの 存在を追い出してしまおうとするわね。今まで暗かった部屋に光が差し込むシーンにはハッとするような美しさがあるわね。

J/ まさに映画は光の結集したものなんだね。光と影、これが映画そのものなのだとそのときフッと思ったな。

B/ 光が差し込むと今まで見えなかったものが突然フッと湧いてきたみたいに見えてくるじゃない。多分この屋敷に昔住んでいた人の肖像画だ とか。意外に見えると大したものじゃなかったりするのね。で私は思ったの。霊の存在を意識し、それに光を当てていく過程と、彼女が 自分と向き合い、自分の心の闇に光を当てていく過程が、この映画では並行して描かれていたんだと。

J/ 確かにそうだね。この映画っていうのは、自分を探しにいく話にもなっているんだね。そこに行き着いたときっていうのは、人間強くなれ る。特に母親はね。そんな話と霊の話がうまく絡み合っているところが面白いね。

B/ それにしても、光が当たって今まで見えなかったものが見えてきた。そこに実はもっとも怖いものが隠されていたわね。死化粧ほどこされ た死者たちの写真。私はゾーっと背筋に冷たいものが流れてしまったわ。

J/ みんなかつてこの館に住んでいた人たちのものだものね。不気味すぎるよね。

B/ 子供が描いた幽霊の絵と写真をつき合わせていくところ、はっきりとはわからないのだけれど、それらしき人たちが写っているのが、イヤ な感じでね。

J/ ああいった写真撮るのは、実はヴィクトリア時代後期のイギリスでかなり流行していたそうだよ。何せ生きているのに死化粧をした写真を 撮って保険会社に送り、保険金を騙し取ろうとした事件まで起こっているくらいだから(笑)

B/ それは別の意味で生臭い(笑)それにしてもこの映画、これでヴィクトリア時代というキー・ワードがふたつになったわね。

J/ 19世紀っていうのは、特に後半になると写真も残っている時代で、現代と地続きといったところはあるのだけれど、なぜかこういう無気 味さがあるね。切り裂きジャックもこの時代だし。

B/ 19世紀はまだまだ人の死に対して迷信のようなものを持っていたのじゃないかしらね。今に通じる時代なのに、そんなところがまだまだ 中世的だったりする。19世紀の前半には、「自殺者は、死者に杭を打って埋葬しなければならない」という法律さえあったくらいで。 自殺者は死に切れずこの世をさ迷うと考えられていたのかしらね。

J/ おそらくドラキュラが杭を打たれるのと同じところから来ているんだろうね。

B/ さすがにこの法律は19世紀中頃になると廃止されたのだけれど、「自殺者は夜中しか埋葬してはならない」といった法律が20世紀近く まで続くことになるのね。

J/ この屋敷はやっぱりなんかそうした19世紀を引きずっているんだろうね。この時代の死化粧をして写真を撮るという奇妙な習慣も、 死者を写真の中に閉じ込めて、その中において魂を生きさせ続けさせるという意味があるんだろうね。

B/ 写真に写ると魂が抜かれるとかよく冗談でいうけれど、この時代の人たちは本当に「魂が写真に宿る」という迷信を抱いていたのね。そん な19世紀の空気がまだ残っている屋敷、この雰囲気作りこそ、この映画のポイントかもしれないわね。

J/ で、こういう屋敷には、『レベッカ』のように古くからいる何かに取憑かれたかのようなお手伝いさんがいてと思ったら、本当にそんな 人たちがやってくる。

B/ 新聞に募集広告を出したら、使用人が3人やってくるのね。乳母兼料理人のおばさんと、老庭師、そして口の利けないお手伝いさん。この 3人の組み合わせがまたまた不気味でね。

J/ 突然ボーッと現れたような感じがある。どこか古めかしい格好をしていると思ったら、以前この屋敷に勤めていたことがあって、懐かしく てやってきたと言う。いやな感じだよね。

B/ なんか怖いわよね。謎めいていて。それで、どうもこの人たちのほうがこの屋敷のことをよく知っているで、そのことが頼りになるという よりは、時には不安を余計に掻きたてるようなところがあるわよね。

J/ ひとりは、何かこの屋敷で怖い目にあって、口が利けなくなったらしいというところまではわかるのだけれど、なにせ本人はしゃべること ができない。何か恐ろしい事件でもあったのではないか…おばちゃんはおばちゃんで、何かを隠しているし。彼らは一体なぜここにやって きたのか。

B/ もしかしたら彼ら自体がすでに死んだ人たちで、何かを探しにきたのか(笑)、それとも一家をだましてこの屋敷を乗っ取りたいのだろうか 、それとも何か過去の事件の清算をしにきているだけなのだろうか。いずれにしろ、企みがあるように思えてならないのね。

J/ そうなってくると、誰が善意で誰が悪意なのかさえわからなくなってくる。誰が生きているんだか、誰が死んでいるんだかさえもね。

B/ さっき、光と闇っていうことでこの映画のことを話していたのだけれど、結局光と闇というのだけでなくて、生や死も、現在も過去も、表 に出ている心と、心の闇の部分も地続きなんだって、この映画を観ていると思えてくるわね。

J/ 怖かったものが怖くなくなってくる。そんな不思議なホラー映画なんだね。これは。

B/ 多分、謎の部分に関して言えば、ヘンなあざとさがないので、わかってしまう人もかなりいるとは思うのだけれども…あなたはわかったっ ていってたわよね…そんなことよりもそうした奥に流れている部分が面白いから、とても納得できる映画なのね。観終わってホッとするし 、肩の力が抜けて救われるような気持ちになるのね。そういう意味では、必ずしもホラーという枠に括らないほうがいい映画かもしれな いわね。

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