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第114回「アメリ」

アメリ 監督…ジャン・ピエール・ジュネ
脚本…ジャン・ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
撮影…ブリュノ・デルボル
音楽…ヤン・ティルセン
キャスト…オドレイ・トゥトゥ、マチュー・カソヴィッツ
ヨランド・モロー、ドミニク・ピノン


2001年フランス(アルバトロス・フィルム配給)/上映時間2時間1分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『アメリ』は観終わって本当に心が温かくなって帰ってこれる映画だった。いいよー、これ。

B/ 監督があの『デリカテッセン』のジャン・ピエール・ジュネだから、映像表現とか色彩感覚は独特なのだけれど、それがなぜだか映画の内 容と見事に調和しているわね。

J/ アメリが頭に思い浮かべたことが、画面の脇のほうに映像となって出てくるなんて表現方法は、コンピュータ処理で編集できる今ならでは の新しい方法だったりするのだけれど、妙に懐かしいような味わいの映画になっているところがいい。

B/ 私はこの映画を観ていて、やっぱり映画は目新しさだけではダメで、お話や細部がきちっとしていることがいかに大切なことかってことを 改めて認識したわね。

J/ すべてロケでやっているそうなのだけれど、完全にパリの街がジャン・ピエール・ジュネの世界になってしまっているところがスゴイと思 った。

B/ 始まり方がとっても好きなの。誰々が何々している頃、道路に一匹の虫が…(笑)『巴里の空の下セーヌは流れる』風な詩的なパリの街のイ メージで始まったようにみせかけておいて…オチがある。映画の全編にこのトボけた雰囲気が流れていて、そこがこの監督のテイストを象 徴しているんだなって感じたわね。

J/ お話の始まり方は、実はイタリア映画の古典『ミラノの奇蹟』にとてもよく似ている。初めにアメリの子供時代の話がサラッと語られてい く。なぜ彼女が自分の想像の世界に閉じこもるようになったかとか、短いんだけれども納得いくように説明されているし。お伽噺的なテイ スト、スラップスティック的な雰囲気に通じるものがある。「人生は素晴らしい」って言って、人々に善意を施したトトと、善意に目覚め て、隣人に思わぬ仕掛けをしていくアメリ…あの無垢さって通じるものがないかな。

B/ 本当にちっぽけな善意なのね。それを人に気づかれないようにそっとやるところがいい。仕返しにイタズラをするのも、善意を施すのも 同じスタンスで(笑)

J/ これは、アメリの控えめな、というより内気さからきているのだけれどね。それがとても可愛らしい。

B/ さっきスラップスティックって言ったけれど、フランス的なエレガンスさがあるわね。一番似たテイストを持っているのは、ルイ・マルの 『地下鉄のザジ』。早いカット割りや、途中を省略して、早回しみたいにして動作を積み重ねていくあのスラップスティック風の味わいは、 まさにこれ。コンピュータで処理しているからより動きはスムーズだけれど。

J/ それと『スモーク』のテイストも入っていた。あの煙草屋さんの写真のエピソードと、証明用インスタント写真機のゴミ箱に入っていた捨 てられた写真の謎なんてところとか。

B/ ある意味でお伽噺の王道をいっているし、ヌーヴェル・ヴァーグの時代の香りも入っているし、人情喜劇の王道もいっている。そして表現 が新しい。『ラン・ローラ・ラン』辺りから『ムーラン・ルージュ』にいたるまで最近増えてきたコンピュータを駆使した新しい編集の中 でもこの映画は、特別に光っているわね。

J/ なぜ光っているかと言えば、やっぱり基本の部分に古典の良さをしっかり取り入れているからこそなんだね。こんな映画を観ると映画の新 しい可能性みたいなものまで見えてきて、とても嬉しい。

B/ 懐かしい味わいなのに、とても新しい映画!

J/ 人それぞれには趣味があってていうのも、とても好きだったなぁ。アメリの水切り。何かあると、彼女はそこで石を拾ってポケットに入れ る。その思いが詰まった石を運河に持っていって、水切りをする。人から見ればヘンなのだけれど、その人にとってはかけがえのない趣味、 こんなのあるね。きっと。

B/ まあ、そんな素敵な趣味は私にはないけれど。せいぜいビニールの気泡を潰す程度のものだけれど。

J/ 物語は細かいエピソードの積み重ねになっている。アメリの住むアパートの住人たちの物語。それぞれが色々な悩みを抱えている。アメリ は、そんな彼らにちょっとした潤いをもたらす。ささやかなイタズラみたいな方法で。

B/ それがねぇ、とっても可愛いのね。アメリの善行っていうのは、彼女自身が子供時代から空想の中の動物たちとおしゃべりをしていてって 事情があるから、間接的になるのだけれども、それがかえっていじらしく見える。人によっては押し付けに見えちゃうことも、彼女がやる と、そうは見えない。アメリカ映画ではこうはいかないわね。

