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第115回「フェリックスとローラ」

フェリックスとローラ 監督…パトリス・ルコント
脚本…パトリス・ルコント
撮影…ジャン=マリー・ドルージュ
音楽…アラン・バシュング他
キャスト…シャルロット・ゲンズブール、フィリップ・トレトン
アラン・バシュング、フィリップ・デュ・ジャヌラン


2000年フランス映画(シネマパリジャン)/上映時間1時間29分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『フェリックスとローラ』はまず、舞台設定にとても惹かれてしまうね。

B/ 移動遊園地ね。移動遊園地の中の人間模様が面白い。明るい家族の声が響きわたる一方、その中にひっそりと潜む孤独な男、孤独な女の影。 いつも明るいネオンに包まれてにぎやかであればあるほど、その孤独は際立って見えるからねぇ。

J/ まさにそうなんだよな。その中でも、メインの舞台になるバンパー・カーは、まるで人生模様のようだね。あちらこちらぶつかる不器用な 人がいるかと思えば、器用に車をよける人ありで。

B/ その中にその女ローラはいたのね。回りのにぎやかさの中にポツンと取り残されたかのような暗い顔。あちらの車、こちらの車とぶつかり あい、錐揉みされながらも、まるでそんなことは気にならないかのように、ちょっとふてくされたような表情を浮かべ、自分の世界の中に どっぷりと浸かっているのね。それがとても異様に見える。

J/ その様子はドキリとさせらたね。この女ローラを演じるのは、シャルロット・ゲンズブールだね。目には濃いアイ・ライン、化粧の中にか つての「生意気シャルロット」の姿はなく、ありゃりゃ、ずいぶん変わっちゃったなって、最初はガッカリした。(笑)

B/ こんなにブスになっちゃったのかなってね。

J/ けれどね、こんな女の姿を見て、一体何があったのだろう、気にしない男はあるまいよ。

B/ バンパー・カーのオーナーの男フェリックスも当然気になり、この女に思わず声をかけてしまうのね。ひとめぼれとは違うと思うわ。その 謎めいた雰囲気に圧倒されてしまったというのが本当のところじゃないかしら。

J/ さて、この男顔を見てみれば、これまたびっくり、冒頭のシーン、酒場で歌手を狙撃した男なんだよね。一瞬違うかなとも思ったのだけれ ど。

B/ そうね、なぜびっくりするかと言えば、彼の置かれた状況が、決して恵まれないわけじゃないからなのね。

J/ 移動遊園地の仕事仲間の面々は、年とってなおかつ熊のぬいぐるみを一日かぶり、子供たちを驚かす人がいたり。いくつかの家族がトレーラーに住み こんで、その関係は仕事仲間というのを超えて、さらに友情を超えて家族的な愛に満ち溢れ、オーナーのこの男をも包みこんでいるといっ た感じなんだな。

B/ それもそのはず、フェリックスは子供のときからここに住みついて、みんなと仕事を共にしてきた間柄なのね。そんな男がなぜに冒頭の暴挙に及ん だか、ローラとの関係が始まる瞬間から、謎が謎を呼び観客の不安をいやが上にも掻きたてるのよね。

J/ さて次第に、ローラとフェリックスの仲は深まってくる。しかしローラは中々素顔を見せない。彼はただ今そばにいる彼女のことを愛するのみなんだ。 ローラはそんな彼の愛を受け入れながらも、突然姿を消してしまうこと、しばしで。悩みがあるなら助けてあげたい、そんな男の気持ちを 知っていながらも、過去も、それどころか今さえも決して明かしてくれないんだな。ツライよ、これは。

B/ ただ唯一見えるのは、彼女に忍び寄る過去の男の影。彼女の後ろをつける謎の車。遊園地の物陰にひそむ男の影なのね。

J/ 彼は、彼女の背後に注意を向ける。すると、バンパー・カーに一日中乗りつづける怪しい中年男がいるんで、問い詰めてみた。そしたら その昔遊園地で出会った女を探し求めているって言うんだ。ローラのことかと思い、その名を口に出すと、その男と恋に落ちたもうひとり のローラっていうのは今は亡く、それでも移動遊園地を見かければ、男はその思い出の破片を拾い集めているというんだね。

B/ 遊園地が楽しい思い出を作るところであるがゆえ、そうした人の思いも残るものなのね。ちょっと印象的なエピソードで良かった。しかも 彼がそんな男の姿に自分を重ね合わせて不安になってきているのがそれでわかるのね。男に奇妙な連帯感みたいなのを感じているのよ。