J/ 彼女を精神的に支える役割を果たすのが、下の階に住む老画家。彼は毎年ひとつだけ、同じ絵を描きつづけている。ルノワールの「ボート 漕ぎの昼食」っていう絵なのだけれど、大勢の人たちが昼食を囲んで楽しそうに談笑している中にひとりの少女がいる。彼女だけが、何か 別の世界にいるかのような表情でこちら側を見ている。画家はそれがうまく描けないと毎年この絵を描き続けている。

B/ アメリは彼女に自分を見出したのね。人々に囲まれながらも、何かその中にいない自分みたいなものを。人は好きなのだけれど、どこか他 にいるような自分を。彼女は映画館で映画を観ている人たちの表情を見るのが好きだっていう子だから。

J/ 彼女が絵の中の少女のことを解釈する振りをして、いつしか自分自身を彼に話すようになる。画家もそれがわかってきて、彼女に絵の話を するフリをして、彼女に色々アドバイスをするようになる。彼女にとっては無理がないよね。

B/ 結局、あの絵を通してお互いが自分の空白の部分を埋め始めるのね。

J/ この映画っていうのは、みんなが自分の空白を埋めていく、その過程なんだね。それがあるときは絵であったり、捨てられた写真の断片で あったり、こなかった手紙であったりするわけで、表現が象徴的になっているのが、とても素敵だと思った。

B/ 彼らが幸せを取り戻すのに必要なものは「モノ」ではなくて、もっと精神的なものであるところがいいわね。人生がうまくいっていない人 がふと手にした子供時代の宝物。本当につまらないものなのだけれど、それが意味することの大きさといったら。「物質」ではなく、「精 神」なのね。

J/ そもそも善行の最初のキッカケはダイアナの事故死のニュースだったというのも面白いね。ビックリして手に持っていたものを落とすとそ れが転がってって、連鎖的に物語が動いていく。結局ダイアナの事故死が最後はアメリの恋に結びつく。

B/ ファースト・シーンの誰々が何をしている頃・・・っていうのがずっと流れているのね。まるでケビン・ベーコンが誰に繋がっていくかって いう遊びみたいに、物語が転がっていく。

J/ でもそれだけじゃ核になるものがなくって、散漫になっちゃうのだけれど、そこに証明用インスタント写真機のゴミ箱に入っていた謎の男 の正体を探すっていうミステリー要素が加わることで、一本の流れを作っているんだ。その辺りの話の進め方がとってもうまいんだな。

B/ アメリが恋をする青年ニノの職業というのがまた面白いわね。セックス・ショップの店員とお化け屋敷の骸骨。「生と死」のイメージなの ね、これは。その彼が捨てられた証明写真を集めている。どこの誰だか、何をしているのかわからない人たち。彼もまた人の温もりを求め ている人なのね。でも直接的にはできないでいる。なんかフワフワと現世を漂っているような雰囲気といったらいいかな。

J/ その彼の写真の中に、どこにでも出没している謎の男の写真が入っている。生きているのか、死んでいるのか。これを捜し求めることの意 味。アメリが探しているものと、ニノが探しているもの、これがこの謎の男を介して交叉してくるんだね。

B/ お互い求め合う部分が重なってくるのね。この男の正体を知るときこそ、ふたりの間に何かが通じ合う、そのときこそふたりが殻を破れる というのが、とってもよくわかるような気がするわね。

J/ だから、物語の流れとしてアメリのささやかなイタズラから、恋の物語となってくることは何か必然という感じがする。

B/ とても自然な流れでね。観ていて、ガンバレって応援したくなっちゃうのね。

J/ 彼女自身の力だけではなくて、回りの人たちからのバック・アップがあるのもいいね。彼女の善行の積み重ねが、今度は彼女自身に返って きているんだね。こういったところもとても気持ちいいな。

B/ もっとも、すべてがうまく行くわけじゃなくて、彼女の力をもってしても何も変わらないという苦い部分があるのがとてもいいと思うけれ どもね。だからってすべてがそううまくいかないぞーって、微かな現実もちらっと見せるのね。

J/ きっと、「アメリが恋をしているぞっ」ってささやいていた豚さんのスタンドや、壁の絵の動物たちも、これで安心して休めるだろうね。

B/ そして、またパリの街のどこかで、色々な人生が続いていく。なんかいいわね、こういう優しい映画って。映画館を出たあと誰かに親切に したくなっちゃうような映画。何度でも観たくなってしまう本当にいい映画だった。

J/ ジャン・ピエール・ジュネはマルク・キャロと離れて良かったかもしれないね。

B/ 彼のこれからがますます楽しみになってくるわね。

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