J/ そんな不安にかられるフェリックスのところに数日来姿を隠していたローラが戻ってくる。彼は今度こそ、彼女に悩みを打ち明けるよう懇願するね。 「勇気を出してプールの飛びこみ台から飛び降りるような気持ちになって、そうすれば、後すっきりできる」と。

B/ ローラは自分が、今あたかも飛びこみ台に立っているかのようなイメージを連想するのね。背後より早く飛び降りろとはやし立てる子供た ちの声。ワンピースの女学生のような水着に身を包み、不安に震えるローラのその顔には、もはや化粧もなく、その表情は、『なまいきシ ャルロット』の頃のシャルロット・ゲンズブールのような幼さをも見せているのね。もう30歳というのに、思春期みたいな顔をしている のよ。

J/ なぜ、この映画に彼女が起用されたかが、わかった瞬間でもあった。秘密をついに打ち明けるローラ。しかし、彼女が本当にプールの中へ 飛びこめたのか、そのイメージの結末は結局明かされることはないんだね。このあたりは本当にうまいね。

B/ それが再び見えるのはこんなシーン。フェリックスが証明用3分間写真機の中に入りこんだローラに言う。数分後に自分の気持ちを打ち明け てくれと。「笑顔なら幸せいっぱい、愛は続く」「確信がなければ真面目な顔で」写真に写ってくれって。彼女が去った後、期待を持って その写真を見てみれば、なんとそこには後ろ向きでただ長い髪の毛が写るだけの奇妙な写真でね。いまだ彼女は自分の本当の気持ちを彼に 伝えられないほど、心を開いていないというのがわかるわね。

J/ 最近の『アメリ』の怪傑ゾロにも決して劣らない、見事なシーンだと思うよ。

B/ こんな風に少し心を開いたかと思いきや、それはまたすぐさま固く閉じを繰り返し、なかなか出口が見えないこの恋の行方。遊園地の仲間 たちも当然それを心配しているわね。彼女から来てからの彼は変わってしまったと。最近の彼は考えこむことが多くなったと。けれどわか ってはいるけれど、決してそれは口には出さない。優しく彼を見守っているという感じ。

J/ けれどもローラの「私が来てから彼が変わった?」というちょっと意地悪い質問に、一旦はその思いを口に出しかかるのだけれど、思い とどまって「彼はいいほうに変わった」と答えるんだね。彼女への優しさということもあるけれど、それ以上に彼らの彼に対する厚い信頼 と、彼への温かい気持ちが感じられる。大人同士の素敵な関係なんだな。

B/ そんなんで、いつまでもたっても彼女の謎は消えることもなく、フェリックスは心かき乱され、観客の不安は高まっていく。物語が進めば 進むほど、冒頭のシーンの破滅がヒタヒタと迫ってきているかのように思えるからなのね。果たしてふたりの行く末は…

J/ おっと、その辺で止めとこうね。と言っても、これだけは言わなきゃこの映画を語る意味はないから、ちょっとだけ言っておこうね。
(これから映画をご覧になられる方は、ここから先はご自分のご判断でお読みください)

パトリス・ルコントの今度のこ映画は一見ファム・ファタールの物語の典型と思わされる。謎の女、破滅に向かう男。さまざまな、小道具 を散りばめて、謎を残したまま進んでいく、そのストーリー展開は飽きさせられることはない。しかも、そのストーリーの先のある一瞬で、 この物語は、一気にひっくりかえってしまうんだからね。

B/ ファム・ファタールの物語が一転して少女に留まったままの、孤独な女と、真実の愛に目覚める男の物語へと転換するのね。しかもその転 換ぶりには驚かされこそすれ、騙されたという気にはさせられないから不思議なのね。

J/ 映画が終わった後、物語を反芻すると、ひとりの未成熟な女のストーリー、その柱が鮮やかに見えてくるからだと思うな。

B/ さっきも言ったようにローラの化粧、後ろ向きに写った写真、彼女の一挙一投足が、そういう方向に向かって進んでいたことに気づかされ るからなのね。

J/ ローラの化粧が段々変化していき、最後には彼女の素顔に近い形になるのがいいと思った。思いもよらないハッピー・エンドで嬉しくなっ ちゃった。見終わったあと、シャルロット・ゲンズブールの魅力を再発見した思いがしたね。この映画は彼女あっての映画とも言えるよ。

B/ ル・コントの話術はますます絶好調といったところね。とってもフランス映画らしい映画で、堪能させていただいたわ。あまりお客さんが 入っていなかったのが、つくづく惜しい映画だった。

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